「……何で凉乃と兄貴がここにいるんだよ?」
「それはこっちのセリフなんだが?」
全く状況を理解していない俺だったが兄貴も同じらしい。すると俺の隣に座ってキャラメルフラペチーノを飲んでいた夏乃さんが口を開く。
「ああ、私が凉乃ちゃんにメッセージを送って綾人をここに呼んだんだよ」
「なるほど、夏乃さんの仕業だったんだ」
「……まさか俺と凉乃に何か重要な話でもあるんですか?」
夏乃さんの言葉を聞いて納得していると兄貴は明らかに動揺した顔でそう声をあげた。一体何を想像しているのかは知らないがまるでこの世の終わりみたいな雰囲気になっている。
「ちなみに綾人は何だと思う……?」
「綾人君が死にそうな顔になってるからもったいぶらないで早く話してあげてよ」
中々本題に入ろうとしない夏乃さんに対して凉乃はジトっとした視線を送りながらそう抗議をしていた。相変わらず凉乃は優しいな。
「もう凉乃ちゃんはそうやってすぐせかすんだから。まあ、久々に四人で楽しくお話をしたかってだけの理由なんだけど」
「……えっ、たったそれだけ?」
「うん、凉乃ちゃんが昔みたいに四人で集まりたいってこの間言ってたし」
兄貴は拍子抜けしたような顔になっていた。俺も何か深い理由があっての事だと思っていたため意外な気分にさせられている。
そして短時間のうちにコロコロと表情が変わる兄貴を見てちょっと面白かった事は内緒だ。
「あっ、お姉ちゃん覚えててくれたんだ」
「当たり前じゃん、私を誰だと思ってるの?」
そう口にした夏乃さんはかなり得意げな様子だった。高校時代に学年一位を取り続け現役で最難関私立大学である
「確かに最近四人で集まって話す事なんてなかったな」
「だから私とお姉ちゃん、綾人君、結人君の四人で久々に集まりたかったんだよね」
俺の言葉を聞いた凉乃はニコニコした表情を浮かべていた。それから凉乃と兄貴は飲み物を買ってきてから俺達の対面のシートに座る。
兄貴は夏乃さんの対面に座りたかったようでそっちを選んだ。そのため俺の対面には消去法によって凉乃が座っている。
これは俺にとっても兄貴にとっても需要が一致しているため何も不満はない。そんな事を思っていると兄貴が夏乃さんに話しかける。
「そろそろ六月も半分くらい終わりますけど夏乃さんは大学生活にはもう慣れました?」
「二ヶ月くらい経ってようやく違和感が無くなってきた感じかな」
「そう言えば高校までとは違うからなんか変な感じがするってお姉ちゃんしばらく言ってたもんね」
そんな感じの話は俺も夏乃さんから何度も聞いた記憶がある。大学の授業は九十分もあるから長過ぎるという話は何度も聞いた。
「そう言う綾人は高校生活はどうなの?」
「テストの成績もずっと一位でサッカー部もレギュラーに選ばれたので結構順調です」
夏乃さんに自分の事を聞かれて嬉しかったらしい兄貴は少しテンションが高めだ。
「そっか、確か結人も七位だったはずだし兄弟揃って優秀じゃん」
「綾人君も結人君も凄いね、私なんか割と良かった今回でも真ん中より少し上くらいだったしさ」
キラキラした眼で俺と兄貴を見てくる凉乃に対して俺は凄まじい敗北感を覚えていた。一位と七位という差は近いようでめちゃくちゃ遠い。俺がどれだけ頑張ってもこの差は一向に埋まる気配がないのだ。
いや、帰宅部で時間がある俺よりもサッカー部の兄貴の方が成績優秀な事を考えるとむしろ引き離されているかもしれない。
一人で落ち込んだ気分になっているとポケットに入っていたスマホが振動する。スマホを取り出して画面を見るとそこには黒い下着だけを身につけたあられもない夏乃さんの写真が表示されていた。
「!?」
俺は驚き過ぎてスマホを床に落としてしまった。どうやら夏乃さんがスマホの画面共有機能を使って俺に送ってきたらしい。いやいや、こんな時に何を考えてるんだよ。
「結人、急にどうしたの?」
「何でもないです」
すっとぼけた顔で平然とそんな事を聞いてくる夏乃さんを適当にあしらいつつテーブルの下に落ちたスマホを回収しようとしていると、もう既に凉乃がしゃがみ込んで拾おうとしていた。
やっぱり凉乃は優しいなと思っていた俺だがすぐにまずい状況である事に気付く。凉乃にスマホを拾われると裏側に貼ってある夏乃さんと撮ったプリクラの存在がバレてしまう。
あれを見られてしまうと色々厄介な事になりそうな未来しか見えない。だから俺は慌てて声をあげる。
「あっ、凉乃ちょっと待て!?」
だから俺は凉乃を制止して自分の手で直接回収しようとしたわけだが残念ながら手遅れだったらしい。凉乃はしっかりとプリクラを見てしまったのだ。
「えっ、いつの間に二人でこんなプリクラ撮ったの!?」
「ちょっと俺達にも詳しく教えてくれよ?」
プリクラを見て驚いた様子の凉乃に対して兄貴はあからさまに不機嫌そうな表情になった。あれもこれも全部変な写真を送りつけて来た夏乃さんのせいだ。