夏乃さんと箱根に行ってから数日が経過した今日、俺はショッピングモール内にあるビュッフェに来ていた。
今日は一日中球技大会であり今は仲の良いクラスメイトの
「俺達のチームは惜しくも二位だったけど楽しかったな」
「ああ、皆んなめちゃくちゃ盛り上がってたし結果オーライだわ」
「学園祭では絶対にリベンジを果たそうぜ」
「今度こそ一位を取ろう」
俺達は料理を食べながらそんなふうに盛り上がっていた。ちなみに球技大会のチームは夏休み明けにある学園祭のものと同じだったりする。
うちの高校の学園祭は三学年混合の八チームに別れて競い合うため俺達二年四組は三年七組と一年一組と組んだ一つのチームだ。
二年生と三年生は文理でクラスが分かれていて男女比が偏っているた必ず逆と組むようになっているらしい。男子だらけや女子だらけのチームができてしまうと明らかに不公平なため当然だろう。
「でもやっぱり九条兄は本当に強いよな」
「綾人って確かサッカー部だっけ? そうとは思えないくらいバレーも上手かったんだけど」
「だな、俺達のチームが二位になったのも綾人のチームに負けたからだし」
俺達は兄貴のチームと首位争いをしていたが最後の最後で負けてしまった。その時の試合メンバーはクラスの中でも運動神経が良い精鋭ばかりだったがそれでも勝てなかったのだ。
そもそも向こうの試合メンバーもかなり強かったわけだがその中でも兄貴は本当に飛び抜けていて、バレー部員と言われても違和感ないくらい活躍していた。
「マジで綾人がうちのクラスだったら良かったのに」
「確かにあいつがいたら多分俺達のチームが優勝してたよな」
「九条兄ってマジでチートだろ」
そんな話をしていた三人だったが黙り込んだまま曇った表情になった俺を見てやらかしてしまったと言いたげな顔になる。
「で、でも結人が結構サーブで点を決めてくれたおかげで勝てた試合もあったよな」
「そうそう、結人の活躍も俺達はちゃんと知ってるから」
「お前の兄貴が凄すぎるだけだから気にする必要無いって」
そう言って必死に励まそうとしてくれていたが正直全嬉しくない。そしてそれ以上にこんなくだらない事で友人達に無駄な気まで使わせてしまって本当に情けなかった。
これ以上この場にいられなくなってしまった俺はトイレに行くふりをして一旦店の外へと出る。気分が落ち着くまで少し気を紛らわせる事にしよう。
そんな事を考えながら歩いていると俺と同じ学校の制服を着た男女が前の方を歩いている姿が目に入ってきた。もしかしてデートでもしているのだろうか。
そう思っていると角を曲がったタイミングで二人の顔がほんの一瞬だけだが見えた。二人の顔を見て俺は思わず声をあげる。
「……えっ?」
それは間違いなく兄貴と凉乃だった。凉乃は俺にも見せた事が無いような笑顔を浮かべており本当に幸せそうな様子だ。
「そっか、やっぱり凉乃は兄貴と一緒か……」
日曜日に二人でデートしていた事を夏乃さんから聞いていたため仲が進展したかもしれないとは思っていたが実際に目にするとその衝撃は凄まじかった。
精神的に大ダメージを負った俺がその場に立ち尽くしていると突然誰かに肩を叩かれる。反射的に後ろを振り向くとそこには見覚えのある顔が立っていた。
「後ろ姿が似てるなって思って肩を叩いたらやっぱり結人だ」
「……何でこんなところにいるんですか?」
俺がそう尋ねると夏乃さんはニコニコした表情で口を開く。
「授業終わりにショッピングで寄ったからだけど」
「大学近くにもっと大きいショッピングモールがあったはずですけどそっちには行かなかったんです?」
「今日はこっちの気分だったんだよね。結人こそ何でいるの?」
「ほら、うちの高校って今くらいの時期が球技大会じゃないですか。今日はその打ち上げで来てるんですよ」
夏乃さんに理由を聞かれた俺はそう正直に答えた。別に隠すような事ではないし。
「なるほどね、って事は打ち上げはこれから?」
「いや、ちょうど今やってる最中です。まあ、俺はちょっとトイレで店から出てますが」
「じゃあ早く戻らないと皆んな心配してるんじゃない? 結構長い間そこで固まってた気がするし」
「あっ、もう十五分も経ってる……」
一応トイレと言って店の外には出ていたがそれが目的ではない事なんてバレバレだったはずなので間違いなく心配しているに違いない。
「俺戻りますね」
「ちょっと待って、私も一緒に行くよ」
「……えっ、今なんて言いました?」
夏乃さんが突然そんな事を言い始めたため俺は思わずそう聞き返した。一緒に来ると聞こえたような気がするのは聞き間違いだろうか。
「だから一緒に行くって言ったんだよ、せっかくだから結人の友達に挨拶しておこうと思って」
「いやいや、そんな事する必要ないですって」
「別に照れなくても良いじゃん」
しばらく攻防を繰り広げる俺達だったが結局夏乃さんに押し負けてしまった。まあ、こうなった夏乃さんに勝てた試しなんて無かったため当然か。
「くれぐれも余計な事だけは言わないでくださいよ」
「大丈夫だって、お姉ちゃんは絶対そんな事しないから」
俺は夏乃さんと一緒に店へと戻る。三人は俺が帰ってきて安堵の表情を浮かべたが、すぐに隣にいた夏乃さんを見て困惑した顔になった。
「なあ、結人。隣にいる美人なお姉さんは一体誰だ?」
「この人は……」
俺が説明をしようとした瞬間夏乃さんはニヤッとした表情を浮かべてとんでもない事を口にする。
「結人の彼女の結城夏乃です、皆んなよろしくね」
夏乃さんはさらっと凄まじい嘘をついた。