約十分ほどロープウェイで移動をして早雲山駅へと到着した俺達はケーブルカーに乗り換えて箱根湯本駅へと向かい始める。
フェイズワンのボウリング勝負がきっかけで行く事になった今回のプチ旅行もついに後少しで終わりだ。昨日から夏乃さんに散々振り回されっぱなしだったわけだが、なんだかんだで楽しかったためちょっと名残惜しい。
「この土日の二日間は本当にあっという間だったね」
「そうですね、夏乃さんと色々行けて楽しかったです」
「うん、私も結人と遊べて大満足」
夏乃さんはご満悦な様子だ。ここまで楽しそうな夏乃さんを見るのは久々なので心の底から満足しているに違いない。
「あっ、分かってるとは思いますけど俺と一緒に行った事だけはくれぐれも内緒にしておいてくださいよ」
「分かってるって、相変わらず結人は心配性だな」
「バレたら本当に面倒な事になりかねないですからね」
もしうっかり俺と一緒に行った事を話されてしまうとお喋りな凉乃を経由して兄貴にも間違いなく知られてしまう。それだけは本当に勘弁して欲しい。
「てか今思ったんだけど買ったお土産で箱根に行った事が綾人にもバレるんじゃない? 私はもう既に箱根へ行った事をSNSでつぶやいているから、同じタイミングで行ってたら絶対怪しまれそうな気がするけど」
「ああ、兄貴や父さんには新宿駅で別にお土産を買ってしっかりと偽装工作をするつもりなので大丈夫です」
新宿駅には関東地方全般のお土産が売ってる場所があるため適当に千葉か埼玉、茨城辺りのものを買って誤魔化すつもりだ。
お土産を見れば兄貴と父さんも勝手に行き先を勘違いしてくれるに違いない。そしてそれっぽくでっちあげた旅行先でのエピソードを話せば偽装工作は恐らく完璧だろう。
ちなみにそばや黒カレーなど実際に買った箱根土産に関しては口止めをした共犯者の母さんにだけこっそりと渡す予定だ。
「へー、その辺はしっかりと抜かりなく考えているんだね」
「俺の事を舐めてもらっちゃ困りますよ、保身に走る事に関しては超一流ですから」
「そんな事をどや顔で言っても全然格好良くないって」
俺の言葉を聞いた夏乃さんはくすくすと笑っている。しばらく二人で楽しく話しているうちにあっという間に時間は過ぎ去り箱根湯本駅へと到着した。そこでロマンスカーへと乗り換える。
「そう言えば凉乃ちゃんと綾人のデートはもう終わったのかな?」
「……えっ?」
「あれ、知らなかったの? 凉乃ちゃんは綾人と今日二人でデートをしてるはずだよ」
「完全に初耳です……」
兄貴と凉乃がデートをしてる事なんて今初めて知った。明らかにテンションが下がった俺に気付いてないのか夏乃さんはそのまま話し続ける。
「今日はショッピングに行ってその後、私の家で遊ぶんだって。今日はパパもママも夜まで家には帰って来ないらしいから二人が羽目を外してないといいけど」
「……流石にそんな事はないと思います」
俺は自分に言い聞かせるようにそう言葉を口にした。そもそも二人はまだ高校生なんだからそんな事をしているとはとても思えない。
「普通に考えたらそうだけどもしかしたら分からないよ。この間も凉乃ちゃんからも初めてってどのくらい痛いのか質問されたばかりだし」
「き、興味本位で聞いただけでしょ……」
俺はなるべく平静を装っているが内心はめちゃくちゃ動揺している。凉乃と兄貴がそういう行為をしているなんて正直考えたくなかった。
「そうだよね、凉乃ちゃんがお姉ちゃんより先に大人の階段を上るなんてまずあり得ないか」
「そうに決まってますって、何も心配なんていらないです」
そもそも兄貴の予定すら聞けないほど奥手な凉乃が誘えるとは思えない。それに兄貴も夏乃さんの事が好きなため妹である凉乃に手を出す事なんて無いはずだ。
そう認識していても万が一の事が頭をよぎってとにかく落ち着かなかった。さっきまでの楽しかった気分が一気に台無しになった事は言うまでもない。
まさか今回のプチ旅行は俺に凉乃と兄貴の邪魔をさせないために夏乃さんが計画的に仕組んだとかじゃないだろうな。
いや、いくら何でもそれは流石に考え過ぎか。でも否定も仕切れないし、やっぱり怪しい気がする。そんな思考の無限ループに陥っている間にかなりの時間が経っていたようで気付けば新宿駅に到着していた。
「じゃあ後はパパッと買い物をして帰ろうか」
「……えっ、何をですか?」
「さっき偽装用のお土産を買うって言ってたじゃん、ひょっとしてもう忘れちゃったの?」
「ああ、そうでしたね……」
凉乃と兄貴の事を考え過ぎていたせいで危うく忘れるところだった。昔から自分の世界に入ると周りが見えなくなって一つの事しか考えられなくなるため本当に注意が必要だ。
それから俺は新宿駅のお土産売り場で適当なお土産をいくつか買った。勿論行き先を偽装するためにお土産はしっかりと厳選して選んだ事は言うまでもない。こうして箱根へのプチ旅行は幕を閉じた。