箱根神社の平和の鳥居を後にした俺達は次の目的地である元箱根港を目指して歩いていた。元箱根港から船に乗って芦ノ湖クルーズをする予定だ。まあ、クルーズと言っても三十分くらいの短いものではあるが。
「遊覧船と海賊船があるみたいですけど、どちらに乗ります?」
「箱根ロープウェイの乗り場がある桃源台港に停泊するのは海賊船だけだから今回乗るのはそっち」
「なるほど、船によって泊まる港も違うのか」
雑談しながら十五分ほど歩いているうちに元箱根港へと到着した。俺達はチケット売り場の列に並んで乗船券を購入するとそのまま海賊船へと乗り込む。ちょうど搭乗時間がすぐだったため待ち時間はほどんど無かった。
「中々お洒落な船ですね」
「だよね、ちなみに船体は実在していた西洋帆船戦艦がモデルなんだってさ」
俺と夏乃さんは船の中を歩き回り始める。船内にはマスケット銃や大砲のオブジェが設置されていたため結構雰囲気が出ていた。かなりその辺りの設定を重視しているようだ。
そんな事をしていた間に出航時間となり船が動き始める。俺達は船室ではなくデッキから景色を楽しむつもりだ。
「夏乃さんあそこを見てください、さっき行った箱根神社の平和の鳥居が見えますよ」
「本当だ、海側のこっちから見ても綺麗」
夏乃さんは鞄からスマホを取り出すと写真を撮っていた。先程とは違い船上からであれば並ばなくても綺麗な写真が撮れるためちょっとお得な気分だ。それから少し進むと今度は船の前方に富士山が見えてきた。
「六月はあんまり富士山が綺麗に見えないかもって聞いてたからラッキーじゃん」
「そうなんですか?」
「うん、今くらいの時期は天気とか気温の影響で富士山に雲がかかって見えにくくなる傾向にあるらしいから」
「あー、確かに暖かくなると水蒸気がのぼりますもんね」
なるほど、そう考えたら俺達はめちゃくちゃ運が良いのかもしれない。俺達は二人で富士山をバックにして何枚か写真を撮った。
「我ながらめちゃくちゃ良い感じに撮れてる」
「ですね、これは中々クオリティ高いと思います」
「じゃあLIMEの新しいアイコンにしようかな」
「お願いですからそれだけは絶対に辞めてください」
アイコンなんかにされたら凉乃と兄貴に二人でプチ旅行している事がバレてしまう。夏乃さんはちょっと不満そうな顔をしていたがそれだけは何があっても絶対に譲れない。
「そう言えば今更なんですけど夏乃さんって今回の件は家族にどう伝えてるんですか?」
「普通に友達と旅行に行くって言ってあるよ」
「なら俺と行っているって事までは話してないんですね」
夏乃さんの言葉を聞いて安心したのも束の間とんでもない事を言い始める。
「まあ、もしかしたらママは私が男の子とお泊まりしてるって事にはうすうす気付いてるかもしれないけど」
「それって結構やばく無いですか!?」
夏乃さんは平然とした顔でさらっと口にしたが大丈夫なんだろうか。
「ああ、心配しなくてもママって割と放任主義だから。もし私が誰かとそういう関係になっても何も言ってこないと思うな」
「そ、そういう関係って……」
恥ずかしげもなくそう言葉を話した夏乃さんを見て俺は明らかに顔が熱くなり始める。すると夏乃さんはそんな俺の様子を見ながらニヤニヤし始める。
「あっ、そういう関係っていうのは勿論男女が愛を育むあれの事だよ。世間ではエッチとかセックスってよく言うね」
「そ、そんな事わざわざ説明されなくても分かってますって」
心臓に悪いから白昼堂々とそんな言葉を言わないで欲しい。こう見えても俺は一応健全な男子高校生なのだ。
「まあ、私が初めてを捧げる相手はもう決まってるんだけど」
「夏乃さんって経験無いんですか!?」
俺は思わずそう発言してしまった。夏乃さんは昔からめちゃくちゃモテていたため、てっきり既に経験済みだと思っていたのだ。
「やっぱり結人もそう思ってたんだ」
「ご、ごめんなさい」
「まあ、自分で言うのもあれだけど私ってかなりモテるから経験豊富だって勝手に勘違いする人は多いんだよね」
謝罪した俺に対して夏乃さんは特に気にした様子も無くそう答えた。先程の発言で夏乃さんを傷付けてしまったかもしれないと思ったためひとまず安心だ。
しばらくデッキで景色を堪能した俺達は船内へと移動し、二人で船内売店を見ていると変わったものが目に入ってくる。
「何だこれ?」
「金塊スイーツって書いてあるけど中に何が入ってるのか分からないね」
俺達の目の前には金の延べ棒の形をした何かが置いてあった。しかも海賊船内の売店だけで買える限定販売の商品らしい。
一体どんなスイーツなのか気になった俺達は二本購入する事にした。そして座席に座った俺達は早速金塊スイーツの箱を開ける。
「へー、金塊の中身はパウンドケーキなのか」
「味もチョコレート風味で結構美味しい」
朝から動き回っていて小腹が空いていたため本当に美味しかった。だからあっという間に完食をしてしまった事は言うまでもないだろう。