洗い場で体を洗い終わった俺達は二人で湯船へと浸かる。浴槽は二人で入ってもまだかなり余裕のあるゆったりサイズだ。まあ、家族風呂だから当然か。
「やっぱり昔より男らしい体つきになったね、子供の頃よりもだいぶゴツゴツしてる」
「十七歳でもう成長期もほとんど終わりかけてますからね、男らしくなってないと流石に困りますよ」
ちなみに四月にあった健康診断では去年測った時よりもたった一センチしか伸びていなかったため身長に関しては残念ながらこれ以上期待できない。
兄貴と同じ身長である百八十センチは高望みだとしてもせめて百七十五センチくらいは欲しかったため成長期がもう少しだけ続いて欲しかった事は言うまでもないだろう。
「私の体も子供の頃と比べて女らしくなったでしょ? 例えば胸とかお尻とかさ」
「それはノーコメントで」
隣にいる夏乃さんには一切目もくれず俺は壁だけを見つめてそう答えた。湯船の中という事で夏乃さんはタオルなどを一切巻いていない。
つまり夏乃さんの体を隠すものは一切無く何もかもが丸見えの状態だ。だからもしうっかり夏乃さんの方を向いてしまうと色々とまずい事になりかねない。
「もう、せっかく小学生の頃以来一緒にお風呂に入ってるんだからもっと喜んでくれてもいいのに」
「そもそも高校二年生の俺と大学一年生の夏乃さんが一緒に入ってる事自体が大問題だと思うんですけど」
さっきも言ったが今とあの頃とでは状況があまりにも違い過ぎる。付き合っている男女が一緒にお風呂へ入るならまだ分かるが、俺と夏乃さんはカップルですら無い。
「お姉ちゃんと一緒にお風呂に入れる機会なんて今後はもう二度とないかもしれないよ?」
「いやいや、確かさっきまた誘うとかって言ってましたよね?」
やや不満そうな態度で話しかけてくる夏乃さんを俺は適当にあしらっていた。てか、もう夏乃さんと一緒にお風呂に入るという目的自体は既に達成されと言えるたためこれ以上ここに長居する必要はないよな。
そう思った俺は相変わらず壁だけを見つめたままゆっくりと立ち上がり、そのまま浴室の出口に向かって歩こうとする。だが夏乃さんから右手を掴まれてしまう。
「こらこら、結人は私を一人残したままどこへ行こうとしてるのかな?」
「のぼせそうなのでそろそろお風呂から出ようと思ってるんですけど」
「えー、ついさっき入ったばっかりじゃん」
「俺の体は意外と繊細なので」
「もう少しだけお姉ちゃんに付き合ってよ」
そんな事を言って夏乃さんは手を離してくれそうな気配がない。膠着状態になってしまったためどうしようか考えていると夏乃さんは信じられない行動に出る。
「えいっ」
「ちょっ!?」
なんと後ろから胸を押し当てて抱きついてきたのだ。突然の事に俺は軽くパニックを起こしバランスを崩してしまう。そして夏乃さんを巻き込んで盛大に転んだ。
倒れる瞬間思わず目を閉じてしまった俺だが、瞼を開くと目の前にはピンク色と肌色の双丘が広がっていた。
「結人って見かけによらず中々大胆だね」
「ご、ごめんなさい」
夏乃さんの胸に顔を埋める体勢になっていた事にようやく気付いた俺は慌てて離れる。もしこの場に第三者がいれば俺と夏乃さんが一線を超えていたようにしか見えなかったはずだ。
俺は逃げるようにして浴室の入り口へと向かう。今の状態だと夏乃さんの顔をまともに直視できる気が全くしない。
先程とは違い今度は邪魔して来なかったためすんなり浴室から出られた。夏乃さんが俺を追いかけて来そうな気配も無い。
「……この後どんな顔して夏乃さんと会えっていうんだよ」
夏乃さんの全裸を完全に見てしまったし、逆に俺は隠していた下半身を思いっきり見られてしまった。しかも夏乃さんの全裸を見て下半身が元気になってしまったところまでしっかりと見られたため本当に最悪だ。
多分、いや間違いなく軽蔑されたに違いない。夏乃さんからゴミを見るような目で見られる未来が容易に想像できてしまう。
そのため俺は部屋に戻ってからも気が気では無かった。とりあえず夏乃さんが部屋に戻ってきたら全力で土下座して謝ろう。
本気でそう思っていたが部屋に戻って来た夏乃さんは俺の想像とは全く違う表情をしていた。何というかめちゃくちゃ上機嫌に見える。
ここまで機嫌が良さそうな姿を見るのは夏乃さんが高校受験や大学受験に合格した時ぶりな気がするため正直困惑する気持ちが強い。
「あれ、そんなところで四つん這いになって一体どうしたの?」
「さっきの事を謝ろうと思って」
「別に私は全然気にしてないから大丈夫」
「でも夏乃さんに醜い姿まで見せてしまいましたし……」
「ああ、さっきのあれはあくまで生理現象なんだから仕方ないよ。むしろ結人も健全な男子高校生なんだなって安心したくらいだから」
俺の言わんとする事を一瞬で理解したらしい夏乃さんはそう口にした。なぜこんなにも機嫌が良さそうなのかは全く分からないがひとまず怒っては無さそうだ。