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第9話 ああ、それならもう既に許可を貰ってるから大丈夫

「次は何をします?」


「やっぱりボウリングかな、せっかくフェイズワンまで来たんだし」


「了解です、早速受付に行きましょうか」


 特に異論は無かったため夏乃さんと一緒にボウリングの受付へと向かい始める。


「そう言えば夏乃さんと一緒にボウリングへ行くのは小学生の時以来ですよね」


「確か町内会のイベントで一緒に行ったんだっけ?」


「ですね、俺はその時が初ボウリングだったのでかなり苦戦した記憶があります」


 初めてだった俺は力加減やコントロールなどを全く分かっていなかった。だからガーターを連発してしまった事は言うまでもないだろう。

 ちなみに兄貴と夏乃さんは俺や凉乃よりもセンスがあったらしく全くガーターには落としていなかった。今思えばこんな子供この頃から俺と兄貴にはスペックの差があったらしい。

 そんな事を考えながら受付で手続きを済ませた俺達は専用のシューズに履き替えてボールを持つとレーンに向かう。


「あっ、そうだ。ただ普通にボウリングをするだけっていうのもつまらないから私と勝負しない?」


「ボウリングで勝負するとなるとスコアを競う感じですか?」


「うん、それで負けた方が勝った方のお願いを一つ聞くってルールにしてさ」


「勝負自体は問題ないんですけどお願いを一つ聞くってのはちょっと……」


 夏乃さんが俺に対してどんなお願いをしてくるか全く想像が付かなかったため首を縦に振る事に躊躇いを覚える。


「もし結人が勝ったら特別に凉乃ちゃんとのデートを私がセッティングしてあげても良いよ」


「えっ、本当ですか!?」


「うん、でもその代わり私が勝ったら結人には今日に引き続き明日も私の遊びに付き合って貰うけど」


「分かりました、やります」


 凉乃とのデートという言葉に釣られた俺は夏乃さんからの提案を了承した。別に負けたとしても日曜日が潰れるくらいなので大したリスクはないはずだ。

 ひとまず俺が先行となっているため指をボールの穴に入れピンの真ん中を目掛けて一投目を思いっきり投げる。だが投げたボールは少しだけ右にそれてしまいピンが四本残ってしまう。

 続く二投目ではピンの残った左側を目掛けて投げなものの残念ながら三本しか倒す事が出来なかった。


「一本残ったか、久々でブランクがあるせいかあまり上手くいかなかったな」


「よし、今度は私の番だね」


 夏乃さんは俺の悔しげなつぶやきを聞きながら席から立ち上がるとボールの穴に指を入れる。そしてめちゃくちゃ綺麗なフォームでボールを投げた。ボールはそのまま真っ直ぐ転がっていき、見事ピンのど真ん中へと命中する。


「あっ、全部倒れた」


「うわっ、マジかよ……」


 夏乃さんは初っ端からいきなりストライクだった。今のがまぐれか実力なのかは分からないが夏乃さんにリードを許し続けると追いつけなくなってしまう。

 そんな事を思いながら俺はボールを投げる。今回は一投目で九本倒せ、二投目で残りの一本を倒せたためスペアを取ることが出来た。

 これでスコアの差を縮められると思う俺だったが、なんと夏乃さんは次もストライクを叩き出してきたのだ。焦り始める俺に対して夏乃さんは余裕の表情を浮かべている。


「……二連続って凄いですね」


「たまたまだよ、ボウリングなんてここ最近やってなかったし」


「ま、まあ勝負はまだまだこれからなので」


「うん、お手柔らかにね」


 それから俺達はボウリングを続け次で十フレームのところまで来たわけだが俺は完全に戦意を喪失していた。

 このフレームで俺が連続ストライクを決め、逆に夏乃さんがガーターに落としたとしても勝てる見込みは全く無い。


「……夏乃さん強過ぎません?」


「えっ、そうかな?」


「投げたボールのほとんどがストライクとスペアな人って中々いないと思いますけど」


 夏乃さんは十フレームのうちの四フレームはストライクであり、四フレームはスペアという驚異的なスコアとなっていた。たった一フレームしかミスをしていない。

 俺は別にボウリングが苦手なわけではなく、むしろ割と得意な方なのだが夏乃さんには全く歯が立ちそうになかった。

 ボウリングなら勝てると思って勝負を引き受けたがあまりにも考えが甘かったようだ。夏乃さんって極度に音痴な事以外は本当に何でもできるな。

 結局十フレーム目でも夏乃さんは華麗に連続ストライクを決め、俺にスコアで圧倒的な大差をつけて勝利してしまった。


「早速勝者の権利でお願いをさせて貰おうかな」


「まあ、一応約束ですしね」


 夏乃さんは先程明日も遊びに付き合って欲しいみたいなお願いをすると言っていたのでそんな無茶振りはされないだろう。


「じゃあ結人には泊まりがけのプチ旅行について来て貰う事にするよ」


「……えっ!?」


「これから出発だけどひとまず結人の準備もいるだろうし、一旦家に帰ろうか」


「ち、ちょっと待ってください。本気ですか!?」


「勿論」


 激しく動揺をする対して夏乃さんはにっこりとした笑顔でそう答えた。前言撤回だ、夏乃さんは思いっきりとんでもない無茶振りを俺にしようとしている。


「……日帰りならまだしも泊まりは流石にまずいと思うんですけど」


「えっ、何がまずいの?」


「ほら、俺達って一応年頃の男女ですし……」


「私は結人のお姉ちゃんみたいなもんなんだから別に問題は無いでしょ」


「俺の母さんも多分反対すると思うので」


「ああ、それならもう既に許可を貰ってるから大丈夫」


 何とか阻止しようとする俺に対して夏乃さんは次々と反論してきた。てか、いつの間に母さんの許可なんて取ったんだよ。


「ってわけだからよろしく」


「……分かりましたよ」


 逃げ道を夏乃さんに塞がれてしまった俺はそう首を縦に振る事しか出来なかった。

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