優秀すぎる双子の兄を持つと弟は大変だ。どこへ行っても何をしても兄と比較をされ続けてしまう。俺は決して無能では無いが優秀すぎる兄には何一つ勝てなかった。
だからだろう、
「やっぱり今回も綾人君が一位だって」
「入学してからずっと一位って凄いよね」
「だよね、それでスポーツも万能なんだからまさに完璧って感じ」
「どうしてあんなに何でもできるんだろう」
帰りのホームルームが終わって適当に友達と雑談した後教室を出ようとしているとクラスメイトの女子達がそんな話をしているのが聞こえてきた。
兄貴は今回の中間テストでも学年一位だったらしい。それに対して俺は学年七位と普段よりは少し良かったもののやはり負けていた。
子供の頃はどれだけ頑張っても勝てない兄貴に凄まじいコンプレックスを抱いていたが今では完全に諦めモードになっている。どれだけ頑張っても勝てないのだからこうなるのは自然な事だろう。
「綾人君と同じクラスだったら良かったのにな」
「そうだよね、せっかく同じ文系なんだからクラスくらい一緒にして欲しかった」
「始業式の日にクラス名簿を見た時に九条って名前があった時は期待したんだけどな」
そこまで話した瞬間、女子達は俺が近くにいた事に気付いて一斉に気まずそうな表情を浮かべる。しかし俺は気にするなというジェスチャーを出す。
小学生の頃から幾度となくこういう事があったためもはや慣れっこだ。俺は申し訳なさそうな表情の女子達を一瞥すると教室を出る。
そして靴箱に向かっていると前から見覚えのある顔が前から歩いてきた。それは幼馴染である
「あっ、
「凉乃か、どうしたんだ?」
「綾人君って今週の土日って空いてるか聞きたくってさ」
「そんなの兄貴に自分で聞けばいいだろ」
「だ、だって恥ずかしいし……」
恋する乙女のような表情をする凉乃の顔を見て俺は胸が痛くなる。俺の初恋の相手である凉乃は俺ではなく兄貴の事が好きなのだ。
その事に気付いてしまった俺は三日三晩泣いたが、どう頑張っても兄貴には勝てない事が分かりきっている。だから何度も諦めようとしたが未だに未練を捨てきれていない。
「……土曜日はサッカー部の練習試合があるはずだけど確か日曜日は休みで何も予定がなかったと思うぞ」
「そうなんだ、ありがとう。じゃあまたね」
知っていて教えないのは流石に気が引けたため俺がそう伝えると凉乃は満面の笑みを浮かべて去って行った。そんな凉乃の後ろ姿を見つめる俺はきっと情けない表情を浮かべているに違いない。
それから俺は靴箱で上履きからスニーカーに履き替え自宅に向かって歩き始めていると校門の前で誰かから呼び止められる。
「やあ、結人奇遇だね」
「……
俺に声をかけてきたのは凉乃の姉である
大学デビューして今のギャル姿にイメージチェンジした時はかなり驚いたが、流石に一ヶ月くらい経ったためもう見慣れてしまった。
「何ってたまたま母校の前を通ったから結人の事を待ってただけだけど?」
「いやいや、いつも言ってますけど大学の帰り道にここは通らないと思うんですが」
「細かい事は気にしない、それで今日も乗ってく?」
「じゃあいつも通りお言葉に甘えさせて貰います」
俺は夏乃さんと一緒に歩き始める。バイクで大学に通学している夏乃さんはこうやって時々ふらっとやって来ては俺を後ろに乗せて家まで送ってくれるのだ。
ただ毎回のように校門で待ち伏せをされるせいでめちゃくちゃ目立ってしまっているが。
「そう言えば今日はもう授業無いんですか?」
「うん、今日はもう無いから安心してくれたまえ」
「良かった、ちゃんと授業行ってるんですね」
大学生になった途端自主休講という名目で授業をサボる輩が増えると聞くので実はちょっとだけ心配していたりした。すると夏乃さんは心外だと言いたげな表情になる。
「……結人は私を何だと思ってるわけ?」
「そんな不真面目な見た目をしてたらそう思っても仕方ないと思いますけど」
「あくまでこの格好はファッションだから」
そんな話をしながら少し歩いているうちに公園へと到着した。学校から歩いて二分くらいのここに夏乃さんはバイクを停めている。
「やっぱりカッコいいバイクですね」
「でしょ、私もバイク屋で一目見て気に入ったから買ったんだよ」
夏乃さんのバイクはShinobi250という中型のバイクだ。ライムグリーンの車体は遠くからでもよく目立っていて男心をくすぐられるデザインとなっている。
身長が百六十八センチあって女性としては長身な夏乃さんには足付きも特に問題無いらしい。
「あっ、そうだ付き合ってくれない?」
「どこにですか?」
「……その反応はつまらないんだけど」
「ならどんなリアクションを期待してたんです?」
「勿論です、夏乃さんの事を一生守りますくらい言ってくれないと」
「そんなの俺のキャラじゃないので」
兄貴ならともかく俺が言ったらあまりにもキモ過ぎる。
「相変わらず結人はつれないね」
「それでどこに付き合って欲しいんですか?」
「最近駅前に新しくカフェが出来たんだけど、そこに着いてきて欲しくてさ」
「ああ、あそこならうちのクラスでも話題になってましたよ」
お洒落なカフェのようで特に女子からの人気が高いらしい。まあ、当然俺はあんなリア充御用達みたいなカフェには行った事ないが。
「でもあそこに行くなら俺なんかとよりも大学とかの友達と一緒に行った方が良いんじゃないですか?」
「今回は友達と行く前の下見だよ、私って昔から結構下調べするタイプだから。でも一人で行くのはちょっと寂しかったから暇そうな結人を誘ったってわけ」
「なるほど」
暇そうなというのは一言余計だがそれなら俺を誘ってきた事にも納得だ。
「じゃあ時間も惜しいし早速行こうか、これ被ったら後ろに乗って」
「分かりました」
俺は夏乃さんから渡されたヘルメットを頭に被るとゆっくりとタンデムシートに座る。それを確認した夏乃さんはキーを回してエンジンを始動させると走り始めた。