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前編 第六話

 グランシデア王立学園・闘技場 王族専用室

 闘技場のフィールドを見下ろす高所に、ガラス張りの部屋がある。そこにあるロングソファに、オーレリアたちが座っていた。

「流石、と言ったところですわね」

 先程の戦いを見てオーレリアが呟く。

「ふーん、まあ悪くは無いんじゃないかな」

「兄上、彼は次元門の鍵ですからね?」

 それにエールが反応し、アーシャが釘を刺す。

「本当にアーシャの言う通りなら、どうして魔力も闘気も無しにあれだけの戦いが出来るのでしょう」

 オーレリアの問いに、エールが答える。

「簡単だよ。彼は闘気と魔力の中間……シフルを使って戦っているのさ。並みの人間は闘気も魔力も、そして僕たちのような達人でさえシフルそのものは使えない。だが彼がそれを直接使えるとするならば、その戦い方が僕たちより極められていて然るべきだよ」

「ふむ……確かにそれはありそうですわね。アーシャ、次は貴方が確かめてきてくださいまし」

 アーシャはその問いに深く頷く。

「私の成長をとくとご覧に入れます。兄上、姉上」

 そして踵を返し、部屋を出ていった。


 グランシデア王立学園・闘技場

 多くの生徒が激戦を繰り広げ、その内にレイヴンの再びの出番が回ってくる。フィールドへ入ると、今度はアーシャが立っていた。

「お、アーシャじゃねえか。元気にしてるか?」

「元気にしてるも何も、昨日も会ってるじゃないですか。忘れっぽいんですか?」

「ハッハッハ、言うじゃねえか。忘れるわけ無いだろ、〝お嬢さん〟」

「それは安心しました。過去に余りにも危険な戦いをした生徒が記憶喪失になっていましてね。レイヴンさんはどれだけ痛め付けてもその心配は無さそうです」

「戦おうぜ、全力でよ」

 レイヴンが長剣を抜くと、それに答えるようにアーシャがウーウェ・カサトを引き抜く。

「これもあなたのお仕事の一つですから、手は抜かないように」

「当然だな」

 レイヴンが長剣から魔力の刃を放ち、アーシャはカサトを自身に纏わせながら高速回転し、それを弾き返す。そして縮め、レイヴンに向けて伸ばす。容易に弾かれ、レイヴンは瞬時にアーシャへ接近する。

「遅いな、〝お嬢さん〟」

「あなたのことは憎からず思っていますが―――そういうところは嫌いです」

 レイヴンの長剣の一撃を躱し、カサトを叩きつける。刃の衝撃とは別に、遅れていくつもの斬撃がレイヴンに衝突する。更に長剣に巻き付け、カサトから溢れる斬撃でレイヴンの手元からはたき落とす。魔力の剣をレイヴンは生み出し、カサトの刃と刃の間に差し込み爆発させる。が、アーシャは怯まず、カサトに炎を纏わせて振るう。レイヴンは上体を反らして躱そうとするが、アーシャはカサトを伸ばして首を掴み、レイヴンを振り回して投げ飛ばす。更に地面に波打つようにカサトを伸ばし、レイヴンは魔力の剣を生み出し、手元で爆発させて威力を殺す。

「父上と兄上以外で初めて面と向かって会話した男性ですから、私にとってあなたは特別です。人間としても、その強さも」

「ほほう、そいつは嬉しいね。姉上を見る限り、君も将来は美人だろうからな。初めてを頂けたのは光栄だね」

「そういうところです。公の場所でそういうことを言うのが嫌いです」

「おっと、美人を見るとついからかいたくなってな。これも一つの照れ隠しってことでどうだ」

「どうもこうもありません!」

 カサトの刃一つ一つに乗せた光の刃が放たれ、レイヴンへ注ぐ。レイヴンは短剣を放り投げ、括り付けた魔力の糸で長剣を取り戻し、直ぐ様長剣を放り投げて光の刃を撃ち落とす。ブーメランのように長剣は手元に戻ってきて、グローブから魔力を集中させ、アーシャの眼前に瞬間移動する。

「今回はお開きだ、〝お嬢さん〟」

 レイヴンの渾身の一振りで、アーシャの手元からウーウェ・カサトが空中へ飛ぶ。そしてアーシャの額に拳銃を突きつける。

「そう……みたいですね」

 拳銃を下げ、レイヴンは笑う。

「ハハッ、だが攻撃の鋭さは十分だぜ。精進しろよ」

「一つ聞いても?」

「なんだ?」

「……。いえ、やっぱりこういうところで言うことではありませんでした。危うくあなたと同類になるところでした」

「ん?そうか?じゃあ、戻るとするか」

 アーシャはウーウェ・カサトを拾い上げると、レイヴンと共にフィールドから出た。


 グランシデア王立学園・理事長室

 シュバルツシルトがうたた寝をしていると、ペイルライダーが入ってくる。

「ん……」

 眠りから目覚め、ペイルライダーを見やる。

「申し訳ありませぬ、我が王よ。眠りを妨げてしまいましたか」

「構わないわ。報告?雑談?それとも膝枕してほしいとか?」

「王よ、からかわないで頂きたい」

「ふふっ、冗談よ」

 柔和な笑みが失せ、シュバルツシルトは極めて真剣な表情になる。

「それで、何かしら?」

「ゼフィルス・ナーデルが動き始めたようです。クラレティア山脈の奥深くにある、『止刻の狭間』……異史の新生世界の根幹を成す、マザーAI『アガスティア』の保管された場所の調査を開始しております」

「ふーん……杉原には到底必要の無いもののはずだけれど……それで、幻鏡の湖はどうなっているの?ホルカンが手を張り巡らせていると思うのだけど」

「次元門の解放にはまだ役者不足でございます。鏡を割り、次元門を繋ぐ……それはゼフィルス・ナーデルが鍵になっておりますゆえ、まだホルカンたちは泳がせておかねば」

「闘技会が終わったら止刻の狭間にレイヴンを向かわせて」

「はっ、我が王よ」

「それと、闘技会は今どのくらい進んでいるのかしら?」

「そうですね……もうじきオーレリアとレイヴンの戦いでしょう」

「ふーん……じゃあペイルライダー、見に行きましょう」

 ペイルライダーは立ち上がったシュバルツシルトに礼をすると、部屋を出ていく後ろを追随する。


 グランシデア王立学園・闘技場

 レイヴンが再三入場すると、今度はオーレリアが立っていた。

「今度は君か」

「ええ。昨日の戦い、覚えていますか?」

「当然だ。美人とのデートは忘れないさ」

「では……第二幕といきましょう」

 オーレリアの手元に聖剣、クンネ・スレイマニエが握られる。

「いいねえ、燃えてくるぜ!」

 長剣を引き抜き、魔力の刃を放つ。オーレリアは魔力の鎧を纏いつつ突進し、魔力の刃を跳ね返す。そして大振りな一閃をジャンプで躱し、オーレリアの頭上に魔力の剣を並べる。オーレリアは全身から魔力を解き放ち、その剣を破壊する。それでレイヴンも吹き飛ばし、オーレリアもまた、小型のスレイマニエを展開する。そして踏み込み突きを放とうとしたレイヴンに向けて、スレイマニエの突きを放つ。明らかなパワーの差でレイヴンは吹き飛ばされ、続けて小型のスレイマニエが飛んでくる。魔力の剣で迎撃し、レイヴンは竜化する。瞬間移動でオーレリアと打ち合い、魔力の剣を放ちながら飛び退く。長剣を投げつけながら、拳に力を込め、長剣をスレイマニエが弾き、レイヴンの拳をオーレリアは頭突きで跳ね返す。長剣を取り戻したレイヴンは、魔力の剣を長剣に集中させ、それでスレイマニエと打ち合う。

「これが本当の殺し合いならもっと本気で殺り合いたいものですわね」

「遊びってのが残念すぎるぜ」

 オーレリアは力を抜き、レイヴンの攻撃でスレイマニエを取り落とす。

「いつか殺し合う時が来たら全力でやろうぜ」

「もちろんですわ。貴方と死闘を繰り広げねばならなくなったとき、わたくしも全力でお相手いたします」

 スレイマニエが地面から消失すると、オーレリアは軽く礼をして去っていった。

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