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後編 第十四話

 セレスティアル・アーク 屋上庭園

 トラツグミが、準備を終えて佇む明人へ近付く。

「なんだ、トラツグミ」

「報告します。竜世界にて、E-ウィルスの散布を確認。次元門の解放まであと少しです」

「そうか。一つ聞きたい。トラツグミ、零獄とここまでに開いた次元門の中で、何があった」

 トラツグミは表情を変えない。

「異史からの干渉を受けました。白金零と極めて近いシフル波長でありながら、致命的に何かが足りない。端的に言えば、クローンの襲撃を受けたようです」

「クローンだと?異史で零さんのクローンが出たタイミングは……」

「異史のChaos社では、明人様に代わりマザーAI〝アガスティア〟が全てを管理していました。そのマザーAIが、新人類計画の成就を焦り、作り上げたのが零のクローンであり、異史の新生世界から古代世界へ向かう次元門の途中で零を襲撃し、敗北しました」

「なるほど、つまり負けて次元門に飲まれ、正史まで流れてきたということか」

「その通りでございます」

「そのクローンを回収はできないのか」

「次元門は変化し続けます。特定の座標を繋げるのは不可能です」

「そう言えばそうだったな。時間という概念そのものが間違っているんだった」

「蛇帝零血を使わずとも、零本人を〝黄金の卵ヒラニヤガルバ〟の動力とすればよいのではないでしょうか」

「出来ることなら俺は零さんに勝ちたい。ぶっ壊しても良いように、先に蛇帝零血を作っておきたいんだよ」

「明人様。目的を見失っては意味がありません」

「わかってるよ。ただの願望だって」

 その後は、二人とも一言も発さなかった。


 ???・終期次元領域

「E-ウィルスが動き出したようだな、アルメール」

 狂竜王が顔を向ける。

「ここまで強烈なものとは思いませんでしたが」

「それで、あれはどんなものなのだ」

「開発した来須によれば、あれはプレタモリオン。ウィルスに抵抗できない弱者がなる失敗作だとか。無機有機関係なく、捕食した物質をウィルスに変換し、ガスとして撒き散らす。そして、中程度克服した場合ですが―――」

 アルメールは天球儀を指差す。


 久遠の砂漠

 ホシヒメたちが走っていると、地鳴りが響く。そして眼前の砂が裂け、黒い瘴気を放つ大蛇が現れる。

「クオン様!?」

 ゼルが驚愕する。クオンは先程と違い、目が赤く染まり、全身が赤く鈍い輝きを放っていた。

「明らかにヤバいよね」

「だが……邪魔するなら倒していくしかない!」

 ゼルが先陣を切る。ガンブレードのトリガーを引きながら切り付けるが、簡単に弾かれる。

「なんだと……?」

「どいてゼル!」

 ホシヒメが右腕で渾身のパンチを打ち込むが、びくともしない。そして二人纏めて咆哮で吹き飛ばされる。

「なんか妙な堅さじゃない、ゼル」

「ああ、無理矢理弾かれたように感じる」

 突進してくるクオンをホシヒメは右腕だけで受け止め、叫ぶ。

「相手してる場合じゃないよ!なんかさっきと全然違うし、今は優先順位が……」

 力任せに持ち上げ、その巨体を砂中から引き摺り出して放り投げる。

「低いっ!」

 五人は駆け出し、急いで沿岸まで竜化して飛ぶ。船に乗る寸前、突進してきたクオンをホシヒメが右の裏拳で張り倒す。

「ルー!準備はいいか!」

 直ぐ様ブリッジに着いたネロがルクレツィアの方を向く。

「高速旋回、エンジン全開で行くで!」

 船が動き出すと、クオンはそれ以上追って来なかった。


 海上 甲板

「それにしても、一体何が起きてるんだろう。あの光のあと、エウレカの人たちも、あのクオンって人も、おかしくなっちゃった」

「ああ。メルギウスは月光の妖狐の妄執と言っていたが、何の事かさっぱりだな」

「とにかく、ガイアに着くまで休んどこ」

「アカツキと決着をつけるときだからな」

 ゼルは船内へ戻っていくホシヒメを見送った。


 水の都・ブリューナク

 空間の歪みがプレタモリオンと化した見張りごと門を切断し、ゼロが堂々と足を踏み入れる。屋根から飛びかかってくるプレタモリオンを光の剣で滅多刺しにし、進行の妨げになる者だけ切り捌いて進む。


 水の都・ブリューナク 行政区

 アカツキとアミシスの激戦の跡を残したまま、更に黒く染まったブリューナクによって行政区の建物は崩壊していた。ゼロが近付くと、ブリューナクは黒い瘴気を吐きながら振り向く。

「貴様もそうなったか。雑魚め」

 ブリューナクは氷剣を生み、突っ込む。右腕で止められ、ゼロの左腕に闘気が籠手のように纏わりつく。

「この程度も克服できん愚図は俺の糧になる以外に価値はない。消えろ」

 強烈なパンチでブリューナクは漫画のように吹っ飛び、竜化する。ゼロは瞬間移動し、力任せの連打でブリューナクの体を粉々にしていく。飛んで逃げようとしたブリューナクの尾を掴み、地面に叩きつける。そして首を左手で掴み、持ち上げ、右腕で連打する。空中へ放り投げ、刀に持ち替えて止めに空中へ空間の歪みを放ち、細切れにする。粒子に変わったブリューナクがゼロに吸収される。

「次はエリファスか」

 ゼロは行きと同じように、片手間にプレタモリオンを木っ端微塵にしながら飛び去っていった。


 死都エリファス

 ゼロは翼のユニットを背中へマウントすると、また淡々と歩き出す。そして福禄宮の門を破壊し、侵入する。


 死都エリファス 福禄宮

 壁を破壊しながら真っ直ぐ進むと、エリファスが座していた。

「ゼロか……待っていたよ」

「なぜ、貴様はあの瘴気の影響を受けていない」

「なぜか?それはお前の力になるという役割があるからだよ」

「どういうことだ」

「お前も気付いてるんだろ?リータ・コルンツもChaos社もここではない別の世界に存在するということを」

「ああ」

「狂竜王の計画を知っているお前なら、狂竜王が何を求めているのかも知っているはずだ」

「元々そのつもりだ。俺がパーシュパタの力を奪い、次元門を抉じ開ける。ホシヒメが死のうが、パーシュパタの復活に影響はない。アカツキに負ける要素など何一つないからな」

 エリファスは翼を広げる。

「ゼロ、我が力を受けよ!そして、大いなる力を以て、我らが世界を混沌へと繋げよ!」

 そして尾で自らの胴を貫き、粒子へと変わる。

「下らんな」

 ゼロはその粒子を握り締め、天井に空いている大穴から飛び出し、火の都へと向かう。


 土の都・ガイア

 船から降りた一行が最初に目にしたのは、エウレカと同じプレタモリオンの群れだった。

「竜神の都に行く前に、都竜神のところへ行った方がいいと思うか?」

 ゼルの呼び掛けに、ノウンは首を横に振る。

「あの瘴気にやられていたら僕たちが消耗するだけだ。目的を優先した方がいい」

「竜神の都、そのあと大灯台か」

 アルメールへ行ったときのように、一行は海岸線を行く。


 火の都・ブロケード マグナ・プリズン 禁獄牢

「やっぱここに来たか」

 ブロケードは黒の体躯に紫の炎を宿しており、異常に落ち着いていた。

「ブロケード、貴様のその体は……」

 ゼロは僅かに声を低める。

「あー、これだろ?これが俗に言う生命力の極限ってやつらしい。お前さんは知ってるだろう、既にお前さんの全身から命が霧散していくのが見える。生き急いでいるようだな」

「そうだ。俺には力が必要なんだ。ブロケード、ここで死ね」

 ブロケードは大笑いする。

「俺に死ねと?ガハハハハハ!どうやらお前さんは俺の性分を知らんようだな!」

「貴様を倒せばいいんだろう」

「話が早い。どうやらその様子だと、ロクな奴が居なかったみたいだな」

 ゼロが刀を生み出す。

「貴様の力、奪わせてもらう」

「命が爆ぜるその瞬間まで!暴れまわろうじゃないか!」

 ブロケードの拳をゼロは瞬間移動で躱し、空中に浮き、氷剣を作り出して突っ込む。人差し指と中指で止められるが、空間の歪みを放ちながら更に高空へ飛ぶ。ブロケードの追撃が歪みに弾かれ、振り下ろされた刀が拳に弾かれる。

「どうしたどうした!」

 熱波を放ってゼロの動きを空中へ誘うが、ゼロは動かず、氷壁で防ぐ。更にブロケードの頭上から大量の光の剣が注ぎ、その場に釘付けにする。そしてゼロは左に身を屈め、刀に力を注ぐ。

「行くぞブロケード!」

 そして刀を抜き放つと、一気に無数の空間が引き裂かれ、豪雨のように真空刃が乱れ飛ぶ。ゼロが納刀すると同時にブロケードに刺さっていた真空刃と光の剣が爆発する。が、ブロケードは平然と動き出し、猛然と拳を据える。ゼロは直ぐ様拳に闘気を纏わせ、その剛拳を受け止める。

「見事だ、ゼロ。だがな、もっと力を込めろ。お前さんの求める力はそんなものではないだろう!」

「わかっている……」

 ゼロから生えた四本の翼腕がそれぞれに氷剣を持ち、ブロケードの拳に突き立てる。

「もっと……もっと……もっと力を!」

 ゼロの全身から溢れる闘気が光へと変わり、凄まじい輝きが禁獄牢を隅々まで照らし出す。

「それでこそだ!もっと全力で楽しもうぜ!」

 もう片方の腕が禁獄牢の床を引き剥がしながらゼロを襲い、ゼロは翼腕で構えた刀で防ぐ。そして受け止められ、眼前にある拳に光の剣を高速で突き刺し、光の早さで放たれる蹴りがブロケードの巨大な指を粉砕し、突き刺さった光の剣が連鎖的に爆発し、ブロケードの硬質化した腕を粉々にする。

「俺の刃は極まった!これが闘気の放つ輝き、命の全てだ!」

 再び力を込め、刀を放つ。刀は今までとは違い、金色の光を放ち、放たれる空間の歪みはもはや光そのものだった。先程のように無数に空間が引き裂かれ、その中を光が暴れ狂う。満足げな顔をしてそれに粉々にされるブロケードを、ゼロは眺めていた。

「これで終わりだ」

 ゼロの納刀と共に、ブロケードは粒子へと変わる。そしてゼロの体に吸収される。

「ガイアか」

 ゼロが翼を広げようとしたとき、目の前に突然少年が現れる。直ぐに刀を抜き放つが、少年は動じない。

「貴様、竜ではないな。その雰囲気……貴様が四聖典か」

 少年は頷く。

「僕の名はアタルヴァ。貴方の思っている通り、僕が四聖典の一人」

 ゼロは刀を納める。

「四聖典が現れたということは、本当にこの世界は終わるのだな」

「その通り。月光の妖狐の作り上げた根絶細菌は、全ての命を飲み込み黒く染め上げる。彼女たちは、貴方の開く次元門を潜り、Chaos社を倒す以外の選択肢が無くなった」

「一つ言っておくが、俺はクラエスに負ける気など一切ない」

「それでいい。恐らく、貴方が負けるまで世界は何度でも巻き戻る。いや、無数のタイムラインを消費していく。この後の狂竜王の計画に狂いが出る。狂竜王だけにね」

「……」

「心地よい戦いがお望みなのでしょう?この世には、よい負け方というものが」

 光がアタルヴァの右頬を通り抜け、禁獄牢の天井を鋭利に切り裂く。

「俺は負けん」

「まあ……お好きにどうぞ。僕は貴方が大好きな皇女のところへ行きますから。彼女たちを竜神の都に呼んでおきましたから、見たいのならあそこに行くといい」

 アタルヴァは初めから居なかったかのように霧散した。

「クラエスか。ヤズは今……取り敢えず、ガイアを吸収してから見に行くとするか」

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