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後編 第十三話

 久遠の砂漠

 ホシヒメたちは船から降り、その砂漠に降り立つ。

「どうなってんだ?なんで海に面してるのにこんなに荒れてやがる」

 ネロの問いに、ゼルが答える。

「この土地は、全体が闘気と同じ成分で覆われているらしい。あくまでも伝承の中でだが、ヴァーミリオンという海軍がある程度には元々海に囲まれていたらしい」

「ゼル、これからの道のりは?」

 ノウンが加わる。

「ああ。真っ直ぐに進めばいずれ見えてくるはずだ。大分歩くことになるけどな」

 そう言って、ゼルは歩き出す。他の四人もそれに従った。

 しばらく歩くと、突如として地鳴りが起こり、一行の目の前に超巨大な蛇のような竜が現れる。

「止まれぃ、若造ども」

 その声に、ゼルが前へ出る。

「クオン様、俺です。ゼルです」

「ん?おお、ゼルではないか。どうしてここにおる」

「クオン様もご存じでしょう、竜神の都が襲撃された事件」

「うむ、竜神の皇女が竜王種に与したという誤報があったあれだろう。真犯人は凶竜の長のアカツキだというんだろう」

「そのアカツキは、大灯台を復活させようとしているんです」

「何?何のために」

「さあ、そこまでは。けれど、俺たちは先にエウレカで準備をして、やつらを迎撃したいんです」

「そうか。では、俺の背に乗るがよいぞ。あ、少し待て。ゼル、連れの説明を求む」

「そこの黒い服の男がネロ。ドランゴの管理を任されている。この巫女服がルクレツィア。最強の凶竜。このちっこいのがノウン。俺の友達です。で、この黄色いのがホシヒメ。竜神の皇女です」

 クオンはホシヒメをまじまじと見つめると、爆音で笑う。

「これまた良く似ておる。アカツキとここまで似ておるとは、それは間違われても仕方ないな」

 それだけ言うと、背を向ける。ゼルの手引きで全員がその背に乗り、砂漠を渡った。


 エウレカ

 クオンの背から降り、少し進むと、砂漠とは全く異なる緑豊かな空間が現れる。

「すげえな、天変地異レベルだぜ」

「懐かしいな、七年ぶりだ」

 ゼルとネロの感想をよそに、ノウンが冷静に尋ねる。

「どこに大灯台の……封印?があるのかな」

「あの大樹の根本だ」

 ゼルが指差した先には、天を貫かんばかりの大樹があった。

「確かな。ルクレツィアの方が詳しいんじゃないか?」

「ウチも詳しくは知らんで。ただまあ、もうアカンかもな」

「なぜだ?」

「ものすごーく嫌な予感がするからだよ」

 その会話にホシヒメが混ざる。

「私の右腕が教えてくれるよ、ちょっと先の未来についての予感をね。ルクレツィアのは自分の直感だろうけど、なーんか嫌な感じだよ……って何々!?」

 突然、空間が激しく揺れ始める。

「なんだ!?」

 大樹の頂上が光り輝く。

「まさかもう……」

「急ぐぞ!」


 エウレカ・大樹

 五人が大樹へ駆け込むと、その中は眩い光で満ちていた。

「なんだこの光は……!」

 全員がその光の巨大さに怯んでいると、奥に男が居るのを見つけた。

「誰!」

 ホシヒメの問いに、男は振り返る。

「おや、随分とお早い到着で。アルメールからここまではもっとかかると思っていましたが」

 黒いコートの、癪に障る話し方……

「てめえ、メルギウス!」

 ネロが飛び出し、槍を放つ。メルギウスは抵抗せず、その一撃で腹を貫かれる。

「な……なんで避けねえ」

「もう私の役目は終わった。あなた方がここに来た時点で、私がすべきお膳立ては全て終わった。私の願いはパーシュパタの復活。そしてそれが果たされた今、世界が滅ぼうがどうでもいい」

 メルギウスはネロの槍を更に深く自分に突き立てる。

「なんで今のてめえは今までみたいに映像じゃねえんだ」

「何を言ってるのやら……私の〝本体〟は、常にここに居ましたよ……」

「んだと……!」

 後ろでルクレツィアが頷く。

「なるほど、ウチらがどれだけ急ごうが、ウチらがここに来なければいけないほどシナリオが進めばどう足掻こうが大灯台は復活するんやな」

 メルギウスは血を吐きながら笑う。

「ええ……まあ、アカツキも気づいていないでしょうがね……さあ、月光の妖狐の妄執よ、我らが竜世界を覆い尽くせ!」

 輝きが勢いを増し、視界が光で潰れる。


 放たれた光が天を裂いて、世界に散らばっていく。

 爆裂した光から黒い瘴気が溢れ出して、竜たちを、それ以外の生物の何もかもを飲み込む。

 飲み込まれた生物は、たちまち黒い苔の化け物へと変貌して、手当たり次第に周囲の物体を無機有機関係なく喰らっていく。

 そしてその瘴気の中から、石造りの建造物が猛烈な速度で現れる。


 エウレカ・大樹

 光が収まり、異常なまでの静けさが辺りを包み込む。

「メルギウス、てめえ……何をした」

「生命の極限性を試すのさ……Chaos社の実験のためにね……大灯台は復活した……あとは……」

 メルギウスは事切れた。

「ちっ、スッキリしねえな」

 ネロが悪態をつく。

「大灯台に行かなきゃ!」

 そう口走ったホシヒメの脳裏で声が響き、ホシヒメは片膝をつく。

「っ……」

「どないしたん、ホシヒメ」

「いや、エターナルオリジンで聞いたのと同じ声が聞こえて……竜神の都で待ってるって」

「竜神の都か……まあ、大陸に戻ってから考えようや。まずは、行きに世話んなったデカい蛇を見つけんとな」

 一行は大樹から出る。


 エウレカ

 大樹の外は、正に地獄絵図となっていた。二足歩行の黒い苔の化け物が、大きな口を開いて、鋭い牙で木や建造物を喰らっている。

「うわ、なんだこれ」

 ホシヒメは真横で襲いかかろうとして来た化け物を裏拳で吹き飛ばす。化け物はすぐ起き上がる。ホシヒメは右腕で鷲掴み、地面に叩きつける。そして持ち上げてグルグル振り回し、放り投げる。それでも化け物は起き上がる。

「これは良くないんじゃない、ゼル」

「そうだな、一週間前の政府首都を思い出す。つまりだ、ノウン」

「そうだね、話も通じそうに無いし。ルクレツィア、ネロ。今から僕の言うことを聞いて?」

 二人は頷く。

「走れ!」

 五人が走り出すのと同時に、化け物は荒れ果てた森の残骸から無数に現れる。が、鈍足なようで、みるみる内に距離が離れていく。

「あれはなんだ!?」

「さてな、ウチも流石に見当がつかん!」

「あの光と関係あるのは間違いなさそうだけどな!」

「黙って走ってよ、みんな!ほら、ホシヒメだけ単純に走力ありすぎて先行してるから!」

 ホシヒメは四人の前を走りながら、突然出てくる化け物を殴り飛ばす。

「なーんか、生気を感じられないなー」

 走る勢いに任せて拳をめり込ませながら、ホシヒメは疑問を募らせていた。


 久遠の砂漠

 砂漠には元々生物が少ない影響か、黒い化け物は殆ど見えなかった。

「船まで戻るぞ」

 ゼルに続いて、砂漠を歩き出す。

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