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後編 第十二話

 帝都アルメール 行政区

 雨雲は去り、夜を満天の星が彩っている。ゼロは一人、自室の窓から外を眺めていた。

「始祖凶竜か……おそらく、どれだけ早くエウレカに着こうとも封印の解放はもはや確実なことなのだろうが、それ以外にも感じるこの不穏な気配……」

 これから起こりうることを思い、ゼロは嘲笑する。

「そうだ。俺はホシヒメに勝つために、あらゆる力を飲み干す。そのためには……」

 ゼロは部下を一人呼び、小箱を手渡す。

「それをクラエスに渡せ。俺は出る」

 部下が深く礼をすると、ゼロはそのまま部屋を出た。


 翌朝 

 帝都アルメール 行政区 テラス

 五人は昨日と同じようにテーブルを囲んでいた。ホシヒメは先程受け取った小箱を開け、そこに入っていた破片を取り出す。

「なんだそれは」

 ゼルが尋ねる。

「んーとね、おばあちゃんの気配を感じる……かな?あ、手紙が付いてる。何々……『クラエス・ホシヒメ様へ 皇女殿下、ご機嫌麗しゅう。拙い文章で大変申し訳なく思いますが、どうかご容赦を。貴殿がエウレカへ行き、凶竜の野望と戦う間、私は貴殿のように各地を巡ろうと思う。無断で去る非礼の代わりに、竜神の長の鱗を貴殿に渡す。では、次は大灯台の頂上にて 帝都アルメール 軍事最高顧問 ゼロ』だってさ」

 ホシヒメ以外の全員がしみじみと頷く。

「みんなどうしたの」

 その疑問に、全員が同時に答える。

「ホシヒメと同い年とは思えないほどしっかりしてるからびっくりした」

 数秒の沈黙の後、ホシヒメが口を開く。

「ひどくない!?」

「まあ、常日頃が余りにもフレンドリー過ぎやからな、アンタは」

「ま、まあともかく!このおばあちゃんの鱗、私の右腕に入んないかなあ?」

 と、何気なくホシヒメが右手に鱗を近づける。すると、直ぐに鱗は飲み込まれた。

「お、吸い込んだ」

 ネロの呟きと共に、ホシヒメは右手を開いたり握ったりしている。

「よくわかんないけど、ゼロくんとおばあちゃんの思いも私の中に入ったってことだよね!よーし、すぐエウレカに行こうよ!」

 ホシヒメはノウンの方を向く。

「うん。エウレカは遠い。早く出るに越したことはないよ。ゼロのお陰で休めたしね」

「おおっ、そうとなれば!?」

「さっきゼロの部下の人に言われたけど、エターナルオリジンへのワープ装置を自由に使っていいらしいよ。そこに船も用意されてるらしい」

 その話題にルクレツィアが乗る。

「せや、ゼロ兄がウチの船を動かしてくれたらしいわ。ウチにはなんも言ってくれんかったけどな」

「いよっし、じゃあ早速ゴー!」


 凶竜の都

 ゼロは門の前で深呼吸し、闘気を発して門を破壊する。石畳を進み、階段を上がっていく。


 凶竜の都・社

 そして祠を一刀両断し、フィロアを引きずり出す。フィロアは実体を発生させ、吼える。

「何のつもりだ、皇子」

「俺の糧になれ。もはやこの世界の崩壊は止まらない。消えて無くなる前に、俺がクラエスを討つための力にする」

「……」

「貴様は知っているのだろう、全てを。アルメール様と仲がいい上、実力を持ちながらアカツキの尻拭いしかしてこなかった。権力に興味が無いことを、善意で説明できるほどの時間は凶竜にはない」

「話すことはない」

「ならば消えろ、俺に力を奪われてな」

 フィロアは冷気を放ち、ゼロを氷漬けにし、間髪入れずに炎を放つ。

「もはや都竜神も都竜王も、俺の敵ではない」

 ゼロは全くダメージを受けておらず、その様にフィロアは少しだけ怯む。

「メルギウスを通して帝都での戦いを見ていたが、お前はそこまでの強さは持っていなかったはずだ。たった一日でこれほど……」

「力だ。闘気の強さは、それを操る者の意思の強さに依る。俺はクラエスに負けて、初めて知った。敗北の恐れを。そして、悔恨を。俺は二度と負けない。そのために、絶対的な力を手に入れる!その意思が、俺の闘気を強くした」

「だがそれは竜闘気……竜王種が出せるはずはない!」

「そうだ。これは竜闘気ではない。俺の命をより激しく燃やし、闘気の出力を上げているのだ。これは言うなれば、俺の生命力そのもの。力を得るためなら、どんな犠牲だろうが払う。自分の命でも、この世界でもな」

 フィロアは諦めたように俯く。

「良かろう。それがお前の思いなのだな」

「ああ」

「では、我が力を持っていけ。お前の懸念通り、この世界は瓦解する。Chaos社の生物兵器、E-ウィルスによってな」

「それは、どんなものだ」

「生体に感染すると、それを醜悪な餓鬼へと変える破滅の兵器だ。メルギウスがChaos社と手を組んだとき手渡された」

「なるほどな」

「パーシュパタとホシヒメが激突するエネルギーで大灯台の上空に次元門を開き、メルギウスたちだけを古代世界へ転移、この世界全てを実験場にしてしまうつもりらしい」

「それで」

「もう話すことはない。お前は誰のどんな陰謀があろうが自分の好きなように動くのだろう?」

 ゼロはフィロアを一太刀で霧散させ、その粒子を全て体に取り込んだ。

「その通りだ、フィロア。この世界の全てが餓鬼に変わるのなら、俺がその餓鬼を全員切り殺してやろう」

 刀を納めると、ゼロは空を見る。太陽は丁度真上にある。

「昼か。もうエウレカに着いている頃だろうが……俺はブリューナクへ向かわせてもらう」

 ゼロは反転し、前だけを見て去っていった。

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