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後編 第十一話

 帝都アルメール 行政区

 ワープ装置の部屋から出るとすぐ、全員で駆け出す。正面の門から出て、激しい雨の中を大橋の中央まで駆ける。


 帝都アルメール 行政区・大橋

 先程ゼロとホシヒメが死闘を演じた橋の中央に、高速で巨大な氷塊が落下し、それを内部から粉砕して一人の少女が現れる。

「アカツキ!」

 ホシヒメの声に、アカツキは鋭敏に反応する。

「ふん、生きていたか、皇女」

 ホットパンツの解れた糸を引き千切り、アカツキは口角を釣り上げ殺意を漏らす。

「竜の力を全て宿した貴様を、Chaos社へと届ける。それが俺の使命だ。そして今、貴様は俺の使命の糧となるに相応しい力を得た」

 ホシヒメはやれやれという風に手を上げ首を振る。

「愚弄する気か」

「いやいや。君もパーシュパタも、友達になったら楽しそうだなって!」

 アカツキは理解が追い付いていないようだったが、少しして爆笑する。

「ふん、貴様と友になるだと?ヤズもそんなことを言っていたが、断言してやる。そんなことは、万が一にもない」

「ふっふーん。ゼロくんだって私に負けたんだから、前回引き分けだった君に負けるわけないよ!それに……私怨じゃない、本当の心で君と戦いたいしね!ということでみんな、雨が降んないところで見ててよ!」

 その提案に、全員が頷く。

「ホシヒメ。お前に全てを押し付けたような形になっているが」

 ゼルが拳をホシヒメへ向ける。

「大丈夫だよゼル。みんなの思いを背負っているからこそ、私は強くなれたんだから」

 ゼルの拳と自身の拳を突き合わせ、ホシヒメはアカツキへ向き直る。

「行くよ、乾坤一擲!」

「俺の使命の糧となるがいい、ホシヒメ!」

 二人が夜雨の中を跳ぶ。互いに竜闘気を放ち、拳が交差する。

「隙ありィ!」

 右腕でアカツキの足を掴み、抱え込むと、そのまま落下して大橋に叩きつける。アカツキは掴まれた足で蹴り上げ、ホシヒメを放り投げる。瞬間移動をし、手刀を突き立てる。左手でそれは止められ、右腕で頭を掴まれ再び地面に叩きつけられる。両足を揃えて蹴りをホシヒメにぶつけ、アカツキは立て直す。

「その右腕……」

「それだけじゃないよ。この籠手も、その下に付けてる手袋も、この服も、竜闘気も。全部誰かの思いを受けて、私の体が答えた力」

「所詮他人に頼るしかできん軟弱者なだけだろうが」

「そうなのかもしれないね。でもさ、単純に一人より二人の方が人数が多いじゃん!」

「貴様のような塵の放つ能天気な笑顔が死ぬほどむかつくんだよ!」

 アカツキは急接近してラッシュを放つ。

「お!あの時と同じだね!」

 ホシヒメは笑顔で同じ速度のラッシュを打って応戦する。

「ちっ、舐めるな!」

 鋭いアッパーを余裕で躱し、ホシヒメはノリノリで反撃をぶちかます。

「フゥ~!」

 怯むアカツキに連続で裏拳をぶつけ、ラリアットで大きく後退させ、ドロップキックで突き飛ばす。

「クソが……!」

 アカツキの両腕が凍り付き、強烈な冷気を放つ。土砂降りの雨は次第に猛烈な吹雪へと変わる。

「ははぁ、いいねえ、雪だよ、雪!」

「いい加減黙れ!」

 アカツキの氷を纏った拳を右腕で受け止める。

「いいや黙んないよ。君がもっと心を全開にしてくれるまでね!」

 右腕を押し退け、掌底を放ち氷の爆発がホシヒメを吹き飛ばし、アカツキは逃さず落下点にスライディングで蹴りを放つ。

「そうそう、そういうことだよ!殺意でも怒りでもいい、思いを全部ぶつけてよ!」

 ホシヒメは空中で姿勢を制御し、アカツキと拳をぶつけ合う。

「ふざけるな!戦いは会話ではない!」

「いいや、私たちが闘気これを使って戦う限り、心の動きこそが全てなんだよ!」

 アカツキの拳を弾き、右腕でその腕を掴んで放り投げる。空中でアカツキは反転し、手から突風を放つ。

「おお!やっと出たね、新しい技!なら私も、さっき思い付いたことをやっちゃうから!」

 ホシヒメはゼロのように構え、竜闘気で生み出した刀を放つ。斬擊が風を引き裂き、アカツキはガードする。ついでに刀も投げて、そちらは雷で落とされる。

「下らんことを……!」

「いいね、もっと全力で戦おうよ!」

 強大な冷気が爆ぜると、アカツキはホシヒメの眼前に現れ、猛ラッシュでホシヒメを殴り倒す。

「この程度は百も承知ってね!」

 倒れる動作でテイクバックを取り、一気に戻して頭突きで迎撃し、右腕から拳状の竜闘気を放ちアカツキは吹っ飛ぶ。

「ささ、もっともっと!」

「そんなに見たいのなら見せてやる、俺の全力を!」

 完全に怒りで狂ったアカツキは竜化し、その三つ首の威容を現出させる。

「オーケーオーケー!私だって、空を飛べるんだから!」

 ホシヒメの右手が光り、凄まじい光が彼女を覆っていく。

「この瞬間を輝かせるために!」

 そして一対の翼と腕を持つ、金銀入り交じる神々しい竜が現れる。

「消えろ!」

 アカツキは爆風を右の首から放ち、ホシヒメは赫焉なる光を放つ。左の首も雷を放ち、中央の首が氷を放つ。直撃点で爆裂し、ホシヒメがマウントを取り、長大な下半身をアカツキの三つ首を纏めて締め上げ、大橋に叩き付ける。そして背中に反って帝都の空中建造物に放り投げ、アカツキは巧みな空中制御で立て直し、明らかに不自然な風を翼が孕んで高度を上げる。そして尻尾が炎を纏って展開され、三ツ又の刃がホシヒメへ放たれる。体の細さに対して大きめのホシヒメの腕がそれを受け止め、凄まじい激流がアカツキを押し潰す。が、それは巨大な氷塊となり、砕け散る。そしてその氷片が一気にホシヒメへ飛んでいく。翼の一撃でそれを一蹴し、闇の波動を放つ。それに紛れて刺さった光の剣が爆発する。

「ぐっ……竜化まで出来るようになっているとはな。貴様の力は想像以上のようだな」

「へっへん!私の強さを甘く見ちゃいけないよー!」

 ホシヒメの動作とは別に、光の剣はアカツキへ無尽蔵に降り注ぎ、アカツキの竜闘気に打ち消され続ける。

「そんな小雨で俺を倒せると思うな!」

「まあ期待しててよ。今に大雨にしてあげるから!」

 素早く肩を突き出したタックルを放ち、防御に入った左首を気絶させ、尻尾で牽制し合い、お互いに喉笛を狙って噛み付く。

「嵐擊!」

 アカツキの口許から風の爆弾が放たれ、強烈な衝撃でホシヒメを離す。

「爆雷!」

 右首から雷の刃が複数射出されて、ホシヒメの光の剣と激突する。

「刧火!」

「烈火!」

 そして両者同時に炎を放ち、吹雪が溶けて再び雨となる。

「く、くくく……」

「……?」

「時は来た!始祖凶竜の復活まで、あと少し!」

 アカツキは空中へ舞い、ホシヒメの方を向く。

「世界は混沌に包まれる。俺を倒したいなら、大灯台まで来るがいい!」

 そしてアカツキは飛び去っていった。ホシヒメは大橋へ戻り竜化を解く。そしてゼルたちの下へ戻る。


 帝都アルメール 行政区 テラス

 六人はテーブルを囲み、ソファに座っている。

「ねえゼル、大灯台ってなに?」

 ホシヒメの問いに、ゼルは首を横に振る。

「わからん」

「じゃあゼロ君は?」

 ゼロは少し考え、そして口を開く。

「大灯台と言えば、かつて水の都の傍にあったというアガスティアタワー。それを思い浮かべるが。ルクレツィア、貴様の方がこういうのは詳しいのではないのか」

 ゼロから話を振られると、ルクレツィアは顔を綻ばせる。

「せやなあ、氷結界の封印箱、あれの地下に大灯台は沈んでいるはずや。確かあれを解放するには、エウレカにある―――」

 そこでゼルが反応する。

「エウレカだと!?まさか、アカツキはそこに!?」

「まあ大灯台がーっちゅうならまず間違いないやろな。何をそんなに驚いとるんや」

「エウレカは俺の故郷だ。今回の恩赦の話にも出てこないくらい田舎だが」

 ゼロが立ち上がる。

「つまり次の目的地はエウレカということだな。エターナルオリジンから船で行くのが早い。だが貴様らは、今日だけでアルマ、エリファス、アルメールと、この世界の半分を横断している。いくらタフネスに自信があろうと、もう休んだ方がいい」

 ネロも同意する。

「同感だぜ。エターナルオリジンからここまでノンストップだったし、もう寝ようぜ」

「アルメール様のご厚意で部屋を用意してある。俺が案内しよう」

 ゼロの案内で、五人は部屋を出た。


 ???・終期次元領域

「ボーラスは目覚めていたが、あくまでも彼なりに加減して干渉していたようだな」

 狂竜王が隣のエメルの方を向く。

「ええ。まああの小娘は竜化すら出来ないようでは私たちの予想を越えるわけがありませんからね。妥当な判断だと思いますよ」

 と、背後から来る気配に二人は振り返る。そこには、先程戦っていたアルメールがいた。

「帝都竜神。よくぞ戻ってきた」

「我が王よ。やっとこの世界も大詰め、エリアル・フィーネのせいで色々と面倒でしたが、ようやく軌道修正が出来ました」

「うむ。して、来須から奈野花が貰った、あの―――」

「E-ウィルスでしょう。あれはもう既に、各都に仕込んであります。アカツキを追って彼女たちが着けば、それでこの世界は完成する。彼女の突破力なら、余裕を持って古代世界へ辿り着けるでしょう」

「そうか。友愛……愛が生命の叫びに勝てるか、見物だな」

 アルメールは礼をすると、反転して去っていく。

「エメル、そなたはどう思う」

「愛の方が強い、私はそう思いますよ。殺したいほど愛しいのと、憎いほど殺したいのが同時に存在するのなら、愛せば愛すほど憎むことができるでしょう?」

「……。そう言えばそうだったな、そなたは」

「はい。ああ、バロン……早くあなたにこの憎しみの全てを叩き付けたい……」

「バロンか。やつこそが最も重要な鍵であることに変わりはないが、だがまだ足りない」

「同感です。まだ彼は私の憎しみを受け止めるほどの形が出来ていない。もう一度この手でぶち殺される準備が出来ていませんからね。我慢、我慢です」

「行け、竜の姫。我が願いの礎となれ」

 二人は引き続き球体へ目を向けた。


 氷結界の封印箱

 アカツキがふらふらと入ってきて、メルギウスがそれを嘲笑する。

「笑うな、クズが」

「いや、思ったよりボロボロだと思ってねえ」

「あの小娘……俺たちの想定以上だ」

「Chaos社が何を考えてるのかはわかりませんが、私たちはただ一つ。始祖凶竜の完全なる復活を果たすだけですよ」

「そうだな……メルギウス。小難しいことは貴様に任せる」

「パーシュパタの復活時に全力を出すために、貴方はここで休んでおくといい。このすぐ地下は大灯台の頂上……そんなことは百も承知でしょうが、頂上で力を蓄え、解放されたパーシュパタと融合するのは重要なことですからね」

「では貴様がエウレカへ行くというのか」

「ええ。仮想立体映像で―――と行きたいところですが、エウレカは謎の空間。竜神種は住んでいますが、Chaos社曰く、シフルの濃度が極端に濃いとかで仮想立体映像の波長が乱れるとか」

「そうか。ならば言葉に免じて俺は地下に行く。……死ぬなよ。アルマは計画のあと二人を復活させようとしていたようだが……死者は蘇らない。同じ体に魂を込めても、それは魂が同じだけの別人だ。そいつ自身は蘇らない」

「それがホシヒメの半身であるあなたの見解ですか」

「ああ。尤も、もう片方のリータ・コルンツとやらがどんな考え方なのかは知らんが、そんなことは今は関係ない」

「そうですか。哲学の授業は全てが終わってから聞くとしましょう」

「待て、メルギウス」

 アカツキはメルギウスに自身の籠手を投げ渡す。

「これは?」

「そんな安物もう使わん。どこかへ捨ててこい」

 祭壇を片手間に粉砕し、アカツキは新しい籠手を付ける。

「俺にはこのタイラントフィストの方が合っている」

 メルギウスとアカツキは背を向け合って離れた。

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