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後編 第十話

 帝都アルメール 行政区・大橋

 ホシヒメとゼロは、大橋を渡りきった行政区の入り口で佇んでいた。

「クラエス、傷薬の類いは要らんのか」

「え?ああ、いいよ。私バカだから傷なんてすぐ治るよ!」

「貴様は俺が渡したものしか身に付けない信念でもあるのか」

「へ?」

「貴様が着ている服、全て俺が送った記憶のあるものだが」

「そうなの?」

「ああ。部下が選んだものだからセンスはよくわからんが」

「えーっと、まあ服に興味とかないからねー」

「そうか」

 ゼロが視線を大橋へ戻すと、大雨の中を歩いてくる四人組が見える。

「来たぞ、貴様の仲間だ。ブリューナクを負かしたようだな」

 二人は四人と合流すると、行政区の中へ入っていく。


 帝都アルメール 行政区・内部

 ゼロが先導し、五人が後をついていく。

「ところでクラエス……に聞いてもわからんか。ルクレツィア。貴様らは凶竜の企みをどれだけ知っている」

「ウチらはなあ、メルギウスがパーシュパタの復活を狙っとること、アカツキが何かしらの使命に基づいて動いとることしか知らん」

「俺が知っている情報とほぼ変わらんか……まあいい、アルメール様が何をお話しになるのか気になるところだな」

 ゼロは赤い絨毯の敷かれた道へ折れ、真っ直ぐ進む。そして辿り着いた木の扉を押し開く。そこには他の都よりも落ち着いた空間が広がっており、椅子に座る男はアルマに良く似ていた。

「アルメール様、彼らは力を示した」

 ゼロを一瞥し、アルメールは話し出す。

「ブリューナクから聞いているとも。君たち、よく来たね。俺はアルメール。帝都の竜神だ。君たちは竜神の都の襲撃からここまで、よく戦い、よく悩んできた。いいことだ。思春期の苦悩は、未来へ羽ばたく翼に変わるからな」

「くっさいセリフやなあ」

 ルクレツィアの大きい独り言に微笑んで、アルメールは立ち上がる。

「さあ、そこに座るといい」

 ソファへ座るように促し、全員が座ったのを見て再び口を開く。

「よくぞ俺の課した恩赦の条件を満たした。褒美に話をしてやろう」

 アルメールはわざとらしく咳を一つし、椅子に座る。

「竜神の都が襲撃される少し前、俺たちはこの世界に対する次元的干渉を確認した。それは本来、古代世界と呼ばれる世界からゼフィルス・ナーデルという存在を転送するための異次元ロードのはずだった。だがしかし、途中で思わぬ事故が起きたのだろう、ゼフィルス本体は来ず、その因果だけが凶竜の都に流れ着いた。と同時に、アカツキが竜神の都へ向け飛翔を始めた。そこで俺はアルマに計画の実行を唆した。俺はアカツキの襲撃と共に、竜王種を送り込み、ホシヒメにアカツキの罪を擦り付ける。アルマはそれを大々的に発表し、ホシヒメに恩赦の試練を課す。まあアルマは、君の中に眠っているはずだった九竜の力でChaos社を討とうとしていたようだが……この計画の焦点は君がChaos社を討つ力を覚醒するかどうかではない。世界の輪廻を食い破る最後の戦いへの準備が完了するかどうかだ」

 それを聞いて、当然の疑問をホシヒメが投げ掛ける。

「最後の戦いってなんですか」

「我々には想像もつかない、究極至極の決戦だよ。この世界、この時間だけではない、全ての存在の、全てをかけた戦いさ。戦いには、ふさわしい舞台が必要だ。そのふさわしい舞台を作るには、始源世界への接続を確保する必要がある。そこでこの世界の全てをかけて、その次元門を抉じ開けるのだよ」

 ゼロも含めた全員がポカンとしていた。

「ははは。今は気にしなくていい。今重要なのは、皇女、君に擦り付けられた罪が許されるかどうか、そしてパーシュパタの復活を止め、アカツキと―――友達になれるかどうかだろ?」

 アルメールは立ち上がる。

「さて、来たまえ。戦場の質で弟に負けるわけにはいかんしな」

 六人は立ち上がり、アルメールについていく。ある扉で立ち止まり、アルメールが液晶に顔を近づける。すると、緑色の光が目を読み取り、扉が開く。そこには円盤二枚が上下に据えられた、謎の装置があった。

「アルメール様、これは」

「うむ。ゼロ、君には話していなかったな。これは正史のChaos社で使われている転送装置さ」

「転送……装置?」

「これでエターナルオリジンへ行こう」

「そんなことができるのですか!?」

「百聞は一見にしかずだ。乗りたまえよ」

 七人は転送装置へ乗り込むと、光に包まれる。そして景色が元に戻る。


 エターナルオリジン

「ん?さっさと同じ?」

 ホシヒメの呟きに、アルメールは答える。

「外に出ればわかるさ」

 その言葉を聞いて、ホシヒメは外に出ると、そこは巨大な塔の麓の瓦礫の山だった。

「ここは……」

 ゼロが反応する。

「そうだね、私とゼロ君が戦ったところ!」

 ホシヒメの笑顔に、ゼロは苦笑いする。

「さて、ここなら気楽に戦える」

 アルメールは傍にあった瓦礫の山に腰かける。

「ゼロ、君も構えたまえ。敵として戦うだけではわからんこともあるだろうからな」

 ゼロはためらわずに腕から刀を抜く。

「クラエス、そういうことだ。俺も共に戦う」

 ホシヒメはその提案に満面の笑みを零す。

「もっちろん大歓迎だよ!」

 その二人の様を見て、アルメールは竜化する。が、その姿は他の竜化した竜神種とは大きく異なり、アルメールの人としての姿にそのまま竜の外殻を貼り付けたようになっている。

「さて、戯れよう。俺の持つ意味と、君たちが持つ意味。それをクロスワードのように、型にはめて交差させるんだ」

 アルメールは座ったままだ。

「舐めやがって……行くぜ!」

 ネロが飛び出す。が、それをゼロが裏拳で止める。

「ってえな、何しやがる!」

「愚図が。考えなしに突っ込んでどうする。座ったまま動かないのは何かあるに違いない」

 ゼロは空間の歪みを飛ばす。それはアルメールの眼前で無数の炎に撃ち落とされる。

「炎だと?」

 ゼルが訝しむ。

「怨愛の炎。心の炎だよ、少年。本来、火というものに熱量はない。火に熱量を与えるのは、それを熱いと思う心。心火というだろう。つまりはそういうことだ」

 アルメールはそう述べると、右手の人差し指をピンとゼロへ向ける。すると地面を引き裂いて炎が走る。

「ルクレツィア、ゼル、ノウン!貴様らは次に何をすべきかわかるな!?」

 ゼロの一喝に、ノウンがまず先頭に立ち、アルメールへ進む。

「ゼロ。それでは余りに教科書通り過ぎるな」

「何を……ん!?」

 ノウンたちとは別に、突っ込む一つの影がある。

「クラエス……!ちっ、だがそいつはあなたの想像をも越えたアホだ!あなたとて片手間に片付けられる女ではない!」

「そのとーり!」

 ホシヒメの拳をアルメールは受け止める。そこに辿り着いたルクレツィアとゼルも加わり、一撃を加える。しかし、アルメールの体は炎となって消え、三人の後ろにいた。

「なっ……」

 ゼルの感嘆の声と同時にルクレツィアが高速の抜刀を行い、躱したところを空間の歪みがアルメールを切り裂く。炎の跡を追ってネロが槍を突き刺す。が、ネロは至近距離で裏拳を喰らい、接近したゼロの一太刀は躱され刀を象った炎で打ち合う。

「アルメール様、あなたは一体何者なんだ!」

「俺か?俺は帝都竜神だ。知っているだろう」

「なるほどそうやってはぐらかすのなら……」

 ゼロが炎を弾き、空間の歪みを飛ばす。アルメールが炎となって躱すが、再び出現したところでルクレツィアの抜刀がネロの雷を受けて超高速で放たれる。

「なるほどな」

 アルメールの体には一文字の切創が付けられていた。ルクレツィアの追撃から瞬時に逃げ、ゼロの空間の歪みを躱し、ゼルとホシヒメの攻撃を受け流す。そして再び瓦礫の山に座る。

「わかった。君たちは中々いい腕をしているようだ。伊達に詔を集めてきたわけではないな。ならば、俺も本気じゃないと失礼だな」

 アルメールは力を溜め、上体を反らして解き放つ。その体は自然と中に浮き、炎の翼が四枚生えて、炎の剣を携えている。

「(だが、流石に全力全開というわけにはいかない。俺の役目も、君たちの役目も、この世界の役目も、ここで終わりではないのでな)」

 アルメールは背に手に持つ剣よりも細身の炎の剣を五本生み出す。

「これがアルメール様の全力かッ!?」

 戦くゼロの肩を、ホシヒメがポンと叩く。

「怖じ気づくことなんてないよ、ゼロくん。だってほら、想像をも越えたアホがここにいるんだよ?」

「そうだな、忘れていた」

 ネロも前に出る。

「俺を殴ったくせにビビるなよ、坊主」

「放蕩男に言われたくはない」

「んだと!」

「こほん」

 アルメールが大きめのわざとらしい咳をし、ゼルとノウンが二人を止める。

「うむ、ありがとう君たち。では始めようか、ホシヒメ」

 炎の翼をはためかせ、アルメールは斬擊を加える。それをゼロが受け止め、ホシヒメが反撃を繰り出す。アルメールの細剣が迎撃しようとしたとき、ホシヒメの右拳と打ち合ったことで強烈な光が生まれる。アルメールは壊れた機械のように全く同じ姿勢だが、ホシヒメを含め周りは皆怯んでいた。ホシヒメの右手の紋章は、赤く輝いている。そしてアルメールの炎が吸い込まれ、ホシヒメの右手に収まる。

「おめでとう、皇女」

 アルメールはパチパチと手を叩く。

「俺がすべきことは終わった」

「え?はい?何がどうなって……」

「君のその右手こそ、この戦いの証さ」

 ホシヒメは自分の右腕を見て、そして驚く。

「な、なんじゃこりゃあ!?」

 右腕は竜化しており、淡く赤い光を灯していた。

「それこそが俺の真の狙いだよ、ホシヒメ。君の右腕は、今全ての都竜王と都竜神の力を手にした。残滓と言えど、パーシュパタを止めるには十分すぎるだろう」

 いきなり過ぎる展開に、ルクレツィアが割り込む。

「ちょい待ち。アルメール、アンタは最後の戦いのためにこれがあるっちゅうたな」

「そうだな」

「パーシュパタを止めることと、これがなんの関係があるんや」

「こちらにはこちらの都合があるのだよ、ルクレツィア。君たちと俺の目的は今一致しているだろう?おっと」

 アルメールはデバイスを取り出して、通話をする。そしてデバイスを懐に納め、ホシヒメたちの方を向く。

「アカツキが来た。君の命を拐いに」

 ホシヒメは生唾を飲む。

「まだ君たちにとって謎が多いだろうが、現実は謎の解明を待ってはくれないからね。先に進みたまえ。ゼロ、俺は後で戻る。君は彼女たちを連れてアカツキの迎撃に向かうのだ」

 ゼロは頷き、一行はワープ装置の方へ戻っていく。

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