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後編 第九話

 同時刻、帝都アルメール フロントエリア

「水都竜王ブリューナク、いざ参る!」

 ブリューナクが氷剣を生み出し、突進する。その速度はゼロにも勝るとも劣らない速度で、ルクレツィアが咄嗟に前に出て防がなければゼルに氷剣が直撃していた。後方の兵士もブリューナクに少し遅れてアサルトライフルやスナイパーライフル、更には戦車主砲や装甲車のミニガンで攻撃してくる。ネロが雷で銃弾のベクトルを変え、砲撃はノウンが防ぐ。ゼルがブリューナクの氷剣を弾き飛ばし、ルクレツィアの一閃がブリューナクを後退させる。

「ゼル!こっちは僕たちが片付ける!」

「ルー!てめえはそいつを殺れ!」

 二人の声に、ゼルたちはそちらを向かずにブリューナクへの追撃を開始する。

「ほう、どちらも中々やる」

 ブリューナクは氷剣を両手に持ち、二人を同時に受け止める。すぐにルクレツィアの方の氷剣を砕き、氷の壁へと変える。ゼルへ蹴り入れ、怯んだところを切り上げる。鼻先を掠め、ゼルの反撃をタックルしつつ避ける。氷を割って出てきたルクレツィアを2本目の氷剣を再び作り出して阻み、背後から来たゼルの攻撃も受け止める。が、ルクレツィアが一気に身を引き、抜刀の勢いで雷を放ち、ゼルの蹴りを喰らって姿勢を崩したところにそれは直撃する。ブリューナクは直ぐに姿勢を戻し、平然と立ち上がる。

「ウチら二人を同時に相手できるっちゃあ、中々やな」

「ああ、混乱した事態の中で、都竜王に抜擢されるだけはあるな」

 二人と視線を交わし、ブリューナクは氷剣を再び生み出す。

「竜神種は生きてはならん。皇女の恩赦など、死んでもさせるものか」

 それを聞いて、ルクレツィアが鼻で笑う。

「やっぱし、アルメールは元から恩赦する気なんて無かったんやな」

「そのようだ。だがブリューナク。今の俺たちには恩赦はゴールじゃない。お前は俺たちにとって、通過点でしかない」

 自分に向けられたガンブレードと刀を見て、ブリューナクは狂ったように笑う。

「やはり竜神種は滅びねばならん。骨の髄まで凍り付かしてやろう!」

 ブリューナクが身を屈め、一気に解き放つ。激流が流れ出し、それが瞬間的に凍り付く。

「卑小なる竜神種よ!我が吐息にて、氷像と化すがいい!」

 竜化したブリューナクは、高層ビル群に匹敵するほどの巨大さだった。

 凄まじい冷気で周囲は完全に凍りついており、ネロとノウンが戻ってくる。

「まさか自分の兵を犠牲にするとはね」

「だが好都合だぜ。鉛弾ってのは数が多くてめんどくせえ」

 ブリューナクの口が開く。絶大な冷気が零れ、それが光線のように放たれる。躱した四人の隙間を縫い、氷の吐息は帝都を凍りつかせる。ルクレツィアがビルを駆け上がり、ブリューナクへ突っ込む。ブリューナクの振るう腕を避け、竜化する。ルクレツィアの腕から結晶を纏った嵐が放たれるが、尾で一蹴される。他の三人も竜化し、狂乱したノウンが足の一撃を喰らわそうと突撃し、ブリューナクの爪の一撃とぶつかり合う。ネロの雷球とゼルの光弾がその間隙を縫うが、闘気に阻まれる。ルクレツィアは腕を肥大化させてノウンと競り合う腕を弾き、ノウンは後ろへ翻りながら翼から刺を放つ。ガスで加速した刺がブリューナクの長大な胴体へ刺さり、内部へ突入する。ゼルが錐揉み回転しつつ光を纏って滑空を当てようとするが、巨大な翼に阻まれる。間髪入れずにネロが雷の竜巻を三つ飛ばし、更にルクレツィアが火のブレスをその竜巻に加える。氷の吐息で難なく弾かれるが、次に飛んでいったノウンが揺れを起こすほどの勢いで地面へ足を突き立て、ブリューナクごとアスファルトを空中へ放り投げ、回転しながらそれを追撃する。ブリューナクの巨体が交差点に落下し、衝撃が道路に沿って進み、アスファルトを引き剥がす。

「小童どもが……調子に乗るなよ!」

 ブリューナクの姿は小さくなり、ほぼゼルたちと同サイズの竜へと変化した。

「体を縮めたか」

 ゼルの頷きに、ノウンが猛る。

「間違いねえ、体はコンパクトな方がエネルギーの効率がいいからな」

 ブリューナクは吠える。

「我が力、止めることなど出来はせぬ!」

 放った吐息は先程と違い冷気と呼べるものだったが、間もなく無数の氷塊が続々とゼルたちへ落下する。正面切って特攻するノウンをブリューナクは頭の一撃で怯ませ、首を掴んで叩き伏せる。もがくノウンへ、何度も爪の一撃を加えようとするが、薄皮を削ぐに留まる。そうしている内にルクレツィアが猛烈な速度で飛び込み、今度はブリューナクがマウントを取られる。しかし、マニュピレーターが生えた尻尾の先でルクレツィアを掴み、すぐに放り投げる。立ち上がったノウンを再び突き飛ばし、そしてネロのタックルでよろめく。続くネロの巻き付きを強引に振りほどき、ネロを氷塊へと変える。尻尾を氷塊へ突き刺し、上空から突っ込むゼルへの盾にし、ノウンに素早く冷気を吐きかけて動きが自由になるより早く氷塊を叩きつけて氷塊ごと吹き飛ばす。ノウンとネロは同時に吹っ飛び、気を失った。そこにルクレツィアが飛び込み、右腕による一閃、回転による尻尾での攻撃、そのままバック転して結晶を飛ばし、止めにブレスを放つが、全て容易にブリューナクに止められる。

「緩いぞ、最強の凶竜!」

 ブリューナクは叫ぶと、溜められていた莫大な冷気をルクレツィアに解き放つ。ビルとビルの間を封鎖するような巨大な氷塊になり、ブリューナクはそれを足場にビルの屋上へ向かう。ゼルが急襲し、変形させた顎の一撃でブリューナクを後退させる。

「確かにお前、強いな」

「当然だ、お前たちとは戦った時間も、何もかもが違う」

「だがな、俺たちはこれで突き進むのさ。完全に立ち止まる、その日までな」

「ならばここで朽ち果てよ、愚かなる竜神種!」

 ゼルが回転し、翼の一撃を据える。それを翼で防いだブリューナクは更に姿を変える。腕が人間と同じような関節の作りとなり、翼が肥大化し、遂に空中へ飛び立つ。ブリューナクの腕が伸びるが、ゼルは躱し、巧みな空中制御で先制の一撃を与える。ブリューナクは噛み付くように組み付き、間近で冷気を当てようとするも、ゼルも同じように光線を吐き出し、両者離れる。翼の一撃を弾かれ、尾から光線を放つも躱され、接近してきたブリューナクを光弾で迎撃する。その弾幕を越えて、ブリューナクは最大の冷気を放つ。そこに竜化したネロの背に竜化を解いて乗ったノウンが現れ、盾に変形した剣でそれを防ぐ。そしてブリューナクの背後からルクレツィアが現れ、尾を刀のように腕で絞って解き放ち、ブリューナクの片翼をもぐ。

「今や、ゼル!」

 その声に応えるようにゼルは飛び出し、ブリューナクへ翼の一撃を加え、全員がアスファルトへ降り立つ。凍っていた兵士たちや街は元に戻り、ブリューナクは竜化を解いて、元の竜人に戻っていた。ノウン以外の三人も竜化を解く。

「勝負あったな」

「くっ……力量に種族の差はない。見事だった」

 ブリューナクは立ち上がる。

「詔は皇女に渡せ。俺はアルメール様にお前たちと戦えとしか命じられていない。水の都の公務に戻らせてもらう」

 踵を返し去っていった。

「ホシヒメのところへ行くぞ」

 四人は大橋に向けて歩き始めた。

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