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後編 第八話

 ホシヒメはゼロの後をついていくが、その道の左右にはエターナルオリジンの時のように大量の竜王種がきちんと整列している。区画の端まで来ると、中央に聳える行政区から大橋が展開される。

「クラエス」

「ほへ?」

 急に呼ばれてホシヒメはすっとんきょうな声を出す。

「アルマを説き伏せたと聞いたが、それは本当か」

「え。まあ、説き伏せたってより、友達になった?」

「そうか。貴様ならそうすると思っていた。俺はあの戦いのあと、ずっと考えていた。貴様に対するこの思いは何なのか」

 ゼロは橋の中央で立ち止まり、夕日を背に受けて雨雲を眺める。ホシヒメもその横に立つ。

「俺は戦う意味を持たなかった。ただ貴様へのこの思いと、アルマへの憎しみとをない交ぜにして、叩きつけるだけだった。だが貴様に会って、俺の心は変わった」

 ゼロはホシヒメの方へ向き直る。

「決着の時だ、クラエス。貴様は力と理想とを欲しているのかも知れないが、俺はただ、力を求める」

 ゼロがホシヒメから離れる。そして、橋が変形し、浮かぶ円盤と化す。

「おっけー。君がそれを望むなら、付き合い続けるよ。君のその望みが叶うまで、ずっとね!」

 両者が構える。俄に水滴が空から滑り落ち始めるのを合図に、空間の歪みが虚空を裂き穿つ。流れるように回避し、そのまま足から水を湧き出し滑る。雷を纏って空中を蹴り、ゼロへ拳を届かせる。当然のように右腕で弾かれ、反撃の一太刀をぎりぎりで凌ぐ。

「ふん、やはり力任せか」

「いいや、ちゃんと掠め手だってあるんだから!」

 ホシヒメは竜闘気を放つ。

「ほう、それを掠め手というか。貴様らしい」

「ありがとねっ!」

 竜闘気のパワーに任せたパンチを放ち、その一撃をゼロが先程のように防ぐが、僅かに身を崩したために反撃は難なくホシヒメに防がれる。しかし、重ねて放つ空間の歪みに吹き飛ばされ、竜闘気の鎧を無数の刃が音を立てて掠めていく。ホシヒメは空中で姿勢制御をし、続けて発射される空間の歪みを拳で往なす。

「バカな、そんなことが出来るのか、貴様!」

「えっへん!やっと驚かせたね、ラッキー!」

 意表を突かれたが、ゼロは冷静に蹴りを弾き、刀ではなく拳でホシヒメを殴り飛ばす。

「うぇっぷ……今のは効いたよ、ゼロ君」

「ふん、バカめ。貴様に遅れを取るほど落ちぶれてはいない。だが、たった数日でそこまでの隠し玉を用意できるとは予想外だった。故に、俺も本気を出す!」

 ゼロが四枚の翼を展開する。そして、翼は先端に配された掌を開く。

「来るぞ」

「うん、わかってるよ」

 先程まで小雨だったが、いよいよ雨粒が大きくなり、更には行政区を照らすサーチライトで、視界が途端に騒がしくなる。

「えへへ、雨の日に外に居るなんて、なんか悪いことしてるみたいだよね!」

「知らん。そんなことに同意を求めるな」

 ゼロは光の剣を自分の周囲に回転させつつ配し、同時にホシヒメへ発射していく。雨とともに光の剣はホシヒメへ向かうが、それは竜闘気で撃ち落とされる。

「そんな豪華な武器、雨に紛れさせてもバレバレだよ!」

「なるほどな、いいだろう」

 ゼロが身を引き、空間の歪みを連射する。そして刀から単純な真空刃を放ち、純粋に空間を引き裂いて繋げる。

「これはっ……!」

 ホシヒメは意図に気付いたが、間に合わずに一つの歪みに激突する。今までの真空刃ではなく、先程の光の剣がホシヒメに次々と突き刺さる。吹っ飛ばされ、痺れたように動けないホシヒメの胸に、ゼロは刀を突き刺そうと肉薄する。が、竜闘気を噴出させて光の剣を砕き、間近で構えられた刀を弾き、拳を腹に叩き込む。反撃で刀が腹に突き刺さるが、ホシヒメは躊躇なく引き抜いてゼロへ刺し返す。ゼロもまた躊躇なく刀を抜き、距離を取る。

「焦るのはよくないよ、ゼロ君」

「勝ちを狙いに行ったと言え、愚図が」

 ホシヒメもゼロも、雨に打たれながら笑っていた。

「まだあるんでしょ、君の隠し技」

「まだあるんだろ、貴様の新技」

 二人は同時に言い合った。

「えへへ」

「ふん」

 ゼロはふっと力むと、自分の分身を二つ生み出す。

「おお!ゼロ君が三人!ルクレツィアに一人あげたい!」

「あいつでは相手にならん。戯れ言を言うな」

 ゼロが身を引き空間の歪みを放つと、遅れて分身も同じ動きをする。その後、三つの影はそれぞれ縦横無尽に暴れだす。

「へへへ……やっぱ君はすごいや。でもね!」

 ホシヒメは拳を握り締め、それを雨で濡れたステージに叩きつける。ゼロの分身の内の一体が放つ空間の歪みの前に水の壁が浮き上がり、それを打ち消す。頭上から来たもう一体の攻撃も水壁が凌ぎ、背後から来た本体の刀を受け止める。

「まさか水都竜神アミシスの力か」

「うーん、よくわかんない!」

「これが貴様以外ならハッタリを疑うが、貴様にハッタリは一生無理そうだ」

「そお?嬉しいなあ、それだけ正直ってことだよね!」

「間抜けの間違いだ」

 ゼロの翼が拳を放ち、ホシヒメは海老反りになる。もう一枚が足を掴んで組み伏せるが、それを振り解いてゼロの首に足を絡ませ、バック転しながら放り投げ、突っ込んできた分身の一体目を頭突きで怯ませ、掌底から竜闘気を炸裂させて破壊する。分身と本体が同時に放つ攻撃を躱し、二体目の分身へ攻撃しようとしたとき、気配に気付いて身を引く。大量の光の剣が降り注いだ後、分身が追撃を放つ。それを水壁で往なし、その影から分身を手刀で粉砕する。と同時に、ホシヒメの視界が切り刻まれ、凄まじい手数の斬擊を喰らう。

「人形遊びにいつまでかまけている。それは俺の質量を持った残像、砕こうがどうしようが闘気が続く限りいくらでも出せる」

「でもさ、闘気って瞬間的なパワーを生み出すものだから、足りなくなったらゼロ君の得意な高速バトルができなくなるよ」

「そういうところが間抜けだ」

 ゼロは抜刀しつつ突進し、そのまま切り上げながら空中に留まり、空間の歪みを幾つも放つ。

「(ゼロ君の言った通り、さっきはあんまりにも分身の方に集中しすぎてあの大技を受けちゃったし……今度こそ、あの技を真正面から受け切る!)」

 竜闘気を纏った拳で空間の歪みを弾き飛ばしながら、高速移動を繰り返すゼロへ少しずつ間合いを詰めていく。対するゼロも歪みを放ちつつもホシヒメに接近しては鋭い一撃を放ち続ける。やがて歪みが許容量を越え、巨大な空間の歪みを作り上げる。

「覚悟はいいかッ!」

「もちろんおっけー!やっぱ君もめちゃくちゃ正直者じゃん!ちゃんと律儀にその技撃ってくれるんだからさ!」

 空間の中を真空刃が暴れ狂い、ホシヒメをもはや目測不能な速度で切り付ける。そしてゼロは刀を右腕に納め―――るところでホシヒメに首を掴まれ、思いっきり叩きつけられる。

「勝負あったねっ!」

「くっ……ああ、そうだ。貴様の勝ちだ」

 ホシヒメは片膝を付いて立ち上がるゼロに、手を差し伸べる。

「なんだ、この手は」

「え、何って、普通に?」

「自分で立てる」

 ホシヒメは強引にゼロの手を自分の手と組ませる。

「じゃあこれは握手だよ。お互いの健闘を称えてーって」

 ゼロはその手をすぐに振りほどく。そしてばつが悪そうに呟く。

「貴様といると調子が狂う」

 それを聞いて、ホシヒメはにこりと微笑む。

「えへへ、褒め言葉だよ?」

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