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前編 第十話

 土の都・ガイア 港

 山を降り、畑の波を越えていくと、そこには青々と海が広がっていた。血管のように浜辺から生える桟橋の先には、複数の漁船が停泊している。その集団の横にある巨大な建屋の中に、ルクレツィアの船はあった。

「いや、明らかに外に泊めてあるやつの数倍でかいよね」

 ホシヒメが見上げて感嘆の声を漏らす。

「当たり前やろ。これは狩猟船。海賊とか迷惑な生物をぶち殺すためのものなんやから」

 ルクレツィアが言った通り、その船には大砲や機関砲が複数設置されており、物々しい装甲に身を包んでいた。

「これほどの戦艦を作るとなれば相当の資金が必要なはずだ」

「ウチは稼ぎがええからな」

 ゼルはやれやれと言った風に首を振る。

「操縦はお前がやるのか?」

「もち、ウチがするで」

「これを一人で動かすのか?」

「まあ乗ってみぃ。アンタが思ってるよりハイテクやと思うで」

 手慣れた動きで乗り込むルクレツィアに、三人は追従する。分厚い鋼鉄の扉の先には金属質な通路が続いており、ルクレツィアはその中をスタスタと進む。明らかにバルブハンドルを回して開けるような扉をルクレツィアは蹴り破り、振り向く。

「ほれ、これを見ぃ」

 ルクレツィアの後ろには無数の液晶があり、様々な情報が映されていた。

「ほへえ、なんかすごそう!」

 ホシヒメが手を合わせて目を輝かせる。

「なんだこれは……」

 ゼルの疑問にルクレツィアが答える。

「エターナルオリジンで発見された超技術遺産群……この世界でのオーパーツとも異なる、完全なる異世界の産物、いわゆる〝ネオ・オーパーツ〟というやつで、フリードリヒ・デア・クローゼとかいうどいつ?とかいう都の船らしいで。本当ならchaos社の技術研究のためにアルマの所有物になるはずやったのを買い取ったんや」

「歪な形のようだが」

「そりゃそうやろ。ウチが色々ぶった切って雷でくっつけとるんやから。元々は運用に何十人も必要なポンコツやったんやで?」

「貴重な歴史資料に何をしてるんだお前は……」

「まあ、動けばええやろ。それのお陰で今こうしてドランゴに行けるわけやし。ほれ、もう出るから座れ」

 ルクレツィアは液晶に目を向け、素早く入力していく。十秒もしないうちに船は動き出した。


 海上

 紺碧の流れを断ち切って、船が進む。雲1つない青空が陽の光に爽やかさを添える。

「うーむ、めんどいな」

 ルクレツィアがぼやく。

「どうしたんだい、ルクレツィア」

 ノウンが傍へ寄る。

「空は晴れとるな」

「そうだね」

「鳥よりデカい影がこっちに向かって来とるわ」

「ん?それって……」

「竜王種がこの船目掛けて飛んで来とるっちゅうことやな」

「でもまだ敵かどうかは……」

「いや、もう肉眼で見えるで、ノウン」

「赤の竜王種と黄の竜王種……まさかペイシオとレイシオ!?」

「ゼロ兄のところの部隊やな。アイツらが来とるんなら、間違いなくドランゴにゼロ兄が居るっちゅうことやな。そんで、今からこの船は攻撃される」

「まずいよ!ホシヒメとゼルは今甲板に居るよ!?」

「ま、攻撃してきたら反撃するやろ」

「楽観的!?」

「ゼロ兄を送り込むっちゅうことは、よっぽど余裕が無いんか知らんけど、こっちをドランゴに釘付けにしとかなあかん理由が出来たってことやな」

「そうだね……僕は甲板で二人の援護にまわ……」

 ノウンが言い終わるよりも先に、ルクレツィアはノウンを液晶の前へ押す。

「え、ちょっと!?」

「ウチも戦いたいねん。適当に動かしといてや」

「動かしたことないよ!?」

「大丈夫や、ノウンならちゃんとやれる」

 反論を一切気に留めず、ルクレツィアは艦橋を出ていった。


 甲板

「いやあ空は広いし海は青いねえ」

「そうだな、宿で休むのとはまた違う心地よさがある」

 ホシヒメとゼルは並んで海を見ていた。

「そういえばさ、ゼルの故郷ってドランゴとかいうところの近くなんでしょ?」

「ああ、エウレカはドランゴに近いな。砂漠を越える必要があるが」

「なんでゼルって竜神の都に居たの?」

「あー、それは……」

 ゼルは顎に手を添え、目をしばたたせる。

「どったの?」

「いや、なんであそこに居たのか全く思い出せなくてな」

「ふーん。まあ今こうして仲いいんだし気にすることでもないか!」

 ホシヒメが満面の笑みをすると、ゼルは吹き出す。

「あれ?なんか面白かった?」

「この状況でもそんな屈託のない笑顔ができるのが面白くてな」

「誉めても何もでないよー?」

 と、その時、後ろの扉が蹴り飛ばされ、その轟音で二人は振り向く。ルクレツィアがゆっくりと甲板に出てきて、二人に告げる。

「ドランゴは竜王種に占拠されとるようや。この船にも竜王種の尖兵が来た」

「それって……」

「ホシヒメ、覚悟はええか?ドランゴにはゼロ兄がいる。竜神の都でアンタらを叩きのめしたアイツや。今からこの船に来るのはその直属の兵。あの戦いから一日しか経ってないとはいえ、アンタはあのブロケードと対等以上に戦った。今ならゼロ兄とも勝負できるはずや。やから……」

 ホシヒメは籠手を付け、拳を突き合わす。

「本番前の腕慣らしってことだね!」

「せや。ほれ、お出ましや」

 紺碧の彼方から、赤と黄の竜王種が現れる。その二体は船の眼前で停止し、赤が口を開く。

「現在、ドランゴに入国することはできない。早急に反転し、帰れ」

 ホシヒメが一歩踏み出す。

「嫌、って言ったら」

 黄が口を開く。

「蛮族には死あるのみ」

「だってさ、ゼル、ルクレツィア」

 ゼルが呆れ気味に頭を掻く。

「元から強行突破の流れだっただろ」

 ホシヒメが力強く頷く。

「うん!ってことで、邪魔だからどいてねっ!」

 ホシヒメが飛び上がり、赤と空中で拳を交わす。

「貴様は我ら竜王種に戦いの道を与えた。だがアルマも、アルメール様も、貴様に猶予を与えた。だが、その浄罪の路……貴様に渡り切らせるわけにはいかん!」

 赤は拳圧でホシヒメを弾き、海上へ飛ばす。ホシヒメは闘気で海へ着地し、腕だけで飛び上がって迎え撃つ。先ほどホシヒメを迎撃した左の上腕を足で切り飛ばし、顎にアッパーカットを叩き込む。赤は組んでいた下腕を開き、炎を連射する。ホシヒメはそれを次々と打ち落とすが、発生した硝煙で視界が煙り、赤の拳が直撃する。それを無理矢理押さえ込み、右の下腕を引きちぎる。体を大きく崩したところに、胸へ強烈な一撃を加え、赤は海へと落ちた。

 一方、黄は甲板にいるゼルへ電撃魔法を次々と加えていた。この攻撃は目の前を飛び回るルクレツィアを狙って撃っているものだが、全く当たらないせいでゼルへ飛び火している。

「待てルクレツィア!少しは俺のことを考えろ!」

 ゼルが叫ぶが、ルクレツィアは全く止まらない。それどころか、もはや黄は追いかけるのを止め始めている。明確にゼルを狙った電撃が放たれるその瞬間、

「甘いッ!」

 ルクレツィアが突然現れ、帯電した刀を振り抜いて黄の体を両断する。黄の体は真っ二つになって海へ沈んだ。

 ホシヒメが海上をジャンプしながら戻ってくる。

「いやあ、雑魚だったね」

 ホシヒメは肩を回しながら甲板を歩く。

「俺にはよくわからんが」

「まあまあ。アンタだってウチの大技見れて嬉しかったやろ?」

「昨日からろくに戦えてないんだがな」

 ルクレツィアは手元の無線を取り出し、ノウンへ告げる。

「ノウン、こっから真っ直ぐ全速前進や。恐らくドランゴに近づけば近づくほど、竜王種の哨戒兵が多くなるやろうが、気にせず突っ込むんや。ええな?」

『いいけど……三人とも甲板に居て大丈夫なの?』

「ええねん。その程度じゃ死なんし」

『わかった』

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