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前編 第九話

 アーメレス大草原

「んで、次はどこに行くの?」

 ホシヒメが籠手の様子を見ながら呟く。

「次は土の都だね。ガイア様はアミシス様と同じくらい穏和な方だから、そう問題はないはずだよ。土の都を抜けたあとは船でドランゴに向かう」

 ノウンが地図を見ながら答える。

「船だと?ガイアを行き来する民間の旅船に今乗れるわけがないだろ」

 ゼルが問う。

「そこは大丈夫や。ウチが趣味で買うた漁船がある」

 ルクレツィアが満面の笑みで振り向く。

「趣味で船を買うのか……」

「稼ぎがええからな」

「まあいい。とりあえず、ストランゼ川を抜けるんだろ」

 ノウンが地図をしまい、歩き始める。三人はそれについていく。


 政府首都アルマ・都庁

 アルマは机の上で頭を抱えていた。

「ブロケードの報告にあった、ブラックライダー……あれは恐らく、狂竜王直属の配下、〝黙示録の四騎士〟の一人……!だとしたら、予想以上に手が早いようだな、chaos社は……」

 深く溜め息をつく。

「九竜を覚醒させ、ホシヒメを分割して戦力にする算段だったが……仕方あるまい。アカツキの力の矛先を外の世界に向けさせて時間を稼ぐか……」

 懐から端末を取り出そうとしたとき、視界に影が揺れた。

「誰だ!」

 影は形を成し、黒い鎧の骸骨騎士が現れた。

「ブラックライダー……!」

「哀れなる駒よ。私は汝に言の葉を伝えに来た」

「なんだと」

「もはや、あの竜に九竜は無し。此度の週でこの宇宙は終わる。原初に手渡したあの九つの力もまた、我らの始源の世界へ戻った。あの小娘に宿るは力無き竜の亡骸」

「何を……言っている。ホシヒメは九竜の力の集合体だ!九竜が力を失うなど……!」

「九竜そのものが失われたなど、誰が言った。今回の宇宙の始まりを知らぬ汝には理解しがたいか」

 ブラックライダーは一歩退き、踵を返す。

「待て!どういうことだ!?」

「汝がこれを理解する瞬間は永遠にない。汝は我が王に選ばれし器ではない」

「王……杉原明人か」

「推測で物事を判断するな、政府竜神。汝が考える以上に、世界というのは遠大だ」

 ブラックライダーはそのまま消えた。

「くっ……だが九竜の抜け殻と言えど、その力に狂いはないはず……我々がchaos社を討つ計画に支障はない」

 アルマは立ち上がり、深く呼吸をした。

「さあ、ホシヒメ……我らの世界のため、その罪を平らげるのだ……」


 土の都・ガイア

 太陽はちょうど真上に上がり、土の都の畑や森の緑を光で彩っている。土の都はその名の通り、肥沃な大地がその一帯を覆う都であり、この世界最大の食料生産地でもある。耕作範囲の確保のために、先進的な建造物は余り無く、家屋も木造のものが多い。

「うーん自然の香り」

 ホシヒメが深々と息をする。肩の骨が鳴る音が幾度か響く。

「行政区はどこにあるんだ?」

 ゼルがノウンに問いかける。

「山の中だよ。とはいっても、ちゃんと道が整備される程度の深さだから大丈夫だけど」

「いやあ平和やなあ」

 ルクレツィアが先程購入した人参を直に頬張る。そしてろくに咀嚼せず飲み込む。

「ぎゅっぷい。アルマやブリューナクは喧しいとこやし、住むんならこういうところがええなあ」

 その光景にゼルだけが驚愕しながら、一行は行政区へ進む。


 土の都・ガイア 行政区

 山の中に整備された道を登っていくと、開けた場所へ出た。そこには民家に比べ非常に豪華な屋敷が建っていた。ルクレツィアが扉を開くと、正装の男が一行を案内した。区長室の前で男は退き、ホシヒメが扉を開く。ブリューナク、ブロケードで見た区長室とほぼ同じ内装の部屋が現れ、机には男が座していた。

「やあ、来たか。待っていたよ」

 無精髭を生やした恰幅のよい男は立ち上がり、ホシヒメたちを来客用のソファへ促す。

「えと、あなたがガイアさん……ですか?」

 慣れない丁寧語でホシヒメが訊ねる。

「いかにも。私が土都竜神ガイアだ。そちらの状況は把握している。一つ確認させてほしいことはあるがね」

「なんですか?」

「君が本当に、ヤズさんを殺したかどうかだ」

 ガイアは鋭い眼光を光らせる。ホシヒメはそれを真っ直ぐ見つめ、答える。

「私はおばあちゃんを殺してはいません」

「ああやって自分の顔が映像で映ってもかね」

「はい。何度でも言って見せます。私ではないと」

「……」

「言っても信じてもらえないかもしれません。でも、それは私に力が無いから。この詔を集める旅は、私に濡れ衣を着せた張本人を見つけるのと、私自身の力をつけるためにやっているんです」

「なるほど。君は中々豪胆だな。この事件を解決するだけではない、祖母の形見にこの世界を導こうと言うのか」

「はい。私の理想……みんなが笑って暮らせる世界、それを作るだけの力を手に入れたいんです」

「力か……ならば、こちらに来たまえ」

 ガイアは立ち上がると、ホシヒメたちを手招きする。それに従い、ホシヒメたちは廊下へ出る。そして玄関から屋敷の前の広場に出る。ガイアは振り返る。

「ホシヒメ、エターナルオリジンを知っているかい?」

「エネルギーをなんかどうこうしてるところですよね」

「まあ、おおよそはそれで合っている。そこで見つけられた機動人形、ゴーレム。君たちがアルマで交戦したもののオリジナルというわけだが、その中でも、ティタノマキアと呼ばれる巨大な機体があってな。出力の確認の次いで、君と戦わせてみようと思ってここへ来た」

 ガイアの後ろから巨大な影が現れる。間隙のない統一された装甲とモノアイが異様な雰囲気を放っていた。

「(こいつは……chaos社のウォーカーギア、天城か……)」

 ルクレツィアが刺さるような視線を傍の森へ流す。そして表情を戻す。

「ウチはアンタらが戦うところを見してもらうわ」

 一歩引いたルクレツィアをガイアは僅かに警戒しつつホシヒメへ向き直る。

「やるよ、ゼル、ノウン」

「当然だな」

「僕たちは君のために居るんだからね」

 ガイアは頷く。

「ならば、存分に力を振るうがよいぞ」

 ホシヒメとティタノマキアを中心として、その周囲に岩が隆起する。

「この岩のフィールドの中ならば君たちも全力で戦えるだろう。周りは気にせずに戦いたまえ」

「ありがとうございます!」

 ティタノマキアのモノアイが光を灯し、背から複数のアームを展開する。その先には、大口径の連装砲が備えられていた。

 ホシヒメが先手を打って飛び出す。最初に放たれた砲弾をノウンの合体剣の一部が撃ち落とし、ホシヒメはティタノマキアと拳をぶつけ合う。

「(天城のヘッドパーツが単体で戦ったところで大した成果は出えへん。都竜神と都竜王全員……いや、ブリューナクは何も知らん可能性はあるが……ほぼ全員がアルマの計画に荷担しているとするなら、ガイアがこの程度の事実を知らんわけがない)」

 ルクレツィアは岩の壁の上に座って訝しげな表情をする。

「(何がしたいのか今はわからへんな)」

 ゼルの斬撃が連装砲の1つを両断し、ホシヒメがティタノマキアの拳を殴り返し、粉砕する。ゼルを狙った砲弾をノウンが防ぎ、続いてもう一本連装砲を繋ぐアームを切断する。ホシヒメがもう片方の腕に強烈な一撃を加え、飛び上がり蹴りでモノアイを砕く。壊れたモノアイに手刀を両手で刺し込み、外側に開いて破壊する。

「よし!倒せたよ!」

 ホシヒメは崩れ落ちるティタノマキアから離れ、ガッツポーズを取る。と同時に岩が崩れ落ち、ルクレツィアとガイアが歩いてくる。

「思っていたより弱かったようだな。君たちの強さでは経験値にすらならないか」

 ガイアは肩をすくめた。

「その籠手に私の詔を授けよう」

 籠手に力が注がれ、ホシヒメはその様をまじまじと見つめる。

「君の旅路の充実を祈る」

 そう言うとガイアは屋敷へ帰っていった。その後、ホシヒメはルクレツィアへ話しかける。

「そう言えばさ、なんでルクレツィアは戦わなかったの?」

「なんでっちゅうてもな。どう見ても雑魚やろこんなやつ」

「それだけ?」

「それだけ」

 数瞬沈黙し、ホシヒメが苦笑いする。

「まいっか。ルクレツィア、船まで案内してよ」

「お安いご用やな」

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