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前編 第六話

 火の都・ブロケード 行政区

「ふいーっ、久しぶりにここに戻ってきたな」

 黄金で作られた煉瓦のような岩の壁が、長々と螺旋を作る行政区の区長室で、人間態になったブロケードがシャツを脱ぎ捨てながら喚く。

「嬢ちゃんたちはその辺に座ってな」

 四人は区長室の来客用のソファに座っていた。

「なあなあ、ホシヒメ。アンタって意外と礼儀正しいんやな」

「え?そ、そうかな?」

「僕もそう思うかな、ホシヒメ」

「ノウンも?」

「ほら、今だって背筋ちゃんと伸びてるし」

 ブロケードが椅子に座り、ホシヒメへ籠手を投げる。

「わわっ、なんですか、これ」

「俺がヤズに渡した籠手だよ。あの人は素手で戦わねえから返されたが、君が使うのが一番だと思ってな。因みにそれには、既に俺の詔を込めてある」

「ありがとうございます!」

「ま、ひょっとすると嬢ちゃんは素手の方が強いかわからんがね。次は凶竜の都を通ってガイアに向かうといい。まだアルマやアルメールには敵わんだろうからな」

 四人は立ち上がる。

「本当にありがとうございました!」

 ホシヒメは深々と礼をする。

「おうよ。まあ、出世払いってこったな。強くなったら俺んとこに来いよ?」

「はい!」

 四人が区長室から出ていくのを見送ると、ブロケードは一息ついた。

「しかし、やはりあの子はヤズを殺せるようなタマじゃねえ。ということは……」

 部屋の隅で黒い影が揺れる。

「誰だ!」

「汝、我が天秤を均衡に保つものか」

 黒い鎧の骸骨騎士が現れる。

「誰だ、お前」

「我が名はブラックライダー。揺れる天秤を見定め、罪の意味を計るもの」

 ブロケードはブラックライダーの天秤を一瞥すると、椅子に深く座る。

「で、何の用だ。許可無く区長室に入った時点で、マグナ・プリズンに収容してもいいんだぜ?」

「私を縛るのは我が王ただ一人。汝に私は縛れぬ」

「ほう。そいつはまさか、俺に勝負を挑もうってか?」

「否。私がここに来るは、汝に最後の戦いを見定める器量があるか計るため」

「最後の戦いだぁ?なんだそりゃ」

「知る必要はない。私は王のため、定められた計画の全てを書きなぞるだけだ」

「俺はそうじゃねえんだよ。お前がもったいぶるせいで気になるだろうが」

「そうか。エメルもそう言っていたが……好奇心というものは理解できんな」

 ブラックライダーは天秤を掲げ、その瞬間に空間がひしゃげる。


 ???・第一期終着点

「んあ……?」

 キューブの渦が上空へ続いている。真っ黒に染まった水晶のようなキューブの上に、ブロケードとブラックライダーは居た。

「なんだぁ?ここは?」

「マグナ・プリズンでの戦いは見ていた。全力が出したいのだろう?」

「ほう?」

「ここは我が王が作り出せし桃源郷シャングリラ。無明桃源郷・シャングリラ。いかなる力の影響でさえも、この世界は砕けない」

「中々興があるじゃねえか。なら……」

 ブロケードは炎を纏い、竜化する。

「ぶちかましてやるよ!」

「我が王の下す命の前に、汝を……私の肩慣らしにさせてもらおう」

 天秤を掲げると、蛇の通った骸骨が2体現れる。

「汝の罪を計ろう」

 ブラックライダーはどこからともなく現れた黒馬に乗り、骸骨より後ろへ退いた。

「ぶるぁぁぁぁぁ!」

 ブロケードが拳をキューブへ叩きつけると、猛烈な熱波が骸骨を薙ぎ払う。

「む……」

「さっき嬢ちゃんたちに剥がされた呪符、新調しなくて正解だったな」

「流石は都竜神。この程度では意にも介さぬか」

「さっさと本気を出しな。そんな骨じゃ俺を倒すなんて到底無理だ」

 ブロケードが瞬時に距離を詰め、ブラックライダーに拳を放つ。だがそれは、天秤の柄で容易に受け止められる。

「私はレッドやホワイトとは違う。その程度で倒せると思うな」

「レッドだかホワイトだか、何を言ってるのかは知らんが、本当に全力で行っても問題無さそうだな!」

 全身から噴出する炎がその勢いを増し、裏拳が振り下ろされ、爆炎がブラックライダーを追撃する。空中で追撃を仕掛けるように連爆する炎を黒い馬が高速で駆けて躱す。

「汝の魂は我が天秤をどちらへ傾けるか」

 ブラックライダーは炎とブロケードの拳の両方を紙一重で躱しながら天秤を掲げる。しかし天秤は全く動かない。

「ふむ……あの女エメル・アンナの言う通りか。戦いに純粋な者は正邪を越えた清き心を持つということ……だが」

 ごく僅かに、天秤は左に傾いた。

「ふ……ブロケード、汝は罪ありき。我が天秤の元に、その命を半分貰おうか!」

 ブラックライダーは馬から飛び上がり、凄まじい反応速度で拳を放ってきたブロケードを躱し、天秤を突き刺す。

「汝の戦いに懸ける魂、実に見事。だが、汝は我が王が求める器に非ず。であるからこそ」

 天秤を引き抜くとブロケードは崩れ折れ、天秤が突き刺された傷口から白く結晶のように透けていく。

「ぐっ……何をした」

「言ったはずだ。その命を半分貰うと。命の限りある者は、その限界を知ったときに己を越えた力を出すと我が王は言っていた。ならば、試すのが必然だろう」

 ブロケードは倒れ臥した。

「結末はまだ遠い」

 ブラックライダーは天秤を掲げると、周囲の空間が歪む。


 火の都・ブロケード 行政区

 ブロケードは深く椅子に凭れている。

「これより先、大いなる戦いが始まる。汝があの小娘の進化を信ずるならば、再び壁として立ちはだかるがよい」

 ブラックライダーは踵を返し、霧のように消え失せた。

「はぁー……ったく、都竜神以外にもあんなに強いやつがいたとはな。あれがアルマやアルメールの言うchaos社とかいう異界の使者か……?」

 ブロケードはゆっくりと立ち上がり、電話を手に取る。

「ああ、アルマ様ですか?お話ししたいことがありましてね……」

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