※この物語はフィクションです。作中の人物、団体は実在の人物、団体と一切関係なく、また法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。
さて、今話したのはWorldB……即ち、ヘラクレスが宙核に頼み込んで作らせた、飽く無き戦いの世界。だが今から話すのは、竜たちが治める竜世界、WorldAにて起きたことだ。
エラン・ヴィタール
「アミシス」
砲金色の体に赤いラインの入った体色の竜は、右手側にいる水色の竜人へ話しかける。
「どうかしましたか、アルマ。王龍ボーラスより賜りしこの世界、私たち手で育て上げるんですよ。ねえ?ヤズ、パーシュパタ、アルメール、エリファス」
ヤズと呼ばれた白竜は、首をもたげる。
「私の未来視は、伝えた方がいいのかね、アルマ」
「適宜」
「了解した」
それを見て、エリファスと呼ばれた内部から蒼い光が放たれる黒い骸骨竜が動く。
「死者の扱いはどうするのだ」
「狂竜王へ手渡すと事前に決めていただろう」
「そうだが、やはり自分はあやつを信用できない。あの騎士は得体が知れなすぎる。一撃でこの世界を滅ぼしかねない」
「それでもだ。ボーラス様があの騎士の友人である以上、我々に拒否権はない。案ずるな、エリファス。俺たちにはまだ手がある」
「あいわかった」
アルマはアルメールの方を向く。
「何か意見は、兄者」
「パーシュパタと俺は何もない。お前たちが話を終えたのならそれで終わりだ」
「……」
パーシュパタは俯いたままだった。
アルマは翼を広げる。それを合図に、六匹の竜は各々飛び去った。
竜神の都・創生の社
一人の老婆が社の縁側で茶を飲んでいる。庭で走り回る少女と、それに翻弄される青年を見ながら。少女は手に持っている虫取網で蝉を捕まえると、老婆のもとへ走ってきた。
「ヤズおばあちゃん!見て見て!」
少女は満面の笑みだ。
「ホシヒメ、そう鷲掴みにしては可哀想だろう。満足したら、離しておやり」
ホシヒメは少し口を尖らせる。
「はーい。ねえねえゼル、次はノウンも呼ぼうよ!」
遅れて戻ってきた青年、ゼルは首を振って断る。
「はぁ、はぁ、まだ遊ぶのか?さっきから走りっぱなしだろ、休もうぜ」
「えー!まだ動き足りないよー!」
ヤズはホシヒメに話しかける。
「ホシヒメ、ばぁばから一つ頼みがあるんだが、引き受けてくれんか?」
ホシヒメは蝉を逃がす。
「なになにー?」
「役所に行って、森の警備をしてきてほしいんだよ。何かと物騒でねえ」
「お安い御用だよ!ゼル、いこいこ!」
ゼルの腕を掴んでぐいぐい進んでいく。
「お、おい!じゃあ長老、失礼しました!」
「ゴーゴー!」
ヤズは去っていく二人を見ながら微笑んだ。
「私も潮時かね、アルメール。お前が
立ち上がり、茶飲みを握り潰す。熱せられた茶が節くれだった腕を伝う。
「アミシス……あなたも虚しさしか知らずに、死ぬのかい……」
ヤズは社の中へ戻っていった。
――……――……――
「んぅ……?」
狐のような耳と尻尾を生やした巫女服の少女がオレンジ色の髪を振り、エメラルドのような瞳を見開く。
「ふむぅ……ここは……トラツグミ」
少女は視界の無線メニューから一人呼び出す。すぐに青髪のメイドの女が現れる。
『如何なさいましたか、ゼナ様』
「わしのいる世界は今どこじゃ?」
『少々お待ちを。……現在は新生世界にいらっしゃるようですが、worldAへ転送されたはずでは?』
「わしもそのつもりじゃったんじゃが……どうも他の誰かの計画に巻き込まれたようじゃな。新生世界か……それでそれで好都合じゃな。トラツグミ、わしに一つ策がある。主と一緒にDAAへ来てくれ」
『承知致しました。では、用意が完了し次第連絡致します』
無線は切れた。
「ふむ。わしがここに居るのはまぁよい。レイヴンとリータ、ロータの回収にシフトすればよいだけのじゃ。しかし真に問題なのは、わしが成り代わるはずじゃった水都竜神……そやつがどうなるかじゃ。考えても意味はないかのう。仕事に戻るとするのじゃ」
ゼナは身長の数倍はある槍を肩に乗せ、歩き始めた。
――……――……――
セナベル空域・暗黒の氷原
「刧火!」
三つ首の竜がそう叫ぶと、巨大な火球が降り注ぐ。アミシスは赤い片刃を氷へ差し込み、そこから激流を生み、火球を飲む。
水の都の上空に浮かぶ氷塊の上で、二匹の竜は争っていた。
「アカツキ、どうして攻撃するんですか!」
「それが俺のやるべきことだ。chaos社のために、殺す」
「chaos社?何を言ってるんですか?それがあなたの凶竜としての使命なんですか!?」
「そうだ。使命を果たせぬ凶竜には死しかない。それはわかってるだろ」
「仕方ない……!」
アカツキは飛ぶ。
「爆雷!」
雷が荒れ狂い、アミシスを狙う。アミシスは剣で雷を弾きつつアカツキに大量の水と共に剣を叩きつける。
「氷刃!」
落ちていくアカツキは巨大な氷の刃を何個も射ち出す。それを全て壊し、アカツキに追撃を繰り出す。アミシスの渾身の一撃で空中の氷塊が砕け散る。
水の都 レリジャス
二匹の竜は落下し、行政区の湖に着水する。
「アミシス、貴様……」
「どうしてあなたが急いているのか、だいたいわかった。竜王種たちが竜神の都へ進むのか疑問だったけど……これでわかった。ヤズを殺そうとしているのでしょう?」
「その通りだ、アミシス」
「なぜ、あなたがそんなことを」
「使命だからだ」
アカツキは翼を広げる。
「嵐撃!」
そして周囲をやたらめったらに風で攻撃を始める。
「止めてください!狙いは私だけのはずです!」
再びの激流でアカツキを吹き飛ばす。
「どうして街を壊すんですか!」
「必要なことだからだ」
「それも使命なんですか!?」
「そうだ」
「くっ……」
「終わりだ、アミシス。新人類の礎となれ」
三つ首の全てに力を込める。
「塵界!」
放たれた光が迸り、辺りを包んでいた夜の闇が吹き飛ぶ。アミシスの体も塵となり、剣は湖に溶けた。
アカツキは元の姿に―――黒いパーカーと青いホットパンツ姿の少女に―――戻った。
「哀れなり水都竜神。俺は貴様の血を糧に使命を果たす。狂竜王のもとでただただ指を咥えて見ているがいい」
アカツキは水面を歩いて、行政区の向こうに見える巨大な長方形の物体へ向かった。
竜神の都
ホシヒメは思いっきり
「やっほー!」
そうしてグングン歩き、一つの窓口の前に陣取る。担当の人間は気にもせず仕事をしている。
「長老に警備の仕事を頼まれたんでしょう」
「そーそー、いつものやつ。よろよろー」
「はい毎度。じゃあ一通り森を見てきてください」
「うぃー!」
ホシヒメはゼルの腕を鷲掴みにしたまま、役所を出る。そしてそのまま、都の入り口の坂を下り、森へ向かった。
遠霧の森
竜神の都を囲むこの森は、原初竜神ヤズによって、竜神種のみが視界を確保できる霧で満たされているのだった。最寄りの都市は政府首都アルマであるが、竜化しても遠いと思えるほど、この森は広い。
「しかし、この森の警備と言ってもな。迷い込んだ竜王種を出口に帰すくらいしかすることがないぞ」
「んとさ、竜王種と竜神種って何?」
ゼルは呆れ顔になった。
「そこからか……いいか、まず、この世界には竜しかいない。さっきの蝉も竜の一種だぞ。そして竜には二つの巨大な勢力が存在する。原初竜神直系の竜が俺たち竜神種、そして魚類が進化した竜王種だ」
「へぇ~物知りだねゼル!」
「常識だぞ……箱入り娘は格が違うな」
「えへへ~」
「皮肉に気付け」
「んで、警備するって言ってもなんでそんなことする必要があるの?」
「うむ……俺も長老が言っていた最近は物騒というのが気になるが、なぜする必要があるのかと言われると思い付かんな」
「そっかぁ。まあいいや、すぐ終わらせちゃお」
二人は濃い霧の中を歩いていく。
「凶竜か……?」
「きょーりゅー?」
「それも知らんのか?凶竜は竜神種の一派で、一つ使命を持って生まれてくるやつらだ。そしてその使命を果たすことを一生の目的とする。使命を果たせなかった凶竜は命を奪われる。凶竜自体は悪いやつじゃない。ノウンだって凶竜だしな」
「ええー!?うそぉー!?」
「うるせ……その凶竜の中の更に一派が竜王種と組んでなにかしでかそうとしているのは聞いたことがある」
「ほえ。じゃあ竜王種はぶちかましたほうがいい的な?」
「いや。事情を聞いてからだ。先制攻撃で傷害事件になれば、それこそ大問題だ」
「り」
「ちゃんと返事しろよ……」
濃い霧の中を二人は周囲を警戒しながら歩き回る。しばらくして、竜王種を一匹発見し、木の陰から様子を伺う。
トカゲのような体にヒレの付いた一対の翼がある一般的な竜王種だ。
二人は陰から出て、近付く。
「そこの竜王種、話がある」
ゼルが視界を合わせにいく。すると竜王種はゼルに向け炎を放つ。ギリギリで躱し、ホシヒメとゼルは戦いの構えを取る。
「どういうつもりだ」
ゼルが鋭い眼光を飛ばす。
「答える義理はない」
「ゼル、こいつは殴ってもいいの?」
「やれ」
竜王種が放つ炎を抜け、ホシヒメはガントレットを付けつつ走る。尾の一撃をゼルがリボルバー型のガンブレードで受け止め、竜王種は顔面にパンチを受けて吹き飛ぶ。
「殺さない程度にな」
「だいじょーぶ、今のでピヨってるだけだよ」
ホシヒメの言うとおり、その竜王種は見事に伸びていた。ゼルが手足を縛り、竜王種を持ち上げる。
「竜って言っても私たちとそんな身長変わんないんだね」
「よくも悪くも一般のやつなんだろう。まあとにかく、攻撃してくる竜王種がいたことは事実だ。竜神の都へ戻るぞ」
二人が戻ろうとした時、抱えた竜王種が呟く。
「手遅れだ……」
と同時に霧が晴れ、上空を無数の竜王種が駆けていく。
「おばあちゃん……!ゼル、急がないと!」
ホシヒメは駆け出す。
「おい待て!」
ゼルは竜王種を捨てて、追いかける。
竜神の都
森を抜けて二人が目にしたのは、燃え盛る建物たちと、竜王種の群れだった。
「おばあちゃん!」
ホシヒメは駆け出す。
「クソ、そんな真っ直ぐ突っ込むな!」
ゼルが追いかける。ホシヒメへ火球を放つ竜王種を切り伏せるが、火球はホシヒメへ飛んでいく。ゼルが追い付くより早く火球がホシヒメに直撃――
「危ないよ、ホシヒメ。ちゃんと周りを見て進まないと」
いくつもの剣が重なって出来た剣に火球は直撃した。後ろを向いて唖然としていたホシヒメは叫ぶ。
「ノウン!」
「しっかりしてね、ホシヒメ。こういう時だからこそ慎重に行かないと」
ノウンが剣を納めたところにゼルが追い付く。
「済まんなノウン」
「お礼はいいよ。いつものことだし。それより、ここに居たらまた竜王種の相手のしなきゃならないから急ごう」
「うん!」
ホシヒメは再び駆け出し、二人が後をついていく。
創生の社
「ゼロ……お前さんはどういう気持ちでここにおるのかえ?」
ヤズは常に細めていた目を開ける。視線の先には他の竜王種とは明らかに違う、宝石細工のような、ステンドグラスの飛膜に、白磁の骨格、黒と青で作られた胴体、そして背に浮かぶ輪。
ゼロと呼ばれた竜王種は腕を組んだまま答える。
「ようやく我らの時代が来た歓喜に打ち震えている」
「そうかい。なら――私は視た未来のままに事を進めるとしようかね。
ヤズの体はみるみる巨大化し、白い、四足歩行の竜となった。尾や首などには、青い光の輪が付いていた。
「神竜か、久しいな」
「お前さんを見たのはホシヒメと同じ日に生まれたあの日以来かね。私はその神竜と言う称号が嫌いなんだ、原初竜神とお呼び」
「死んでもらうぞ、原初竜神」
「ああ。だがただでは死なんぞ。視えた未来にただ従うだけではつまらんのでな!」
ヤズが光のブレスを放つ。ゼロは右翼で弾くと、手から波動を放つ。それを意に介さず、ヤズは右前足を突き出す。ゼロの翼の白磁から、グロテスクな石膏の竜の顔がいくつも出てくる。感情のないその顔々がパクパクと口を開くと、魔法障壁が展開され、ヤズの一撃を弾き、ゼロが躱す一瞬を稼ぐ。
「やはり原初竜神の力は桁違いだな、ヤズ」
「お前さんもな、ゼロ。お前さんはホシヒメがどうしてお前さんと同じ日に生まれたのか知っているようだし、抜け目のないとこだよ、全く」
「こことは別の世界でリータ・コルンツが現れた、だからそれと同じタイミングでクラエスが産まれたんだろう」
「なるほど、そこまで知っているとは……アルメールが軽薄なのか、それともお前さんの勘が異常に鋭いのか……」
「お前がなるべくしてなる人生を歩んでいるように、俺もそうなるべくしてなった人生を歩んできた。だが、それももう終わりだ。俺はクラエスの人生を引き立てるための脇役ではない。俺はこの世界を越え、究極の力を手にする!」
ゼロが天輪と口からビームを放ち、ヤズは四肢を踏みしめ凄まじい光を打ち返す。蒼い光の炸裂で社は崩れ、都を焦がす炎も掻き消える。ゼロの白磁に皹が入り、竜の顔が崩れ落ちる。ヤズは煙の中から悠然と立ち上がる。
「甘いね、お前さんは」
「ちっ、老いぼれが……」
「竜の甲より年の功だ。大人しくお帰り。けじめはアルメールにつけさせる」
「ふん……見えているんだろう、ここに誰が来るのか!」
「ああ、見えているとも。だが若造、お前さんは身の程を知っただろう?」
「まあな……原初竜神、その強さ、正に本物。だが……だが貴様でも、見える未来を変えることはできなかった」
「ふっ、楽しい人生だったよ。お前さんやホシヒメが導く未来を見られないのは残念だがね」
社の上空が凍りつき、それを砕いて三つ首の竜が降りてくる。
「アカツキ、やはりお前さんかね。アミシスを殺したのは」
アカツキは中央の首を持ち上げる。
「そうだ。chaos社のためにな」
ゼロが起き上がる。
「アカツキ、後は任せる。俺はクラエスと戦う」
アカツキは左の頭で振り向き、頷く。ゼロは翼から粒子を放ち、飛び去った。
「ヤズ、貴様も終わりだ。大いなる理想のために果てよ」
「ああ、見えるとも。お前さんの見ようとする世界が。女狐に狂わされた運命が。アカツキ、私もただでは死なないよ」
「俺はお前も、エリファスもアルメールも討ち滅ぼす」
「ところでアカツキ、お前さん、ラータの名に覚えは?」
「なんだ、それは」
「ならばいい。(やはりアカツキは、chaos社とやらに操られたか、加担したか……まあどちらだったとしても、あとはホシヒメに任せるかね)アカツキ、さあ、死合おうかね」
「ここが運命の痛点だ」
ヤズは頭部に竜巻を纏わせ、解き放つ。アカツキは炎を放ち、更に冷気を加えて爆裂させる。二人は空中へ飛び上がり、ヤズは魔法陣を組み上げ波動を放つ。
「塵界!」
極大の光が溢れだし、それを迎え撃つ。
竜神の都・創生の社 参道
ホシヒメたちが階段を駆け上がっていると、社の方から2体の巨竜が飛び上がる。
「ゼル!あれおばあちゃんだよ!?」
「長老だ!早く行くぞ!」
また三人が駆け出そうとしたとき、その巨竜たちから放たれた光の衝撃波で吹き飛ばされる。
「いてて……」
「大丈夫かな、みんな!」
「ああ、大丈夫だ……」
空の向こうから、何かが飛んでくる。そしてその何かがホシヒメたちの前に着地し、翼を広げる。
「クラエス、死するときだ」
ゼロが組んでいた腕を解く。
「君は……?」
ホシヒメはきょとんとしている。それにゼルが助け船を出す。
「忘れたのか、ホシヒメ。こいつはゼロ、お前と同じ日に生まれた竜王種の皇子だ」
ノウンも付け加える。
「ホシヒメが竜神種の王女なら、彼は竜王種の皇子。さらには同じ日に生まれたということで、二人は両種の平和の象徴なんだよ」
「なら、そんな君がどうして……って、聞くまでもないか。事情は知らないけど、とにかく下で暴れてる竜王種たちの一派……だよね」
ゼロは頷く。
「クラエス、俺は貴様を討ち、自らの未来を取り戻す」
「何を……」
「三人纏めて来い。蹴散らしてやる」
ゼロは翼を広げ、背の輪を輝かす。
「気を付けろ、こいつは普通の竜王種とは訳が違う。特級の強さだ」
「わかってるよ、ゼル。闘気ってこんなにもわかりやすく発露してるものなんだね……ゼロ君、だっけ。容赦しないからね」
「いいだろう。こちらは元より全力のつもりだ」
ホシヒメが弾丸のように飛び出し、空中で腰溜めにした拳を放ち、同じように飛び出したゼロと寸でで擦れ違う。ノウンの合体剣による斬撃を翼で弾き、ゼルをブレスで牽制し、再び拳を放つホシヒメに向かって翼から竜頭を展開し、そこから魔法を乱射する。ホシヒメはスピードを落とさず、闘気を竜の頭のように展開し、全身に纏いながら突き進む。
「手緩いぞ、クラエス!」
ゼロは叫び、両腕から竜巻のように闘気を放つ。闘気の渦にホシヒメは挟まれて、竜の形の闘気は削られていく。ノウンが合体剣を分離し、空中に浮いた大小様々な剣がゼロへ飛ぶが、左翼を全開にし、ゼロは竜頭から放つ魔法で剣を一つ一つ撃ち落とす。右からゼルが迫るが、ゼロは腕から放たれる闘気の出力を上げ、ホシヒメの闘気を砕いて挟み込む。ホシヒメが吹き飛ばされた瞬間、ゼロは右を向いてゼルを迎え撃つ。しかし一瞬遅く、ゼルのガンブレードがゼロの右目を切り裂く。ゼロは頭の横を通りすぎていくゼルを掴み、闘気の渦を零距離で放って吹き飛ばす。そして背後に迫るノウンの合体剣の一撃を、尾で弾き、ノウンを竜頭からの魔法で叩きつける。
「これが全力か?ヤズの足元にも及ばんな、雑魚共が」
ゼロは右目に手を当て、自身の周りに倒れた三人を見回す。
「だが、俺の目を奪ったのは誉めてやる。止めだ、クラエス」
ゼロが拳を振り上げた瞬間、ゼロは殺気を感じて飛び退く。ホシヒメとゼロの間に、一本の黒い槍が突き刺さる。
「この槍は……アルヴァナ!」
ゼロは空を見上げる。そこには、巨大な黒い馬に乗った騎士が居た。
「なぜ貴様がここに居る!?始源世界であの小娘に語り続けていればいいだろう!」
ゼロの声が上擦る。
「残念だがそうはいかない。私にもせねばならないことはあってな。そなたが今ここでその竜神を仕留めるのはよくないことだ」
「知ったことではない。俺はクラエスを殺すことで初めて解放されるのだ、平和のための生け贄と言う楔から」
「成る程、確かに。人の心とは一つのことに固執しがちだが、そなたもそれに違わぬようだな。では仕方ない。今この瞬間のみ、私はそなたの敵となろう」
「何っ!?」
ゼロが後ずさる。アルヴァナ――即ち狂竜王――は、馬と共に地上へ降り立つ。蹄が石を踏み抜いたとき、凄まじい揺れが起こる。
「命あらばいずれホシヒメを殺す機会はやってくるのだ。ここは退けぬか?」
「ちっ、まあいい。ここは退く。だが覚えておけ、次は止めても聞かんぞ」
ゼロは踵を返し、飛び去った。狂竜王は三人を黒皇の背に乗せると、森の方へ駆けていった。
創生の社
「ハァァァァァァァァァッ!」
アカツキがヤズに組み付き、左右の首で噛みつく。そしてお互いに至近距離でブレスを放ち、頭から煙を上げる。ヤズが首の力だけでアカツキを振りほどき、前足の一撃を加える。アカツキの左の首が千切れ飛ぶ。アカツキは直ぐに切断面をヤズへ向け、そこから出る夥しい量の血を吹き掛ける。視界の潰れたヤズへ、アカツキは喉元へ噛みつき、そのまま光を放つ。ヤズの体から頭が離れ、白い体が己の鮮血で赤く染まっていき、蒼い光を放つ輪が消滅する。
「ぐふっ……あ、アカツキ……これがお前さんの……覚悟か……?」
「そうだ。どんな犠牲を払おうとも、俺は俺の使命を果たす」
「そうかい……ならばいいことを教えてやろう……私が視た未来……その最後でな……お前さんとホシヒメは……笑い合っていたよ……」
「戯言を。アミシスとアルマを結ばせようとして自分の恋心を隠した貴様に、未来を語る資格はない。己の未来のためにあらゆる犠牲は許される。例え自分自身であっても、大切な他人であってもな。そうして掴んだ未来の果てで、俺がアイツと笑いあっているわけがない」
ヤズの首は掠れた断末魔と共に、動きを止めた。アカツキは竜化を解くと、空を見上げた。すると、青空に上がる煙の中に、偵察用のドローンを発見したが、気にせず社から続く階段を降り始めた。