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その3 第七話

 大零塊

「ハッ!」

 レッドライダーの一撃をバロンは白刃取りの要領で止め、そのままへし折り、一気に踏み込んで撃掌を叩き込む。レッドライダーの鎧の腹部が煙を上げ、ヒビが入る。

「クカカカカ!面白い!倒した敵の技をも使って来るとは!ならば儂も全力で行くとするかのう!」

 折れた剣を投げ捨て、背から巨大な薙刀を抜く。

「ぬぅぅぅぅあッ!」

 レッドライダーの振り下ろしをバロンは既に避け、闘気槍を放つ。だがレッドライダーは軽快に走り回り躱す。まるで長さなど関係ないように縦横無尽に薙刀を振るい追い詰めていく。

「パラワンに負けたときも、バンギに負けたときもどうなることかと思っておったが、やはりその辺の雑魚どもとは格が違うということか、バロン!」

「……僕は僕自身の運命を手にする。そのために、エウレカの宿命にも、クロザキの宿命にもケリをつける」

「ふっ、まだ知らぬのか、バロン。クロザキが何者か、説明する暇もなかったか、神子よ」

「いいえ。あえて教えていないの。彼は、戦いの全てを終えてから私から真実を聞くつもりよ」

「なんと……それでもしこやつが壊れたらどうするつもりなのじゃ」

「私が支える。私たちは二人で一人だもの」

「……覚悟はいいか」

「ちっ……こやつらを動かしているのは一体……!?」

 レッドライダーが薙刀を振り、猛烈な竜巻を起こす。バロンは手を翳し、掌から流体の鋼を生む。それはみるみる内に巨大化し、大きな盾となる。

「……来い」

 その盾は真正面から竜巻を受け止め、打ち消す。

「ぬう!」

「……わかるか、僕はエリアルと会ったときから自分の底から力が沸き上がるのを感じる」

「おのれ、宙核風情が!」

 薙刀が振り下ろされる。


 銀流の果て

 白き神の背に爪を穿ち、マルドゥークがビームを放つ。更に背のプラズマカノンとツインバレルの大砲も放たれ、白き神にダメージを与える。しかし白き神は動じず、冷気を全身から噴射してマルドゥークを吹き飛ばす。追撃で右前足を繰り出し、マルドゥークを押し潰す。

「こんなものか。異史に比べ正史の方がより強力故か……まあいい。使い物にならぬのなら結果オーライではある」

 エンブルムはキャノピーを蹴り割り、外へ出る。

「自律モード、起動アクティベート

 それだけ告げて、エンブルムは吹雪の中へ消えた。マルドゥークは白き神によって抉り釘付けにされた下半身をパージし、前足のブレードを展開し、白き神へ特攻する。白き神は上体を薙ぎ、マルドゥークを粉々に砕く。


 氷竜の骨

「ラーフ、白き神は」

 ヴァルナが問う。

「まだ銀流の果てだ。ところでサーマ、本当に神子の言っていたことは出来るのか?」

「もちろん。神子も言っていましたが、言わば双神はAI式のロボットですから。彼らは敵性生命体しか排除しない。地形や障害物には従う。うまく敵対せずに道を塞げばパラミナに誘い出せます」

「ラーフ、パラミナに進ませるには何回道を塞げばいい」

「四回だ。四回塞げばパラミナまで一直線だ」

「よし、それなら早く――」

「ちょっと待った」

 ヴァーユが口を挟む。

「パラミナについたら角竜王ってのが出てくんだろ?そいつは本当に白き神と戦うのか?」

「それについては大丈夫ですよ。角竜王は神子の管理下にある竜ですから」

「ふーん、っつうことは何も考えなくていいんだな」

「行こう、みんな」

 ヴァルナが歩き始める。


 大零塊

「……無駄だレッドライダー。ここで朽ち果てよ」

 薙刀は鋼の盾に受け止められる。

「……はぁッ!」

 バロンの拳がレッドライダーの横顔にめり込み、続けて乱打でレッドライダーを吹き飛ばす。

「ぐっ……ん?ランスロット卿も戻ったか……潮時じゃな……」

 レッドライダーは立ち上がり、砕けた頬骨を掴んで捨てる。

「……逃さん!」

 バロンは拳を振るうが、それはレッドライダーをすり抜ける。そしてどんどん透明になっていく。

「戯れもここまでじゃ、バロン。永劫の戦いはすぐそこにあるのじゃ。例えこの世界を抜け出そうと、クロザキの宿命に決着をつけても、お主は永遠に戦い続けるのじゃ」

 レッドライダーは光になって消えた。

「……ちっ、逃がしたか」

「ラーフくんと連絡してみるわ、バロン」

「……ああ」


 銀流の果て

『ヤジュル!第一分岐点まであと一分!』

 右手に付けられたコーデックから、ラーフの声がする。ヤジュルは小刀を抜き、視界に白き神が現れるのを待つ。

「(双神……王龍でありながら、人の進行によって貶められた存在。強さによって王龍となった彼らならば、意思の力でより強力になるはずだが……やはり神という最下層のカテゴリに押し込められたせいで弱体化しているようだな)」

 ヤジュルはそんなことを考えながら、どう道を塞ぐべきかと辺りを見た。猛吹雪で視界は悪いが、どうやら銀流の果てとは現在位置のように深い谷が延々と続く場所らしい。

「(この程度なら幻覚で十分か。零なる者を迎える時に余力も必要だ)」

 白いカーテンの向こうから、ゆっくりと白き神が歩み寄ってくる。ヤジュルは小刀に何か呟くと、おもむろに横に振る。すると、谷の幅分の切れ込みが地面に入る。白き神は切れ込みを避け、もう片方の道へ進んだ。

「(しかし……狂竜王に盤面の全てを支配されているこの感覚……慣れたものではあるけども、今回は不愉快を通り越して憤りすら覚える)」

 ヤジュルは小刀を納め、その場から消えた。


「第一分岐点は上手くやったみたいだぜ、サーマ」

「まあ、ヤジュルがしくじるわけがありませんし」

 ヴァーユとサーマは談笑していた。

「でよ、その角竜王ってのはどんなんなんだ?」

「そうですね、通常の角竜の三倍ほどの大きさであり、装甲から浮き出るほどの血管、黒い体が特徴でしょうか」

「三倍か。だがよぉ、その程度じゃ白き神の半分にもならねえぜ?」

「はっはっは。大丈夫、神に負ける獣など居ませんよ。人とは練度の差で破れることはありましょうが、竜ともなれば、よほど強力な人間か、竜以上……それこそ宙核や人類にしか負けないでしょうね」

「そんなにか。神っつうとなんとなくクソ強いイメージがあったんだが」

「いえいえ、神とは愚かなものです。今貴方がイメージしたように、強いと思われなければ存在できないのです。そのくせ傲慢で、自分達が最も正しいと思っている。哀れなものです」

「ほぇ~。なんかよくわかんねえけど、要はクソザコってことでいいんだな?」

「ええ。しかしまあ、元は竜ですから加減はできませんが」

 遠くから地響きが聞こえてきて、二人はそれぞれ得物を抜く、

「お前とはうまくやれそうだな。後で酒でもどうだ?」

「喜んで」

 ヴァーユは飛び上がり、谷の両側を切り捌く。荒く切り出された氷塊をサーマは空中で成形し、一分の隙もなく氷塊が谷を埋める。

 二人は着地すると、拳を突き合わす。

「上出来だな、サーマ」

「完璧ですね」

 二人は笑い、パラミナへ急いだ。


『将軍、ヴァーユたちも成功したようです。もうじき白き神が来ます』

 ラーフの声がコーデックから聞こえ、ヴァルナは立ち上がる。

「これでこの世界の戦いも終わる……ようやく我らは未来を思い描ける」

 氷剣を作り出し、自分の腕を見る。

「バロンが記憶を失ってから不甲斐ない自分を嘆いていたが、まだこの命を終わらせるわけにはいかん」

 吹雪の向こうからやってくる白き神を確認すると、ヴァルナは谷に氷壁を生み出す。白き神はそれに沿って、更に道を進んでいく。


「よし、皆、先にアリンガへ行っておいてくれ!」

 コーデックにそう告げると、ラーフは白き神の来る方角を見つめる。

「サーマが言っていた古代世界……バロンと神子を安全に向かわせるために、私たちは私たちの世界を守らねば」

 そう思っていると、手元のコーデックが鳴る。

「どうしました、神子?」

『こっちはレッドライダーに逃げられたわ。少なくともこの世界にもう手は出せないはずよ』

「よかった。こっちは首尾よく白き神をパラミナへ誘き出せています。そちらは早く古代世界へ向かってください」

『了解。古代世界に行ったら、もう連絡できなくなるだろうから、こっちに伝言があったら今伝えてくれる?』

「なるべく早くニルヴァーナへついてくれ。私たちには寿命が出来てしまったから」

『わかったわ。あとはよろしく』

 ラーフはコーデックを切ると、地響きの接近に反応して、予め作り出しておいた岩塊に魔力を込め、硬化させ、巨大化させる。白き神はそれを避けるように、道を変える。

「合流しよう」

 ラーフはパラミナへ向かう。


 パラミナ・砂漠地帯、

 白き神は砂に足を踏み入れると、方向を変え、古代の城へと進み始めた。と同時に空中から黒い何かが飛来し、その行く手を阻む。巨大な黒い角竜は全身に赤い筋を迸らせ、吠え猛る。そして角竜王は二倍ほどの体躯を誇る白き神へ突っ込む。体格の差をものともしない角竜王のタックルは触れあった瞬間の装甲の爆発と組み合わさって白き神をよろめかせる。続いてハンマーのような尻尾を打ち付けて暗黒闘気を放ちつつ飛び上がり白き神を角で貫く。白き神の背に空いた大穴から冷気が漏れだし、砂漠がみるみる凍りついていく。そして白き神の甲殻が剥げ落ち、まるで足の生えたミミズの化け物が姿を現す。

「オ……オオ……」

 白き神は呻きながら、角竜王へビームを放つと、角竜王は真正面からそれを突破し、ラリアットで吹き飛ばす。そして即座に重力を増加させ叩き落とす。角竜王は咆哮する。


 ムスペルヘイム・炎火ノ原

 黒皇が溶岩に蹄を穿つ。バンギの視界の先には、暗黒闘気を放ちながらその勢いをどんどん増すコーカサスと、一方的に追い詰められる黒き神の姿があった。

「所詮は神。我が喰らう価値もないか。走れ黒皇!神子とバロンの元へ我を運ぶのだ!」

 黒皇は方向転換し、古代の城へ駆ける。

 全身が鉱物のような黒き神の体を、コーカサスは一撃ごとに砕いていく。そして繰り出された渾身の一撃で、黒き神の頭部は引き裂かれ、溶岩へ沈んだ。


 パラミナ・砂漠地帯

 角竜王が重力を放つと、白き神もそれを理解したのか、頭上に巨大な冷気を浮かべる。過重力で自らに叩きつけられた冷気は、白き神の甲殻を再び形成していく。角竜王と白き神は激突し、激しい砂埃を巻き上げる。角竜王の装甲が大爆発を起こし、お互いの甲殻が再び消し炭になる。そして頭で思いっきり白き神をぶち、角を突き刺し持ち上げ、何度も重力をかけて叩きつける。白き神はやがて動かなくなり、凍りついた。

 角竜王は咆哮すると、ムスペルヘイムの方を向いた。

 そして空の彼方から飛来したのは、三本角の機甲虫だった。コーカサスと角竜王は角をぶつけ合う。暗黒闘気が炸裂し、砂を巻き上げ氷結した地面を融解させていく。

「オオオオオオオオオ!!!!!!」

「コオオオオオオオオ!!!!!!」

 重力波で砂が抉り上げられ、コーカサスが砂漠をのたうち回る。角竜王がコーカサスに突っ込むが、コーカサスは角竜王と正面で組み合う。勢いに任せたその攻防で、砂漠は岩場のように深く硬質な傷が刻み込まれていく。


 パラミナ・アリンガ

「ラーフ、首尾はどうだ?」

 ヴァルナは灰色の机に寄りかかり、椅子に座ったラーフに話しかける。

「二人は護所の更に奥へ向かったようですね。そこから先に何があるかは、私たちにもわかりませんが」

「俺らはこれ以上、何か出来るのかぁ?」

 ヴァーユがソファーに寝転がったまま喋る。

「いや、何もない。私たちに出来うることはただ、この世界が修復されるまで耐えることだけ」

 ヴァルナが立ち上がり、窓際に立つ。

「バロン、貴様だけが我らの希望。頼んだぞ」


 ――……――……――

 …………景色の向こうに、何か見える。

「……シラヌイ」

 忍装束に身を包んだ竜人をそう呼ぶ。

「何だ、バロン」

「……いや……何でもない」

 シラヌイは少し神妙そうな顔をしたが、それで会話を終えた。

「……メイヴ」

 ピンク髪の少女を呼ぶ。

「んー?アタシに何か用?」

「……呼んだだけだ、気にするな」

「ふーん、そう。ところで、いつになったらしてくれるの?」

「……だから呼んだだけだ」

「ちぇ。ケチ」

 メイヴはどこかへ行った。

 自分の手に視線を落としてからしばらく経つと、横に機甲虫がやってきた。

「バ……ロン……元気ない……大丈夫か……」

「……ああ平気だよヘラクレス。お前は優しいな」

 ヘラクレスを撫でると、触角が動く。

「お前が元気なら……エリアルも元気……エリアルが元気なら……俺も元気……」

「……ははっ、そうだな」

 そうして微笑んで、世界がまた白けて……

 ――……――……――


 大零塊

「バロン、大丈夫?」

 エリアルがバロンの顔を覗き込む。

「……ああ、大丈夫。古代世界へ行こう」

「うん。ここから先は、世界と世界とを繋ぐ天象の鎖。行けばもう戻れないわ。準備はいいわね?」

 バロンは手でそれを示すと、エリアルと共に頭上の光へ向かった。


 パラミナ・砂漠地帯

 角竜王とコーカサスが空中で一閃、崩れ落ちる。そして立ち上がり、また対峙する。しかし、角竜王が一歩踏み出すより前に、その体が瓦解する。コーカサスは吠え猛り、護所へ向かった。

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