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その3 第二話

 ムスペルヘイム・グロズニィ

「着いたな。ここがムスペルの要塞の一つ、グロズニィだ」

 カルブルムがそう言いながらエクスカリバーを抜く。

「……何をする気だ」

 エクスカリバーを門へ向けると、カルブルムはエクスカリバーから光を放たせる。その場にいる全員が察して後ろに下がる。

「ハァッ!」

 そしてエクスカリバーを振り下ろし、凄まじい闘気の渦が要塞の正門を破壊する。轟音を立てて門は崩壊し、けたたましいサイレンが鳴り響く。しかし、出てくる見張りの機甲虫は居らず、一行は首を傾げる。

「おかしいですね、機甲虫が居ないはずはない」

「我らを誘い込む策か……?」

 ラーフとヴァルナが顔を見合わせる。それをスルーしてヴァーユがずんずんと要塞の中へと入っていく。

「時間が惜しい。早く決着をつけないといけないことはわかっているだろう」

 カルブルムが二人を促す。要塞へと入っていった四人を後ろから眺めて、バロンもついていく。

 五人が要塞に入ると、そこはもぬけの殻だった。鋼鉄の床が溶岩で照らされ、天井を埋める暗黒がより強調されている。

「……動力炉はどこにある」

 ラーフがそれを聞いて直ぐ様端末を起動し、要塞の見取り図を呼び出す。

「……準備がいいな」

「基本的に何百回も戦っているからね。お互い、建造物の構造は全部理解してるのさ。それで、今いる入り口から一番奥の通路へ進むと、横に長い廊下に出る。そこに四つ部屋があるから、それが一つずつ動力炉室だ」

「……造りが雑じゃないか」

 バロンがそう言うと、ラーフは肩を竦めて笑う。

「パラミナの時も言ったけど、策とか要塞とかってのはあくまで便宜上のものでしかない。この世界は強いやつが強すぎて堅牢な建物も多くの兵を上手く操る策も一瞬で消し炭になるからね」

「……ならばどうしてこういう要塞を作る」

「士気の問題さ。自分達の建物が見える方がやる気が出るだろう?」

「……まあいい。造りが単純なら早く攻め落とせる」

 二人の会話にカルブルムが口を挟む。

「バロンはなぜ私たちが戦いを急いでいるのか知らんだろ?」

「……うん?ああ、そう言えばそうだな。急に急ぎだしたから、今後に迷いを残さないためにも理由は聞いておこう」

「この世界には、世界の終わりに現れる二柱の神が居るとされている。その神はムスペルヘイムに一柱、ニブルヘイムに一柱居るのだが、その神が現れるのが、一つの国が一つ国を落としてから三日後だ」

 バロンは眉間に皺を寄せる。

「……三日……落としたのは僕とアグニの戦いのタイミングだから……今は一日と半分」

「そうだ。この世界の一日は古代世界でいう一日の半分しかないから、お前の記憶に残っているかは知らんが、古代世界の時刻で言えば十八時間経っている」

「……丁度半分か」

「うむ。急がねばなるまい」

 五人は入り口から左にある扉に入り、奥の廊下へと走る。一つ目の動力炉室の扉をヴァーユが乱暴に切り刻み蹴り飛ばす。その部屋の中央に溶岩で満たされた柱状の物体があった。

「どうする?私が凍らせることもできるが……」

 ヴァルナがバロンの方を向く。

「……よし、衝撃を与えて動力炉を壊し、僕の鋼とヴァルナの氷で衝撃を塞き止める。四つが同時に壊れるように調整するんだ」

 ヴァルナは頷く。そしてヴァーユが何の確認もせずに動力炉を切り付ける。それに合わせ、バロンが鋼を動力炉に巻き付け、それをヴァルナが氷で覆う。オレンジ色の輝きを放っていた動力炉は停止した。五人は直ぐ様別の動力炉へ移動し、それを三回繰り返した。

 入り口に戻ってきて、カルブルムは確認する。

「あとどれくらいあれは持つんだ」

「……あと二十分くらいか」

 カルブルムは浅く頷くと、外へと歩こうとする。が、鋭い殺気を感じて飛び退く。暗黒で満たされていた天井が破壊され、もはや見慣れた三本角が現れた。

「……コーカサス!」

 三本角の機甲虫は、その鋭い足で鋼鉄の床を刺し貫いており、頭を上げ吠え猛ると、ベリベリと床を引き千切る。

「チイッ、こんな急いでるときによぉ!」

「まさかこいつの巻き添えにならないためにここに誰もいなかったのか!?」

 ヴァーユとラーフがそれぞれの感想を叫ぶ。コーカサスは脇目も振らずにバロンへ突っ込む。バロンはそれを避ける。コーカサスは壁に衝突し、壁板を引き剥がして振り向く。そして頭を振り、壁板を放り投げる。ヴァーユがそれを真っ二つにして、カルブルムが闘気をコーカサスへ放つ。コーカサスは暗黒闘気を発してその闘気を打ち消し、再びバロンへ突っ込む。

「くっ!こいつ、バロンにしかターゲットを向けないぞ!」

 ヴァルナが叫び、氷の壁をバロンとコーカサスの間に作り出す。コーカサスは一切見向きもせず、氷の壁に正面衝突して抉じ開ける。暗黒闘気を纏った一撃をコーカサスがバロンへ振り下ろし、バロンは限界まで闘気を漲らせ、その一撃を拳を交差して堪える。そして闘気を解き放ち、コーカサスを撥ね飛ばす。直ぐに体勢を立て直したコーカサスとバロンは角と拳で交差する。コーカサスが角を打ち付ける度、暗黒闘気の突風が吹き荒れ、要塞を揺らす。

「まずい、こんな衝撃を何度もぶつけられたら二十分も経たん内に吹っ飛ぶぞ!」

 カルブルムが呼び掛ける。

「……ちっ、ここでは派手に戦うことは出来ないか……!」

 バロンが促し、ヴァルナたちが逃げる。コーカサスを鋼の波で押し返し、バロンも走る。

「ノガ……サン……」

 コーカサスが拙く声を発すると、角に凄まじいエネルギーを蓄え、解き放つ。猛烈な爆風が迸ると、動力炉諸共要塞を巻き上げる。バロンたちがムスペルヘイムの大地に放り出され、溶岩の嵐の中でコーカサスが躍る。そして倒れたバロン目掛け、溶岩の嵐を突き破って突進する。

「……こんなところで時間を食ってられるか!」

 バロンは飛び起き、闘気の槍をコーカサスへ放つ。コーカサスの三本角の中央に直撃し、煙を上げるがコーカサスは怯まず、そのまま突っ込む。コーカサスの角をバロンは無理矢理掴み、お互いに力任せに押し合う。そのときヴァーユが駆け寄り、開いたコーカサスの右羽を切り飛ばす。黄色に染まっていた羽が火の粉の中を舞い、溶岩へと落ちて無くなる。コーカサスは悶えるが、構わず力を込める。それと共に暗黒闘気も溢れ出し、ヴァーユを吹き飛ばす。ラーフが手を振り下ろし、そうするとコーカサスの回りに岩の牙がせり出す。魔力の電光が迸り、コーカサスの暗黒闘気が僅かに乱れる。そこへカルブルムがエクスカリバーを放ち、コーカサスの左羽が焼け焦げる。遂に飛べなくなったコーカサスは落下し、バロンは一気に角をへし折る。コーカサスは足をばたつかせて暴れ狂い、ムスペルヘイムの地面をズタズタに引き裂いていく。ヴァルナはコーカサスの足を凍らせ、氷剣を腹に突き刺す。コーカサスは激痛に悶絶し、既に動かない足と羽に力み続ける。

「……よし!次の要塞へ急ごう!」

 バロンたちは悶えるコーカサスと爆ぜたグロズニィを後にして、全力で離れた。

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