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その1 第五話

 ニブルヘイム・ガルガンチュア

 会議室の中は、僅かな冷気が漂っている。

「色々と想定外ではあったけど取り敢えずアレフ城塞は奪還した。ここからニブルヘイムの反撃は始まる」

 ラーフはそう言いながら、液晶にデータを表示する。

「ところでバロン。貴様、あの嵐を見たときにコーカサスこそが国境を破壊した張本人だと言っていたが」

 ヴァルナが探るようにバロンへ問いかける。

「……ああそのことか。コーカサスが作り出す竜巻、あれが僕の見た最後の風景だ」

「ふん、まあいい。貴様の目を見れば嘘か本当かなどすぐにわかる」

「この後の作戦の話をしても?」

 二人とヴァーユに目配せして、ラーフが咳を一つ。

「国境の奪還はコーカサスの撃退によって成功したと言えるでしょう。そして、主要拠点であるアレフ城塞、食料基地の奪還も成功しました。となれば、次なるはパラミナへの侵攻、制圧が目標となります」

「……パラミナ」

「まずは国境の近くにあるアリンガという拠点を襲撃します。アリンガはかつてパラミナが、ニブル・ムスペル両国に対し、物資を補給するために使っていた場所です。故に、輸送用ビークル用の通路が多く、見張らしが良い。闘気を放てるほどの猛者が居れば視界の良さは警戒すべきですが、今の時代、火器が使えるのは我らだけ。まあ一つ、懸念材料があるならば……」

「砂嵐か」

「ええ。パラミナの兵士――砂竜と呼ばれる彼らは、砂を塊のまま吐き出すことができます。それを利用し、一時的に砂の煙幕を張って視界を奪う。あちらに赤外線ゴーグルなど無いでしょうが、一部の優秀な兵ならば目が利くかもしれません」

「……で、具体的に誰を倒せばアリンガは制圧したことになる」

「アーヴェス。彼を倒せば、それでアリンガのパラミナ兵の統率は乱れるでしょう」

「……アーヴェス。ゾルグの時のように何か情報はないのか?」

「アーヴェスはゾルグと同種の鳥人。翼膜を外套のように纏い、時にそれを脱ぎ捨て軽量化し、骨と皮ばかりとは思えぬほどの膂力を発揮する」

「……なるほど。それ以外は」

「ゾルグに比べ、非常に色鮮やかな翼膜を持っています。それと、優勢の時はとても強力ですが、追い詰められると弱体化します」

「……なんだその微妙な性格は」

「戦士と言えど十人十色ということですよ」

 バロンとラーフの会話が終わると、その場に居る全員が立ち上がり、各々の準備に取りかかった。


 ――……――……――

「見ろ※※※※!これがお前の教えたあの技術の力で作り出した砂漠!かつてイタリアと呼ばれていた場所だ」

 横に居る青い髪の女は表情の一つも変えず、ただ砂漠を見つめていた。男はそれを見て満面の笑みを浮かべる。そして青い髪の女の肩を掴むと、真っ直ぐに見つめた。

「お前のために私は世界をも滅ぼそう!お前という女が完全に私の物になるまで、そして明人様の望みを叶えるため、私はこの砂漠を世界に作り続けるのだ!人の文明は掻き消え、終焉が始まるのだ!」

 女はしばらく男に目を合わせたが、目を背けた。

 ――……――……――


 パラミナ

 砂嵐はなく、冷気が砂漠の熱気に掻き消される。

 まるで実験槽の中で、板で区切られているようにニブルヘイムの曇天から、パラミナの晴天へと天候が切り替わる。周囲に砂竜の姿はなく、平坦な砂原がどこまでも続いていた。

「……砂漠……」

「ん?どしたバロン?」

 ヴァーユが少しバロンを気にかける。

「……いいや、なんでもない」

「ハッ、暑すぎて白昼夢でも見たんじゃねえのか?」

「……そうかもな。一つ聞きたい、この世界にイタリアという街があったりはしないか?」

「いたりあ?なんだそりゃ。ムスペルの新兵器かなんかか?」

「……いや、なんでもない」

 砂を一歩一歩踏みしめながら、バロンは記憶の整理をつけていく。

「(まず始めに、僕はニブルヘイムで目覚める前、僕は少女から問いかけられていた。青い長髪の、可憐な少女だ。その子は僕のことをバロンと呼んだ。自分の名前は未だ不明だが、ヴァルナたちやあの少女からバロンと呼ばれている。次に見た少女の姿……部屋の中でその少女を痛め付けていた。僕は自分のことを私と呼んでいた。それに、身に覚えのない研究服を着て、重量をはっきりと感じるほど勲章を付けていた。その次、僕は陽が照らす雪道を彼女と歩いていた。その前と違って少女は極めて穏やかな表情で僕を見ていた。まるで恋人のように顔を赤らめて見つめてきた。そして今のは……自分のことを私と呼び、少女はこちらを見下すような視線を向けてきた……)

 ……さっぱりわからんな」

「止まれ、バロン、ヴァーユ」

 ヴァルナが手で二人を制し、その先に見える建造物を指差す。

「……あれがアリンガ」

 アリンガと呼ばれるその場所は、中央に大きな塔があり、そこから四方に通路が開けているようである。

「行くぞ」

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