「上級神徒出現!」
通信機越しに報告が響くと同時に、王の間に張り詰めた緊張が走った。
「ピーターパン部隊が押されている! メインゲートを守るために、雷を向かわせる!」
白波梓は冷静を装いながらも、鋭い口調で指示を飛ばす。だが、その声を遮るように、通信機から明るい声が飛び込んできた。
「いらなーい! 私一人で十分だもん!」
無邪気な笑い声に、場が一瞬静まり返る。
通信機越しにでも分かる、その声の主は|緋野翠≪あけのすい≫だ。
「翠ちゃん、ふざけないで! 相手は上級神徒よ!?」
梓は思わず声を荒げる。
「ふざけてないよ~?」
翠の声は軽く、楽しそうですらある。だが、その言葉の奥には、彼女なりの確信が感じられた。
「みんな忙しいでしょ~? だから私がちゃちゃっと片付けちゃうからさ~!」
翠の言葉に、司令部の空気が揺れる。梓は拳を握りしめながら考える。彼女が一人で上級神徒に立ち向かうのを許すべきなのか――。
「白波。ここは緋野を信じるしかない」
通信機越しに、司令官の|龍崎修一郎≪りゅうざきしゅういちろう≫が重い口調で呟く。
その言葉が場の空気を一変させた。
「司令部より通達! 上級神徒は緋野翠が迎撃。他の者は門を死守せよ!」
その指示が響く中、梓は窓の外を見つめていた。砂嵐の向こう、翠の姿が小さく見える。
「翠ちゃん……頼むわよ」
翠は泡を吐き出すガトリングを軽々と担ぎ、戦場へと駆け出していく。
その無邪気な笑顔とは裏腹に、瞳には確かな戦意が宿っていた。
「じゃ、いっちょやっちゃお~っと!」
荒れ地の中央に立つ翠の前に、上級神徒が姿を現す。禍々しい巨体、鋭い爪、そして複数のコア。そのすべてが翠を標的として向けられていた。
上級神徒が咆哮を上げ、巨腕を振り下ろす。
だが、翠は軽やかにそれをかわし、ガトリングのトリガーを引いた。
「ほらほら~! こっちだよ~!」
泡が一斉に放たれ、上級神徒の装甲に張り付く。それが瞬時に爆発し、戦場全体が震えた。
「おっと、まだまだこれからだよ~!」
翠は巨体の背後に回り込み、再び泡を撃ち込む。泡の連射が弾幕となり、上級神徒の動きを徐々に封じていく。
「どうしたの~? 全然動けてないじゃん!」
彼女の挑発に、上級神徒が怒りの咆哮を上げた。その隙を逃さず、翠はコアに泡を集中させた。泡が張り付き、内部で爆発の準備が進んでいく。
メインゲート防衛のために王の間で待機する|雷燦華≪レイカンファン≫が険しい表情で状況を睨んでいた。
「……あんな無茶苦茶なやり方、本当に大丈夫なの?」
雷が低く呟くと、梓は一瞬だけ迷いを見せた。だが、すぐにその瞳を鋭くする。
「大丈夫よ、翠ちゃんならやれる。ってか、やってもらわないと困る」
その声には、彼女自身に言い聞かせるような響きがあった。
翠はガトリングを高く掲げ、笑顔で叫んだ。
「さ~て、フィニッシュタイムだよ~!」
トリガーを引き、大量の泡をコアへと撃ち込む。それが次々と爆発し、上級神徒が巨体を揺らして崩れ始める。だが、翠は動きを止めず、さらに泡を撃ち込んだ。
「これでバイバ~イ!」
翠が放った最後の泡が巨大な一撃となり、上級神徒を完全に吹き飛ばした。砂塵が舞い上がり、戦場が一瞬静まり返る。
「いぇ~い♪ 上級神徒撃破~!」
翠は無邪気な笑顔で肩をすくめた。
「へ……もう終わったの?」
梓が静かに呟き、刀を収める。その表情には、安堵と複雑な感情が入り混じっていた。
「まあ、実力はやっぱりたしかみたいね……私以上に強引すぎるけど」
雷がため息をつきながら呟く。