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9-4: The Lone Gambit(孤独なる賭け)

「上級神徒出現!」

通信機越しに報告が響くと同時に、王の間に張り詰めた緊張が走った。

「ピーターパン部隊が押されている! メインゲートを守るために、雷を向かわせる!」

白波梓は冷静を装いながらも、鋭い口調で指示を飛ばす。だが、その声を遮るように、通信機から明るい声が飛び込んできた。

「いらなーい! 私一人で十分だもん!」

無邪気な笑い声に、場が一瞬静まり返る。

通信機越しにでも分かる、その声の主は|緋野翠≪あけのすい≫だ。

「翠ちゃん、ふざけないで! 相手は上級神徒よ!?」

梓は思わず声を荒げる。

「ふざけてないよ~?」

翠の声は軽く、楽しそうですらある。だが、その言葉の奥には、彼女なりの確信が感じられた。

「みんな忙しいでしょ~? だから私がちゃちゃっと片付けちゃうからさ~!」

翠の言葉に、司令部の空気が揺れる。梓は拳を握りしめながら考える。彼女が一人で上級神徒に立ち向かうのを許すべきなのか――。

「白波。ここは緋野を信じるしかない」

通信機越しに、司令官の|龍崎修一郎≪りゅうざきしゅういちろう≫が重い口調で呟く。

その言葉が場の空気を一変させた。

「司令部より通達! 上級神徒は緋野翠が迎撃。他の者は門を死守せよ!」

その指示が響く中、梓は窓の外を見つめていた。砂嵐の向こう、翠の姿が小さく見える。

「翠ちゃん……頼むわよ」

翠は泡を吐き出すガトリングを軽々と担ぎ、戦場へと駆け出していく。

その無邪気な笑顔とは裏腹に、瞳には確かな戦意が宿っていた。

「じゃ、いっちょやっちゃお~っと!」

荒れ地の中央に立つ翠の前に、上級神徒が姿を現す。禍々しい巨体、鋭い爪、そして複数のコア。そのすべてが翠を標的として向けられていた。

上級神徒が咆哮を上げ、巨腕を振り下ろす。

だが、翠は軽やかにそれをかわし、ガトリングのトリガーを引いた。

「ほらほら~! こっちだよ~!」

泡が一斉に放たれ、上級神徒の装甲に張り付く。それが瞬時に爆発し、戦場全体が震えた。

「おっと、まだまだこれからだよ~!」

翠は巨体の背後に回り込み、再び泡を撃ち込む。泡の連射が弾幕となり、上級神徒の動きを徐々に封じていく。

「どうしたの~? 全然動けてないじゃん!」

彼女の挑発に、上級神徒が怒りの咆哮を上げた。その隙を逃さず、翠はコアに泡を集中させた。泡が張り付き、内部で爆発の準備が進んでいく。

メインゲート防衛のために王の間で待機する|雷燦華≪レイカンファン≫が険しい表情で状況を睨んでいた。

「……あんな無茶苦茶なやり方、本当に大丈夫なの?」

雷が低く呟くと、梓は一瞬だけ迷いを見せた。だが、すぐにその瞳を鋭くする。

「大丈夫よ、翠ちゃんならやれる。ってか、やってもらわないと困る」

その声には、彼女自身に言い聞かせるような響きがあった。

翠はガトリングを高く掲げ、笑顔で叫んだ。

「さ~て、フィニッシュタイムだよ~!」

トリガーを引き、大量の泡をコアへと撃ち込む。それが次々と爆発し、上級神徒が巨体を揺らして崩れ始める。だが、翠は動きを止めず、さらに泡を撃ち込んだ。

「これでバイバ~イ!」

翠が放った最後の泡が巨大な一撃となり、上級神徒を完全に吹き飛ばした。砂塵が舞い上がり、戦場が一瞬静まり返る。

「いぇ~い♪ 上級神徒撃破~!」

翠は無邪気な笑顔で肩をすくめた。

「へ……もう終わったの?」

梓が静かに呟き、刀を収める。その表情には、安堵と複雑な感情が入り混じっていた。

「まあ、実力はやっぱりたしかみたいね……私以上に強引すぎるけど」

雷がため息をつきながら呟く。



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