「……決まったか?」
俺は荒い息をつきながら確認する。
砂埃が舞い上がる中、中級神徒の巨体が地面に沈んでいく。破壊した浮遊器官のせいで、もう飛ぶことはできないはず――そう確信した、その瞬間だった。
「ギギ……ギギィィィ……!!」
低い唸り声が戦場に響く。
「なっ……!?」
中級神徒の巨体が痙攣し、黒い液体を撒き散らしながら再び動き始めた。
「まだ、終わっちゃいない……!」
俺はガン・ダガーを構え、中級神徒の横腹に向かって全力で突進した。
口から爆撃を撒き散らし続ける中級神徒をどうにか倒さなければ、この戦場は守れない。
だが、俺は寸でのところで爆撃に怯み、足を止めた。
「怯まないで踏み込まないと」
隣で冷静な声が響く。浮水彪だ。
彼は俺の横をすり抜け、|双閃刀≪そうせんとう≫を構え直すと、一気に中級神徒の懐へと飛び込んだ。
「そんな接近を……!」
思わず声が漏れる。だが、浮水の動きには一切の迷いがない。
中級神徒は巨体を揺らしながら鋭い爪を振り回してくる。その動きは速く、重い。だが、浮水は驚くほど軽やかにそれをかわし、双閃刀を正確に振るう。
「右腹の浮遊器官、がら空きだね」
浮水が短く言葉を残しながら、鋭い一閃で敵の装甲を切り裂いた。
黒い液体が飛び散り、中級神徒が苦しげに体を揺らす。
「なら、俺は左だ!」
俺もガン・ダガーを握り直し、弱点を狙って攻撃を加える。
中級神徒は体を震わせ、口から爆弾を吐き出そうとする。
「……遅い」
浮水が呟くと同時に、彼の動きがさらに加速した。
双閃刀が織りなす斬撃はまるで踊るように敵を切り裂き、その度に中級神徒が痛みに口をつぐむ。
俺はその隙に、ガン・ダガーを背後から突き刺す。
「いいね」
浮水が片手の剣をエネルギーで包み、一気に中級神徒の腹部に突き刺した。
俺と浮水の一撃が重なり、敵の胴体に穴があき、巨体がバランスを崩した。
だが――それでも倒れない。
「しぶといな……!」
俺が歯を食いしばった瞬間、中級神徒の両腕が急激に膨れ上がった。
――ブオオオオッ!
鋭い衝撃波が生じ、俺と浮水を弾き飛ばす。
「っ……くそ!」
地面に叩きつけられ、俺は肩を強く打った。すぐに身を起こそうとするが、目の前には中級神徒の巨大な腕が迫っていた。
「避け――」
「させない」
俺の視界の端を、影が横切った。
ズシャッ――!
刃の音。
そして――中級神徒の腕が、空中で切断された。
「間に合った」
浮水が静かに着地しながら、双閃刀を振るう。その表情には一切の動揺がない。
「ありがとう……助かった」
俺は息を整えながら、再びガン・ダガーを構えた。
中級神徒はわるあがきのように空中に舞い上がり、再び爆撃を撒き散らし、瓦礫と砂塵が視界を遮る。
「めんどう」
浮水が高く跳び上がり、双閃刀を構え直す。
その姿はまるで空中に舞う刃のようだった。
「いい加減落ちて」
浮水が言いながら、視線で俺に問いかける。――合わせて。
「了解」
俺はガン・ダガーを発射し、その反動で体を浮かせながら浮水の動きに合わせる。
ザシュッ――!
「今だ!」
浮水と俺の剣が敵を切り裂いた。
その一撃が致命傷となり、中級神徒が大きく揺れて崩れ落ちる。
「終わった……のか?」
俺は息を切らしながら浮水の方を見た。彼は双閃刀を収め、静かに敵の残骸を見下ろしていた。
「君、やっぱやるね」
浮水が俺に目を向けて言った。その声には、感情の起伏がほとんど感じられない。だが、彼の視線には確かな評価が込められているのが分かった。
「ありがとう。でも、一人じゃ無理だった……」
俺が言いかけたその時、通信機が急に鳴り響いた。
「全員に通達! 新たな敵が――上級神徒が出現した!」
梓の鋭い声が響く。その報告に、全員の顔が緊張に引き締まった。
「上級神徒……だと?」
俺は拳を握りしめ、まだ戦いの終わりが遠いことを痛感した。
浮水は静かに息を整えながら、双閃刀の柄を握り直す。
「さっきのが雑魚なら……次は本番かな」
彼の冷静な声に、俺の背筋が僅かに震えた。
俺たちはまだ、この戦いの入り口に過ぎないのかもしれない――。