俺は荒れた息を整えながら、目の前の戦場を見据えた。
先ほど耳にした黒磯の活躍に、内心、焦る。
「負けてられない……!」
だが、その時だった。
空に、不気味な影が広がった。
ゴォォォォォォ――――!
「な、なんだ……!?」
砂塵の向こうから、巨大な影が浮かび上がる。
「あれは……飛行型……!?」
黒い翼を広げ、上空を旋回する巨大な影――それは、通常の神徒とは明らかに異なる異形だった。
「賢くん、いま通信で、あの飛んでるやつ、中級神徒だって……!」
近くにいた凪が、焦りを滲ませながら叫ぶ。
「ああ、聞いた」
俺は周囲を見渡す。他の門の上空にも、同じような飛行型神徒が複数迫っているのが見えた。
「ちくしょう。ほかの門まで構っている余力はないか……!」
俺は唇を噛みしめ、ガン・ダガーを構え直す。
ドガァァァァン!!!
中級神徒が口を開き、黒い爆弾を吐き出した。
ズガァァン!!!
爆風が城壁を吹き飛ばし、瓦礫が飛散する。プレイヤーたちの悲鳴が響く中、俺たちは反射的に身を伏せた。
「クソッ……! このままじゃ……!」
俺はガン・ダガーを握りしめながら、なんとか対策を考えようとする。だが、その間にも爆撃は続き、地上は焼け野原と化していった。
「全員、退避しろ!」
俺の声が響くが、避けきれずに吹き飛ばされるプレイヤーたちもいる。
「くそっ……!」
俺は瓦礫の隙間から中級神徒を睨みつけた。
「あいつを落とさないと、戦場が壊滅する……!」
「凪!」
俺は彼女に声をかける。凪はリボンを駆使し、接近してくる神徒の動きを必死に止めている。
「どうしたの、賢くん?」
「俺を空に飛ばしてくれ! 中級神徒を直接叩く!」
「え、ちょっと待って。それ本気……?」
彼女の顔に戸惑いが浮かぶ。
「ああ、本気だ。他に手がないんだ!」
俺は力強く頷き、ガン・ダガーを握りしめる。
「分かった……信じるよ!」
凪は大きく息を吸い込み、リボンを振りかざした。
「いくよ! 賢くん!」
彼女の声とともに、俺の体が宙へと放り投げられた。風が頬を切り、目の前の景色が一気に遠ざかる。
「うおおおおお!!!」
俺は叫びながら、飛翔する中級神徒の背後へと接近する。
ドドドドド……!
しかし、中級神徒は俺の動きを察知し、再び爆弾を吐き出してきた。
「クソッ……!」
俺は咄嗟にガン・ダガーを逆手に構え、引き金を引いた。発射された弾がスラスターのように作用し、体の軌道を変えながら爆弾をかわしていく。
「このまま――!」
俺は勢いをつけたまま中級神徒に迫り、浮遊器官に手を伸ばした。
「捕まえた……!」
俺はその背中にしがみつき、ガン・ダガーを突き立てた。硬い殻を貫く感触があり、内部から異音が響く。
「これで……どうだ!」
俺はさらに深く刃を刺し、最後に引き金を引いた。爆発音とともに浮遊器官が破壊され、中級神徒はバランスを失い始めた。
「落ちろ……!」
俺はその場を離れると、中級神徒が地面に叩きつけられるのを見届けた。
だが、その巨体はすぐに動きを再開し、再び破壊を始める。
「まだ動くのかよ……!」
俺は目の前の光景に愕然とした。
「くそっ……! ひとりでやるしか……!」
俺は必死にガン・ダガーを構え直すが、敵の動きは止まらない。
「……こんな時、翠の泡があれば……」
その思いが頭をよぎった瞬間、自分が誰かに頼ろうとしていることに気づき、情けなく感じた。
「だめだ……! ひとりでやるんだ……! 黒磯に先を越されたままでたまるか…!」
俺は奥歯を噛み締め、再び爆撃の雨の中に飛び込もうとした。
その時――
「援護する」
静かな声が背後から響く。
俺が振り向くと、浮水が無言で俺の横に並んでいた。
「……助かる」
俺は短く頷く。
「無駄な動きはするな」
浮水は淡々とした口調でそう言うと、双閃刀を静かに抜いた。
「……最速で終わらせる」
中級神徒が口を開き、再び爆弾を吐き出す。
「よし……やるぞ!」
俺たちは同時に飛び込んだ。
俺はガン・ダガーを握りしめ、浮水の動きに合わせて中級神徒の胴体に突撃する。
「コアを狙う!」
俺が叫ぶと、浮水は一瞬で敵の間合いに入り込み、双閃刀を素早く振り抜いた。
神徒の巨体が揺れる。
「そのまま……!」
俺はガン・ダガーを構え直し、最大の力を込めて引き金を引いた。
ズガァァァァン!!!
俺と浮水の連携攻撃が炸裂し、中級神徒はついにその動きを止めた。
「……決まったか?」
俺は荒い息をつきながら確認する。
塔の時計が、再びカチリと音を立てた。