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8-8: Storm on the Horizon(迫り来る嵐)

中級、下級特殊個体を倒し、残るは有象無象のモブ神徒だけだった。

浮水が前に出ると、敵に向かって一直線に突進する。その動きには無駄がなく、一瞬の隙を突いて刀を深く突き刺した。

「……弱いね」

冷たい声とともに、モブ神徒が黒い液体を撒き散らしながら崩れ落ちる。

その間、俺たちは残りのモブ神徒を一掃するため、全力を尽くしていた。

「右側、もう一体来てる!」

俺が叫ぶと、一般プレイヤーの一人が反応した。

「やあああ!」

短い髪の少女が震えながらも前に出る。彼女は斧を構え、突進してきた神徒に真正面から立ち向かった。斧が神徒の脚部を狙い、見事な一撃を決める。

「いま!」

彼女叫ぶと、後ろから別のプレイヤーが矢を放ち、神徒のコアを貫いた。

その動きには迷いがない。

「俺たちだって!」

一人が叫ぶと、次々と一般プレイヤーたちが動き出す。彼らはお互いをカバーし合いながら、敵の動きを止め、協力してとどめを刺していく。

「すごい!最高だ!」

俺は声を張り上げる。彼らの奮戦が場の空気を確実に変えていた。

その光景に、一馬がにやりと笑った。

「へっ、いいじゃねえか。なら俺も派手にいくぜ!」

拳を構えた彼は、猛スピードで突進してきた神徒を迎え撃つ。全身の力を込めた拳が、敵のコアを正確に捉え、爆発音と共に神徒を吹き飛ばした。

「っしゃ、次!」

一馬の熱い声が響く中、三輪が冷静な口調で指示を飛ばす。

「一馬、調子に乗るな。右側を見ろ。狙われてる」

「分かってるって!」

一馬が返事をしながら、次の敵に向かう。

凪のリボンが空を舞い、敵の動きを絡め取る。

「美雪、いま行けるよ!」

凪が声を掛けると、美雪が即座に応じた。

「うん……!」

彼女の鋭い突きが敵のコアを貫き、神徒を崩れ落とす。

凪と美雪は駆け寄り、ハイタッチした。

「これで……全部でしょうか……」

美雪が息を切らしながら、レイピアを構え直す。

周囲が一瞬の静寂に包まれる。残骸と化した神徒の横に立つ浮水が、無言のまま地平線を睨んでいた。

「まだ第一ウェーブが終わっただけ……来るよ」

浮水の言葉は冷たく、これまでの戦いを無力化するように響いた。

「冗談だろ……」

一馬が拳を握りしめながら呟く。

俺は塔の頂上にある時計を見上げる。針はまだ半周も進んでいない。タイマーは90分中、まだ30分しか経っていなかった。「残り、60分……」

「こんなの、まだ序盤ってことか……」

胸に冷たいものが走る。

その時だった。地平線の向こうに新たな動きが見えた。

砂嵐の中、無数の黒い影が蠢いている。

「また来る……!」

凪がリボンを握りしめながら呟く。

「……あの数、どうすんだよ」

一馬が呆然とつぶやく。

地平線を覆い尽くす神徒の大群が、砂嵐の向こうから次第に姿を現してくる。

「さすがに……これは……」

美雪が静かに息を呑む。

「総員、戦闘準備」

浮水が静かに告げる。

プレイヤーたちはみな一様に息をのむ。

地平線の向こう、砂埃が巨大な壁のように迫ってくる。その向こうにいる神徒の数は計り知れない。どれだけの数がこの城壁を目指しているのか――想像もつかない。

「来るぞ……!」

誰かが呟いた。

時計の針がまた一つ進む音が響く中、神徒の大群がついに城壁の間近まで迫ってきた。

荒れ地の砂が吹き上げられ、視界が霞む。

「残り60分……持ちこたえてみせる…!」

俺は息を整え、武器を構え直した。一般プレイヤーたちの奮戦を背に、全員が次の戦いに備える。

絶望的な光景を目にしながら、それでも俺たちは武器を構えるしかなかった。



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