俺は震える一般プレイヤーたちを見回した。
簡単な攻撃や防御の方法を教えながら、彼らが動き出すのを見守る。
しかし、武器を手にしているものの、誰も前に進もうとしない。
「怖いよ……こんなの、戦えるわけない……」
誰かが小さく呟いた。その言葉が場を一層重苦しくする。
「やるしかないんだ! ここを守らなければ――」
俺が声を上げかけたその時、通信機が鳴り響いた。塔の頂上にいる|白波梓≪しらなみあずさ≫からだった。
「総員に通達。2の門が陥落。繰り返す、2の門が陥落」
梓の冷静な報告に、周囲が一気にざわめき始める。
「2の門の残存プレイヤーは1の門へ配置転換。|緋野翠≪あけのすい≫の指揮下に下れ。1の門を死守せよ!」
その指示に、プレイヤーたちが動揺を隠せない。
「6の門、隊長の|雷燦華≪レイカンファン≫をメインゲートに召集する。私とともに最後の防衛線を張る。雷部隊はそのまま6の門にて戦闘を継続せよ」
通信機越しに響く彼女の言葉が、焦燥感を一層強める。
「連絡は以上――みんな、覚えておいて。この侵攻を敵が完遂すれば、ANATは壊滅する。それだけじゃない……SENETに囚われた人たち全員の命が失われる」
プレイヤーたちは息を飲み、言葉を失ったように顔を伏せた。
「そんなの……嫌だ!」
誰かが叫んだ。その声には恐怖が混じっている。
「でも、俺たちに戦えるのかよ……?」
震える声が聞こえた。
俺は一歩前に出て、プレイヤーたちを見回す。
「ひとりで一体を倒そうとしなくていい。三人で一体を倒すんだ。攻撃は手分けして、誰かが狙われたら、他の二人で援護する」
俺はさらに続ける。
「俺たちは矢神さんのように強くない。でも、全員で協力して、一歩ずつ進む。それが、今の俺たちにできる唯一のことだ!」
俺は大きく息を吸い込み、プレイヤーたちに振り返った。
「みんな、覚悟を決めてくれ。俺たちが敵を止めるんだ!」
震える手で、一人のプレイヤーが武器を握り直した。それに続き、他のプレイヤーたちも次第に動き出す。
「……う、うぉおぉぉぉおおお!」
誰かが自信を鼓舞するように叫ぶ。
その声が周囲に伝播し、大きなうねりとなった。
――いける。
俺は確信した。
次の瞬間、モブ神徒が門を突破しようとする。
それを迎え撃つように、一人のプレイヤーが武器を振りかざした。神徒の動きが一瞬止まる。
その隙に、残りの勇気を振り絞った二人のプレイヤーが敵を仕留めた。
「いけぇぇぇえええ!」
別のプレイヤーが神徒を撃つ。それを見て、全員の動きが徐々に活発になっていく。
震えていた手は、今、確かな一撃を放つために動いていた。
「やった……俺たち、やれる!」
プレイヤーたちが声を上げる。その瞬間、戦場の空気が変わった。
「そうだ。俺たちは、戦えるんだ!」
俺はガン・ダガーを構え、次の敵に目を向けた。
一瞬の勇気が確かな力に変わる。
俺たちは避けられない戦いに向けて、一歩を踏み出したのだった。