4の門。
「来るぞ!」
俺はガン・ダガーを構え直し、迫る敵を睨みつける。
前方に現れたのは、圧倒的な体格を持つ下級特殊個体だった。
その黒い外殻は艶めき、鋭い爪が光を反射している。
「一体ずつ確実に!」
凪が緊張した表情を浮かべながら声を上げた。
彼女の手元のリボンが軽く振られると、風を切る音が響く。
「ちょっ……速いって……っ!」
凪が鋭く睨みつけた先から、神徒が猛スピードで突進してくる。
その速度と威圧感に、俺は思わず息を呑んだ。
凪は一歩引き、リボンを放つタイミングを計っている。神徒が間合いに入った瞬間、彼女のリボンが弧を描きながら正確に飛び出した。しなやかなリボンが神徒の腕に絡みつき、動きを制限する。
「動かないでよっ!」
神徒がリボンを引きちぎろうと暴れ出すが、凪は冷静にリボンを引き絞り、敵の自由を完全に奪った。
「拘束完了! 賢くん、いま!」
「助かる!」
俺はガン・ダガーを握り直し、動けない神徒の胴体目掛けて突進した。渾身の力で斬りつけると、鋭い刃が外殻を貫き、神徒が黒い液体を撒き散らしながら崩れ落ちた。
「一体目、撃破!」
俺は息を整えながら振り向いた。
「秋月たちは……」
確認しようとした瞬間、後方で雷鳴のような衝撃音が響いた。
そこには、もう一体の下級特殊個体と対峙する秋月と蓮の姿があった。
「動きを止める!」
蓮が鋭く叫ぶ。剣先からほとばしる電流が、下級特殊個体の足元を狙い撃ち、電流が敵の動きを奪う。神徒が痙攣しながら立ち尽くすと、その隙を見逃さず、秋月が一気に前へ踏み込んだ。
「爆ぜろ!」
秋月が叫びながら拳を振り抜く。拳が神徒の外殻を叩き砕き、衝撃波が敵の体を粉々にする。
「っしゃおら! 二、三年はやいんじゃ! 下級野郎が!」
秋月が拳を掲げ、声を上げた。
しかし、その余韻に浸る間もなく、三輪が冷静に言う。
「一馬、喜ぶのはまだ早い。周り見て」
「やべ! 城壁っ!」
三輪の冷静な声を遮るように、秋月が叫ぶ。
遠野美雪が孤軍奮闘しながら城壁を守っていたが、モブ神徒たちの数は圧倒的だった。
「俺が行く! 秋月たちは下を頼む!」
振り返らずに叫びながら、俺はプレイヤーたちの怯える姿を確認した。
一般プレイヤーたちは、近寄るモブ神徒の恐怖に硬直している。
武器を震える手で握りしめたまま、一歩も動けない者もいた。
「大丈夫か!」
俺は神徒を切り倒しながら、プレイヤーたちに声を張り上げた。
崩れ落ちた神徒を見た一人が小さく声を漏らした。
「もう無理……」
「落ち着け! 戦意を失くしちゃだめだ!」
「でも……ウチらにあんな化け物……無理だよ……」
震えながら泣いている。その恐怖は当然だ。俺だって怖い。
でも、恐怖の理由ほとんどは、戦い方を知らないからだ。
「俺が戦い方を教える」
「え……?」
顔を上げた彼の目に、微かな光が灯る。
「ウチらにも……できるの……?」
「やれるさ!」
俺はそのプレイヤーを見据えて答えた。
「ここで諦めたら、俺たちは何も守れない! 仲間も! 友人も! 家族も!」
その時、新たなモブ神徒が突進してきた。
俺はガン・ダガーを構えたが、視界の端に別の神徒が迫っているのを捉えた。
辺りを見回し、瓦礫の隙間に目を留める。
「大切な人を守れるのは……!」
逆手に持ったガン・ダガーの銃口から弾を放ち、瓦礫を崩して砂塵を舞い上がらせた。その一瞬の隙を突き、神徒の間をすり抜ける。
「戦う意志のあるものだけだ…!」
息を整えながらも、プレイヤーたちを守るため再び構え直す。
だが、プレイヤーたちはまだ恐怖に縛られているようだった。
その時、背後から声が響いた。
「ねえ、なんで援護が遅いの?」
振り向くと、そこには中級神徒を倒した浮水が立っていた。冷静な目でこちらを見据えている。
「俺たちも忙しかったんだ! こっちの状況も分からずに文句を言うなよ!」
思わず声を荒げたが、浮水は冷静に首を振った。
「君に言ったんじゃないよ」
彼の視線は一般プレイヤーたちに向けられていた。
「君たちも、戦う覚悟を決めなよ。弱いんだから、せめて覚悟くらいは持ってくれ」
その言葉にプレイヤーたちは目を伏せた。
――言いすぎじゃないか?
俺はそう思ったが、ここは浮水の発破を利用するしかない。
「みんな、聞いてくれ!」
俺は大きな声で呼びかけた。
「浮水の言う通りだ。怖いのは分かる! だけど、ここで逃げたら、何も残らない!」
その言葉に、プレイヤーたちは不安げに顔を上げた。
「バリスタに頼り切っていては、いまみたいに攻め込まれたとき、どうしようもない。次は一人ひとりが武器を取る番だ! 俺が戦い方を教える。だから、一緒に立ち上がろう!」
一瞬の沈黙の後、プレイヤーの一人が小さく頷いた。
「……や、やってみる」
その声に続いて、他のプレイヤーたちも少しずつ武器を手に取っていく。
「よし、みんなでこの門を守り抜くぞ!」
再びガン・ダガーを握りしめ、迫りくる敵の影に目を向けた。