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8-5: Echoes of Responsibility(責任の残響)

4の門。

バリスタが唸りを上げ、神徒の群れに矢を放ち続けている。だが、その数は一向に減る気配がなかった。それどころか、砂嵐の向こうからさらに巨大な影が現れ始めている。

「来るぞ……!」

俺はガン・ダガーを握りながら静かに呟いた。

中級神徒の一体が凄まじい威圧感を纏いながら進軍してくる。

浮水はその神徒に集中し、無駄のない精密な剣技で華麗に斬り込んでいた。その姿は圧倒的だったが、彼の背後では複数の下級特殊個体が残されている。

「なんで下級を無視するんだよ……!」

俺は舌打ちをしながら周囲を見渡した。案の定、下級特殊個体の2体がこちらに向かってきていた。

「私が足止めする!」

凪が力強く叫ぶ。彼女のリボンが空を裂き、一体の動きを絡め取った。

だが、もう一体がその隙を突き、一般プレイヤーたちに迫る。

「くそっ……!」

俺は咄嗟にガン・ダガーを握りしめ、凪の援護に回る。必死に下級特殊個体のもう一体を抑えるが、その間にモブ神徒が抜けていく。

その時、美雪が冷静な声で指示を飛ばした。

「バリスタ運用部隊は下がってください! 私が抑えます!」

彼女は鋭い動きで城壁を登ってきたモブ神徒をいなしながら、プレイヤーたちを安全圏へと誘導していく。その動きには焦りがなく、全てを見通しているような正確さがあった。

「これ、ちょっとやばくねえか!?」

城壁に駆け戻ってきた一馬が、モブ神徒を次々と殴り落としながら叫ぶ。

「浮水のやつが無茶するからだ……」

蓮が追いついてきて舌打ちしながら言うが、その目はすでに次の敵を捉えていた。

俺たちは無数のモブ神徒を捌きながら、下級特殊個体を警戒しつつ、周囲の安全を確保しようと必死だった。それでも、戦況は悪化するばかりだった。

「ピーターパンもあてにならないね。結局、彼らも時間稼ぎ要員だ」

蓮が低い声で呟いた。その言葉には、どこか諦めに似た響きがあった。

「矢神さんがいれば、全部片付けてくれたからな」

「いねえ人の話してもしょうがねえだろ!」

一馬が苛立ちを隠せず叫ぶ。

「でも、本当のことだろ?」

蓮は皮肉っぽく笑いながらも、鋭い刺突で次々と敵を仕留めていく。

「……今は、俺たちで何とかするしかないだろ!」

俺は叫び、全力で下級特殊神徒に斬りかかった。渾身の一撃が敵を吹き飛ばす。

蓮が少し驚いたように俺を見たが、すぐに小さく頷いた。

「わかってる……愚痴のひとつくらい言わせてよ」

それでも、戦況は一向に好転しない。モブ神徒たちが一般プレイヤーに迫り、恐怖の叫び声が響いていた。俺はその声に振り返り、胸が締め付けられるような無力感に苛まれる。

「自分たちで……何とかするしかない」

呟いたその言葉は、俺自身に言い聞かせるためのものだった。

「賢くん、ごめん!リボンが!」

凪の声が戦場に響いた。

振り返ると、彼女のリボンが切れ、拘束を解かれた下級特殊個体が動き出している。

「大丈夫だ!よくやってくれた!」

俺は凪に向かって叫び、ガン・ダガーを握り直す。一般プレイヤーの避難は完了している。あとは、こいつを何とかするだけだ。

その時だった。地平線の向こうに、新たな影が浮かび上がる。これまでに見たどの神徒よりも巨大で、不気味な存在感を放っている。

「さあ、勝負だ……!」

俺は静かに呟いた。

吹き飛ばした下級特殊個体が再び起き上がり、凪のリボンを断ち切ったもう一体が城壁の目前に迫る。

塔の時計がカチリと音を立てる。その音が、次の戦いの始まりを告げているように感じられた。


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