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6-8: Flame Empress (炎の戦姫)

雷は槍を振りかざし、足元から巨大な炎を巻き上げた。

 熱波が瓦礫を焼き払い、燃え上がる炎の波が、宙に浮かぶ円に向かって一気に襲いかかる。

「燃え尽きなさい!」

その叫びに合わせるように、炎は怒涛の勢いで円を包み込む――

だが、円はその炎をすべて吸収するように取り込み、周囲の光がいっそう強く輝き出した。 吸収した熱は、たちまちエネルギーとして凝縮され、反転して雷へと叩きつけられる。

「へぇ!やるじゃない!」

雷は咄嗟に槍を振り上げ、迫りくるエネルギーを弾き返した。 その動作は冷静でありながらも力強く、不敵な笑みを浮かべる彼女の顔には、自信と闘志が宿っている。

「でも、報告よりずいぶんしょぼいんじゃない?」

彼女の炎が円の外皮を焼き焦がし、淡い光の中に黒い焦げ跡を作り出していた。 その様子を観察しながら、雷は冷たく言い放った。

「神逐を放った影響で弱っているのかしら?それとも――」

彼女は一瞬、槍を掲げて炎の熱量を増幅させる。 「私が強くなりすぎた?」

その言葉に呼応するように、円が微かに揺らめいた。 だが、それは怯えではない。円はすぐさま再び熱を吸収し始めたのだ。 まるでブラックホールのように、周囲のエネルギーを引き寄せながら膨張していく。

「重力操作……。ふんっ! たくさん飲みこんで、一発逆転を狙ってるわけね」

その異常な挙動にも、雷は一切動じない。

「なら、吐き出す暇もないほど、注ぎ込んであげる!」

瓦礫が炎に焼かれ、周囲の空気が歪んでいく。

「ほらほらほらほら!」

彼女の鼻から血が一筋、頬を伝い落ちる。だが彼女はそれすら無視し、炎を注ぎ続けた。 円は膨張しながらも、ゆっくりと高度を上げ始めた。 その動きは、雷から逃げるようでもあり、最終的な反撃の準備にも見えた。

「逃がすわけないでしょう!」

雷の背中から突然、炎が噴き出した。 それは左右に広がり、燃え盛る翼のような形を作り出す。 その炎の翼は、彼女を空中へと押し上げ、円の後を追わせる推進力となった。

「燃え尽きるまで付き合いなさい!」

炎の翼を大きく羽ばたかせながら、雷は空中に舞い上がる。 彼女の軌跡が炎の尾を描き、摩天楼の空を赤く染め上げていく。 槍を振りかざし、円に向けて全力で渦巻く炎を放った。

円の表面が激しく揺らめき、焼け焦げた部分がさらに広がる。 しかし、円はなおも熱を飲み込み続け、最後の反撃を狙っていた。

「へえまだ食べられるんだ……見た目のわりに大食いなのね」

雷は鼻血を拭うこともせず、炎の翼を羽ばたかせながら槍を再び構えた。

「どっちが先に死ぬか、我慢比べよ!」

全身から溢れるエネルギーを槍の先端に集中させ、灼熱の一撃を叩き込む。

「雷隊長!そのままではあなたまで焼けてしまいます!」 地上から焦ったような隊員の声が届く。 その声はまるで、今にも落ちそうな彼女を引き戻そうとするかのようだった。

だが、雷は空中で翼を大きく羽ばたかせながら、うんざりしたようにため息をつく。

「あー! もう!うっさい!」

その言葉には、不安を一蹴するような力強さが宿っている。 さらに、振り返らずに続けた。

「あんたらは黙って私の背中を見てなさい!」

炎の翼が再び大きく羽ばたき、熱波が下の瓦礫を吹き飛ばす。 その熱気に押されながらも、隊員たちは息を飲み、雷の背中を見上げる。

「それともなに? 私が負けると思ってる?」

その声には、たしかに苛立っていた。

だが、その中には、地上の隊員たちの不安を拭い去るような、確固たる自信もあった。

「任せてよ。こんな雑魚とは、背負ってるものが違うもの」

彼女は口元に笑みを浮かべて言った。

下の隊員たちの間に、一瞬の静寂が訪れる。 そして、その静寂を破るように、力強い声が上がった。

「隊長!!」

「雷隊長!!」

口々に名前を呼び、彼女を鼓舞する隊員たちの声が高まる。 その声を聞きながら、雷は鼻血をぬぐうことも忘れ、炎の翼をさらに力強く羽ばたかせた。

「焼け爆ぜろぉぉぉおおお!」

槍を構え、全身から迸る炎を一気に集中させる。

 灼熱のエネルギーが、円を包み込み、ついにその限界を迎えさせた。


ドォォォオオン!


膨張しきったエネルギーが内部から押し寄せ、まばゆい閃光とともに大爆発を起こした。

爆発の衝撃が空を震わせ、摩天楼全体に轟音が響き渡る。 燃え盛る炎の柱が天に向かって立ち上がり、その余波が地上の瓦礫を吹き飛ばした。

そして、爆炎が消えた後――。 瓦礫の中から、フラフラとした足取りで雷の姿が現れる。

燃え尽きた翼は消えていたが、彼女の瞳にはまだ力強い光が宿っていた。

だが、ふらりとよろける。

「隊長……ッ!」

駆け寄ろうとする隊員たちを、彼女は手で制した。

倒れかける寸前、槍を地面に突き立て、身を起こす。

そして、鼻血を手の甲でぬぐうと、彼女は深く息を吸い、はっきりとした声で問うた。

「――勝者は?」

その問いかけに、隊員たちは拳を高く突き上げ、声を張り上げる。

「「「「雷 燦華!!」」」」

地面が割れるほどの歓声のなか、雷は満足そうに頷くと、

「それでよろしい」

と、隊員たちに背を向けた。

「「雷 燦華!!」」「「雷 燦華!!」」

そこから長く、雷を称える声が続いた。

燃え尽きるほどの激戦を制した彼女の背中を、誰もが見つめていた。

「ゲームクリアよ」

 彼女は空から降ってきた鍵を掴むと、それを高々と掲げてみせた。

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