赤い隊服をまとった雷部隊の進軍は、壮観だった。
整然とした密集陣形が摩天楼の瓦礫を踏みしめながら進む。
その様子は一見すると秩序そのものだが――実際には、常に危険と隣り合わせだった。
道中には無数の神徒が待ち構えている。モブ神徒や特殊個体の中級までが容赦なく襲い掛かり、戦場は混乱の極みだった。
だが、雷部隊の隊員たちは、それをまるで予定調和のように片付けていく。
「お前ら、強いな!」
一馬が感心したように呟くと、近くにいた側近が淡々と応じた。
「当然です。ここにいる雷部隊の半数はピーターパン部隊に名を連ねる者たちです」
その言葉を聞いた瞬間、一馬の目が驚きで見開かれる。
「マジかよ……全員がエリート中のエリートって……」
俺も同じ気持ちだったが、表には出さず淡々と眺めるだけだ。
――これが、ピーターパン部隊の本気ってやつか。
冷静を装っていても、彼らの実力には圧倒される。
神徒の群れを一蹴しながら、陣形を乱さないその動きは、まさに訓練された精鋭の証だ。
だが、その完璧な陣形にも、一瞬の隙が生じた。
神徒の一体が隊員のひとりを掴み、瓦礫に叩きつける。
「っ……!」
その悲鳴と共に、一馬が拳を握りしめた。
「おい! 大丈夫か!」
「隊を乱すな!」と雷の側近が言う。
そして、中央の雷は一切振り返らず、冷たく言い放った。
「空いた穴をふさぎなさい。手が空いてる者がまだいるでしょう?」
一馬はその冷酷さに憤りを露わにし、苛立ちを隠せない様子だ。
「おい……あれが隊長のやり方だってのかよ? 仲間だろうが!」
そんな彼に、近くの隊員が静かに言葉を返した。
「日本支部の方。誤解なさらないでいただきたい。我々は隊長の冷徹さを承知の上で仕えているのです」
「……なんだと?」
隊員は少しだけ視線を落とし、語り始める。
「我々の多くは、事故や災害で家族を失った孤児です。雷家が私たちを引き取り、教育を施してくれました」
「雷 燦華様は、雷家の令嬢であり、私たちにとって守るべき主君です。同時に、幼い頃から共に戦い、時にゲームを通じて互いを鍛えた友でもあります」
「だからこそ、彼女を全力で守る。それが我々の誇りです」
その言葉には、揺るぎない信念が込められていた。
一馬も黙り込み、俺もまた、彼らの士気と忠誠心に心を揺さぶられる。
やがて、淡く発光する球体――神徒・円まであと数十メートルの距離までくる。
「隊長!背中はお任せを!」
側近が力強く叫ぶと、雷は何の迷いもなく頷いた。
「当然よ」
俺はその言葉を聞きながら、静かに雷の顔を見た。
――こんなことを平然と言えるなんて、どういう神経してるんだ。
だが、彼女の瞳に宿る意志の強さに、何も言えなくなる。
雷は槍を構え、瓦礫を踏みしめながらゆっくりと前進する。
その歩みは冷たく、どこか孤高な印象で、俺はただ、その背中を見送っていた。
刹那、声が轟く――。
「雷隊長!ご武運を!」
「隊長!どうか仲間の仇を!」
隊員たちの大声が、一斉に雷を讃える。
その響きは、それこそまるで戦場全体に鳴り響く雷鳴のようだった。
「……お前ら、本気であいつをあがめてるのかよ」
だが、隊員たちは、ひたすらに隊長へ声援を送り続ける。
俺のちんけな皮肉の一言なんて、一瞬でかき消された。
「雷隊長!俺たちは背中を守ります!」
「隊長、存分に暴れてください!」
その声援に応えるかのように、雷は振り返りもせずに静かに言い放つ。
「安心なさい。あんたらが息切れする前に、こいつは焼き払ってあげるから」
その言葉に、隊員たちの士気はさらに高まり、地鳴りのような声が上がる。
俺は言葉を飲み込むしかなかった。 雷の背中は同世代とは思えないほどの自信にあふれていて――ありていに言えば、まるで矢神臣永に感じたような、隊長の風格そのものだった。