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6-7: Flames That Ignite the Heavens (天を燃やす炎)

赤い隊服をまとった雷部隊の進軍は、壮観だった。

 整然とした密集陣形が摩天楼の瓦礫を踏みしめながら進む。

その様子は一見すると秩序そのものだが――実際には、常に危険と隣り合わせだった。

道中には無数の神徒が待ち構えている。モブ神徒や特殊個体の中級までが容赦なく襲い掛かり、戦場は混乱の極みだった。

だが、雷部隊の隊員たちは、それをまるで予定調和のように片付けていく。

「お前ら、強いな!」

一馬が感心したように呟くと、近くにいた側近が淡々と応じた。

「当然です。ここにいる雷部隊の半数はピーターパン部隊に名を連ねる者たちです」

その言葉を聞いた瞬間、一馬の目が驚きで見開かれる。

「マジかよ……全員がエリート中のエリートって……」

俺も同じ気持ちだったが、表には出さず淡々と眺めるだけだ。

――これが、ピーターパン部隊の本気ってやつか。

冷静を装っていても、彼らの実力には圧倒される。

神徒の群れを一蹴しながら、陣形を乱さないその動きは、まさに訓練された精鋭の証だ。

だが、その完璧な陣形にも、一瞬の隙が生じた。

神徒の一体が隊員のひとりを掴み、瓦礫に叩きつける。

「っ……!」

その悲鳴と共に、一馬が拳を握りしめた。

「おい! 大丈夫か!」

「隊を乱すな!」と雷の側近が言う。

そして、中央の雷は一切振り返らず、冷たく言い放った。

「空いた穴をふさぎなさい。手が空いてる者がまだいるでしょう?」

一馬はその冷酷さに憤りを露わにし、苛立ちを隠せない様子だ。

「おい……あれが隊長のやり方だってのかよ? 仲間だろうが!」

そんな彼に、近くの隊員が静かに言葉を返した。

「日本支部の方。誤解なさらないでいただきたい。我々は隊長の冷徹さを承知の上で仕えているのです」

「……なんだと?」

隊員は少しだけ視線を落とし、語り始める。

「我々の多くは、事故や災害で家族を失った孤児です。雷家が私たちを引き取り、教育を施してくれました」

「雷 燦華様は、雷家の令嬢であり、私たちにとって守るべき主君です。同時に、幼い頃から共に戦い、時にゲームを通じて互いを鍛えた友でもあります」

「だからこそ、彼女を全力で守る。それが我々の誇りです」

その言葉には、揺るぎない信念が込められていた。

一馬も黙り込み、俺もまた、彼らの士気と忠誠心に心を揺さぶられる。

やがて、淡く発光する球体――神徒・円まであと数十メートルの距離までくる。

「隊長!背中はお任せを!」 

側近が力強く叫ぶと、雷は何の迷いもなく頷いた。

「当然よ」

俺はその言葉を聞きながら、静かに雷の顔を見た。

――こんなことを平然と言えるなんて、どういう神経してるんだ。

だが、彼女の瞳に宿る意志の強さに、何も言えなくなる。

雷は槍を構え、瓦礫を踏みしめながらゆっくりと前進する。

その歩みは冷たく、どこか孤高な印象で、俺はただ、その背中を見送っていた。


刹那、声が轟く――。


「雷隊長!ご武運を!」

「隊長!どうか仲間の仇を!」


隊員たちの大声が、一斉に雷を讃える。

 その響きは、それこそまるで戦場全体に鳴り響く雷鳴のようだった。

「……お前ら、本気であいつをあがめてるのかよ」

だが、隊員たちは、ひたすらに隊長へ声援を送り続ける。

俺のちんけな皮肉の一言なんて、一瞬でかき消された。

「雷隊長!俺たちは背中を守ります!」

「隊長、存分に暴れてください!」

その声援に応えるかのように、雷は振り返りもせずに静かに言い放つ。

「安心なさい。あんたらが息切れする前に、こいつは焼き払ってあげるから」

その言葉に、隊員たちの士気はさらに高まり、地鳴りのような声が上がる。

俺は言葉を飲み込むしかなかった。 雷の背中は同世代とは思えないほどの自信にあふれていて――ありていに言えば、まるで矢神臣永に感じたような、隊長の風格そのものだった。

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