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6-5: Vortex of Destruction (破壊の竜巻)

槌の猛攻は、俺たちの想像を遥かに超えていた。 巨大な鉄槌を振り回し、周囲を巻き込むその一撃一撃には圧倒的な破壊力が宿っている。

「くそっ、硬い!」 

俺は再びガン・ダガーを振るい、槌の巨体に斬り込むが、その外殻はびくともしない。

梓が鋭く声を張り上げる。 

「全員、間合いを取って!攻撃もヒットアンドアウェイを心がけて!その槌に捕まれば、一撃で終わる!」

「了解です!」

 美雪がレイピアで突きを繰り出しながら後退する。彼女の突きも、槌の鉄壁の外殻には通じない。


翠が口元に手を当て、やれやれといった表情で呟いた。

 「梓ちゃん、腐ってもピーターパン部隊の副隊長でしょ~? なんとかしてよ~」

梓が一瞬だけ翠を睨みつけた後、冷静に指示を出す。

「言ってくれるじゃない……水上さん、援護お願い!」

「あ、うん…!」

梓が刀を抜き、一気に槌の足元へ駆け込むと、水上凪のリボンが槌の腕を絡め取った。 

すぐに引き千切れるが、一瞬だけ隙が生まれる。

「閃――ッ!」

刃が輝き、次の瞬間、槌の右足が切り落とされ、巨体がぐらついた。 「おー!さっすが副隊長~♪」

翠が感心したように笑う。

だが、安堵する間もなく、槌が再生を始める。 切り落とされた足元が溶けるように形を変え、一本足で立ち上がる。 残った左腕がだらりと垂れ下がり――

「……嘘だろ」 

俺の呟きと同時に、槌が高速で回転を始めた。

その姿は、巨大な鉄槌を振り回すコマ――いや、破壊の竜巻そのものだった。

瓦礫が巻き上げられ、粉微塵に砕け散る。

俺たちは瞬く間に追い詰められる。 

「これじゃあ近づけないです!」

 美雪が叫び、俺も必死に距離を取る。

「たぶん、中に核がある。それを壊さないと再生が止まらない」

 梓が冷静に言い放つ。

翠が小さく肩をすくめ、にやりと笑った。 

「じゃあ、梓ちゃんのすごいとこも見れたし、私もちょーっとだけ本気出しちゃおっかな~」

「本気?」俺は眉をひそめた。

翠はガトリング砲を持ち上げながら、俺を見てにんまりと笑う。

「この中で一番逃げ足が速いのって、賢くんだよね~?」

「……言い方!」

俺は思わず声を荒げたが、「まあ、実際そうだろうな」と頷く。

翠は楽しげに口元を隠しつつ、槌を睨みつけた。

「私が隙を作るから、トドメは賢くんに譲ってあげる~♪」

「翠ちゃん、本気でやるなら慎重に――」

梓が注意しようとした瞬間、翠が叫ぶ。 「みんな、離れて~!」

ガトリング砲から無数の泡が放たれた。それは宙を舞い、槌の竜巻に飲み込まれていく。

「何を……?」黒磯が目を細める。

槌の回転が、泡を巻き込みながら次第に速度を落としていく。

「まさか…泡であの竜巻を飲み込む気か?」 黒磯が驚く。

「飲み込む~? それだけじゃつまらないでしょ~?」翠がほくそ笑む。

泡が槌の回転を徐々に鈍らせ、翠がタイミングを計るように叫ぶ。


「バンッ!」


泡が連続で爆発し、槌の身体から肉片が飛び散り、回転が一瞬だけ止まった。

その隙に翠が叫ぶ。 「賢くん、今だよ~!」

俺はガン・ダガーを構え、一気に駆け出した。

目の前には露出した核――再生の源だ。

「これで終わりだ!」

俺は全力でダガーを突き立てる。

だが、核の再生能力は予想以上だった。

「くっ、飲み込まれる!」 俺のダガーが吸い込まれるように核に巻き込まれていく。

「賢くん、もういい!下がって!」

梓の声が飛ぶ。

「俺だけここで退けるかよ…矢神さんは…退かなかったんだ!」

俺はとっさにガン・ダガーの銃モードを起動し、内部から核を破壊すべく、弾丸を放つ。 

「これで……どうだ!」

連続で打ち込んだ弾丸が炸裂し、核が完全に露出した。

俺は一気にその場を離脱する。

その瞬間、翠が再び笑みを浮かべた。 「賢くん、ナイス~!」

知らない間に、ガトリングの先端で泡が膨らみ、槌の頭上に大きなひとつの泡が浮いていた。

「灰島先輩、こちらに!」 天草が皆を守るバリアの内側から呼びかける。

「上級神徒さん、バイバ~イ♪」

翠はそういうと、自分を泡で包み、ガードを作ってから、その泡を槌に叩きつける。

一気に大爆発が起き、巨大な衝撃が周囲を襲う。

天草のバリアにヒビが入るほどの衝撃だった。

砂埃が消えると、槌の巨体が崩れ落ちた。

「終わった……!」 俺は膝をつき、深い息をつく。

「いぇ~い♪上級神徒撃破~♪」

翠が笑顔で親指を立てる。

「もう……強引すぎだってば……」

と、梓が額に手を当て、やれやれとため息をつきながら刀を納める。

だが、俺たちは無事に上級神徒を倒したのだ

俺たちは槌の残骸を見つめながら、その感慨に耽るとともに、こんな化け物を同時に相手取っていた矢神臣永というプレイヤーの強さに、改めて驚かされたのだった――。


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