槌の猛攻は、俺たちの想像を遥かに超えていた。 巨大な鉄槌を振り回し、周囲を巻き込むその一撃一撃には圧倒的な破壊力が宿っている。
「くそっ、硬い!」
俺は再びガン・ダガーを振るい、槌の巨体に斬り込むが、その外殻はびくともしない。
梓が鋭く声を張り上げる。
「全員、間合いを取って!攻撃もヒットアンドアウェイを心がけて!その槌に捕まれば、一撃で終わる!」
「了解です!」
美雪がレイピアで突きを繰り出しながら後退する。彼女の突きも、槌の鉄壁の外殻には通じない。
翠が口元に手を当て、やれやれといった表情で呟いた。
「梓ちゃん、腐ってもピーターパン部隊の副隊長でしょ~? なんとかしてよ~」
梓が一瞬だけ翠を睨みつけた後、冷静に指示を出す。
「言ってくれるじゃない……水上さん、援護お願い!」
「あ、うん…!」
梓が刀を抜き、一気に槌の足元へ駆け込むと、水上凪のリボンが槌の腕を絡め取った。
すぐに引き千切れるが、一瞬だけ隙が生まれる。
「閃――ッ!」
刃が輝き、次の瞬間、槌の右足が切り落とされ、巨体がぐらついた。 「おー!さっすが副隊長~♪」
翠が感心したように笑う。
だが、安堵する間もなく、槌が再生を始める。 切り落とされた足元が溶けるように形を変え、一本足で立ち上がる。 残った左腕がだらりと垂れ下がり――
「……嘘だろ」
俺の呟きと同時に、槌が高速で回転を始めた。
その姿は、巨大な鉄槌を振り回すコマ――いや、破壊の竜巻そのものだった。
瓦礫が巻き上げられ、粉微塵に砕け散る。
俺たちは瞬く間に追い詰められる。
「これじゃあ近づけないです!」
美雪が叫び、俺も必死に距離を取る。
「たぶん、中に核がある。それを壊さないと再生が止まらない」
梓が冷静に言い放つ。
翠が小さく肩をすくめ、にやりと笑った。
「じゃあ、梓ちゃんのすごいとこも見れたし、私もちょーっとだけ本気出しちゃおっかな~」
「本気?」俺は眉をひそめた。
翠はガトリング砲を持ち上げながら、俺を見てにんまりと笑う。
「この中で一番逃げ足が速いのって、賢くんだよね~?」
「……言い方!」
俺は思わず声を荒げたが、「まあ、実際そうだろうな」と頷く。
翠は楽しげに口元を隠しつつ、槌を睨みつけた。
「私が隙を作るから、トドメは賢くんに譲ってあげる~♪」
「翠ちゃん、本気でやるなら慎重に――」
梓が注意しようとした瞬間、翠が叫ぶ。 「みんな、離れて~!」
ガトリング砲から無数の泡が放たれた。それは宙を舞い、槌の竜巻に飲み込まれていく。
「何を……?」黒磯が目を細める。
槌の回転が、泡を巻き込みながら次第に速度を落としていく。
「まさか…泡であの竜巻を飲み込む気か?」 黒磯が驚く。
「飲み込む~? それだけじゃつまらないでしょ~?」翠がほくそ笑む。
泡が槌の回転を徐々に鈍らせ、翠がタイミングを計るように叫ぶ。
「バンッ!」
泡が連続で爆発し、槌の身体から肉片が飛び散り、回転が一瞬だけ止まった。
その隙に翠が叫ぶ。 「賢くん、今だよ~!」
俺はガン・ダガーを構え、一気に駆け出した。
目の前には露出した核――再生の源だ。
「これで終わりだ!」
俺は全力でダガーを突き立てる。
だが、核の再生能力は予想以上だった。
「くっ、飲み込まれる!」 俺のダガーが吸い込まれるように核に巻き込まれていく。
「賢くん、もういい!下がって!」
梓の声が飛ぶ。
「俺だけここで退けるかよ…矢神さんは…退かなかったんだ!」
俺はとっさにガン・ダガーの銃モードを起動し、内部から核を破壊すべく、弾丸を放つ。
「これで……どうだ!」
連続で打ち込んだ弾丸が炸裂し、核が完全に露出した。
俺は一気にその場を離脱する。
その瞬間、翠が再び笑みを浮かべた。 「賢くん、ナイス~!」
知らない間に、ガトリングの先端で泡が膨らみ、槌の頭上に大きなひとつの泡が浮いていた。
「灰島先輩、こちらに!」 天草が皆を守るバリアの内側から呼びかける。
「上級神徒さん、バイバ~イ♪」
翠はそういうと、自分を泡で包み、ガードを作ってから、その泡を槌に叩きつける。
一気に大爆発が起き、巨大な衝撃が周囲を襲う。
天草のバリアにヒビが入るほどの衝撃だった。
砂埃が消えると、槌の巨体が崩れ落ちた。
「終わった……!」 俺は膝をつき、深い息をつく。
「いぇ~い♪上級神徒撃破~♪」
翠が笑顔で親指を立てる。
「もう……強引すぎだってば……」
と、梓が額に手を当て、やれやれとため息をつきながら刀を納める。
だが、俺たちは無事に上級神徒を倒したのだ
俺たちは槌の残骸を見つめながら、その感慨に耽るとともに、こんな化け物を同時に相手取っていた矢神臣永というプレイヤーの強さに、改めて驚かされたのだった――。