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6-2: The Deceiver’s Truth(欺かれし真実)

「動いたら、斬る」

白波梓しらなみあずさが低く鋭い声で言った。その視線の先には、結城翔ゆうきしょうが立っている。

「え、ちょっと待ってくださいよ、白波先輩! 俺、何かしました?」

翔がライフルを背負ったまま、困惑した表情を浮かべる。俺も遠野美雪とおのみゆきも、そして緋野翠あけのすいも、状況を飲み込めずに固まった。

「梓、どうしたんだ?」

俺が問いかけると、梓は微動だにしない。その目は鋭く翔を見据えている。

「……みんな、下がって」

「え?」

梓の緊迫した声に、美雪と翠が戸惑いながらも後退する。

「白波先輩、なに焦ってんすか」

翔が苦笑いを浮かべる。

そして、笑うように言った。

「まさか、俺が神徒しんとにでも見えてます?」

梓の目が鋭く細められた。その瞬間、彼女は刀を一閃させた。

「おいっ!」

俺が声を上げるより早く、翔がライフルを振り上げ、梓の斬撃を受け止めた。

金属同士がぶつかる音が響き、火花が散る。

「……あーあ、これだからピーターパンの連中は嫌いなんだ」

翔はため息をつくように言った。「鼻が利きすぎる」

翔の口元に浮かんだ笑みは、いつもの彼とは明らかに違っていた。

「おまえ……翔じゃないのか?」俺が恐る恐る問いかける。

「うまく乗っ取ったと思ったのにな」

「乗っ取った……? じゃあ、本物の翔はどこに――」

俺が言い終わる前に、翔——いや、謎の存在は肩をすくめて言った。

「さあな。どっかでくたばってるんじゃない? まあ、君たちが知る必要はないさ」

俺の脳裏に、翔が「変なところに転送された」と言っていた言葉がよぎる。

そうか……あの時、すでに……ッ!

「貴様……!」

「怒るのは勝手だけど、無駄だよ。君たちには俺をどうこうする力なんてない」

謎の存在が不敵に笑う。その姿は、まるで俺たちを弄んでいるようだった。

「一体……何者だ……」

「そうだなぁ……君たちの価値観で言うところの、”特級神徒”になるのかな?」

特級。その言葉を聞き、梓を含め、全員が絶句した。

「矢神臣永を助けたいんだろう?」

と翔だった者が静かに言う。

「だったら、このクエストをクリアしなよ」

その言葉に俺たち全員が固まる。

「このフィールドのゲートにはカギがかかってる。だから、カギを持っている上級の特殊個体を倒せば晴れてクリアだ」

「待て! おまえ、それだけを伝えにきたのか! なんの目的で――……ッ」

「質問には答えないよ。それじゃ、せいぜい頑張って。ピーターパンの

お嬢さん、それと……」

翔——いや、特級神徒は、俺に手を振って言った。「イレギュラーくん」

そして、次の瞬間、奴は地面を蹴り、一気に闇の中へと跳躍した。

「おい!」

俺が叫んだが、返答はない。ただ彼の姿が完全に闇に溶けるだけだった。

俺たちはその場に立ち尽くした。梓は刀を鞘に収め、険しい表情を浮かべている。

「どうするんですか、賢くん……?」

美雪が不安そうに声をかけてきた。

「……まず、状況を整理しよう」

俺は深呼吸をして気持ちを整える。そして、特級神徒の言葉を思い返す。

「カギ……か。上級の特殊個体を倒せって……」

「そうだね。彼……いや、神徒の言葉を信じるならだけど」梓が冷静に言葉を継ぐ。

翠が眉をひそめながら通信機を操作していた。

「ね~梓ちゃん、とりあえず、近くの部隊に連絡を回そうよ~」

梓が小さく頷く。「うん。そうだね。ピーターパン部隊を中心に、一般プレイヤーの再編成を進めよう。みんなでカギを探さないと」

美雪が俺の方を見る。「賢くん、大丈夫ですか?」

「ああ、平気だ。とにかく、やるべきことをやるしかない」

たしかに翔の件はショックだ。でも、ここで立ち止まるわけにいかない。

「よし、カギを探そう」俺が静かに言い、全員が頷いた。


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