「動いたら、斬る」
「え、ちょっと待ってくださいよ、白波先輩! 俺、何かしました?」
翔がライフルを背負ったまま、困惑した表情を浮かべる。俺も
「梓、どうしたんだ?」
俺が問いかけると、梓は微動だにしない。その目は鋭く翔を見据えている。
「……みんな、下がって」
「え?」
梓の緊迫した声に、美雪と翠が戸惑いながらも後退する。
「白波先輩、なに焦ってんすか」
翔が苦笑いを浮かべる。
そして、笑うように言った。
「まさか、俺が
梓の目が鋭く細められた。その瞬間、彼女は刀を一閃させた。
「おいっ!」
俺が声を上げるより早く、翔がライフルを振り上げ、梓の斬撃を受け止めた。
金属同士がぶつかる音が響き、火花が散る。
「……あーあ、これだからピーターパンの連中は嫌いなんだ」
翔はため息をつくように言った。「鼻が利きすぎる」
翔の口元に浮かんだ笑みは、いつもの彼とは明らかに違っていた。
「おまえ……翔じゃないのか?」俺が恐る恐る問いかける。
「うまく乗っ取ったと思ったのにな」
「乗っ取った……? じゃあ、本物の翔はどこに――」
俺が言い終わる前に、翔——いや、謎の存在は肩をすくめて言った。
「さあな。どっかでくたばってるんじゃない? まあ、君たちが知る必要はないさ」
俺の脳裏に、翔が「変なところに転送された」と言っていた言葉がよぎる。
そうか……あの時、すでに……ッ!
「貴様……!」
「怒るのは勝手だけど、無駄だよ。君たちには俺をどうこうする力なんてない」
謎の存在が不敵に笑う。その姿は、まるで俺たちを弄んでいるようだった。
「一体……何者だ……」
「そうだなぁ……君たちの価値観で言うところの、”特級神徒”になるのかな?」
特級。その言葉を聞き、梓を含め、全員が絶句した。
「矢神臣永を助けたいんだろう?」
と翔だった者が静かに言う。
「だったら、このクエストをクリアしなよ」
その言葉に俺たち全員が固まる。
「このフィールドのゲートにはカギがかかってる。だから、カギを持っている上級の特殊個体を倒せば晴れてクリアだ」
「待て! おまえ、それだけを伝えにきたのか! なんの目的で――……ッ」
「質問には答えないよ。それじゃ、せいぜい頑張って。ピーターパンの
お嬢さん、それと……」
翔——いや、特級神徒は、俺に手を振って言った。「イレギュラーくん」
そして、次の瞬間、奴は地面を蹴り、一気に闇の中へと跳躍した。
「おい!」
俺が叫んだが、返答はない。ただ彼の姿が完全に闇に溶けるだけだった。
俺たちはその場に立ち尽くした。梓は刀を鞘に収め、険しい表情を浮かべている。
「どうするんですか、賢くん……?」
美雪が不安そうに声をかけてきた。
「……まず、状況を整理しよう」
俺は深呼吸をして気持ちを整える。そして、特級神徒の言葉を思い返す。
「カギ……か。上級の特殊個体を倒せって……」
「そうだね。彼……いや、神徒の言葉を信じるならだけど」梓が冷静に言葉を継ぐ。
翠が眉をひそめながら通信機を操作していた。
「ね~梓ちゃん、とりあえず、近くの部隊に連絡を回そうよ~」
梓が小さく頷く。「うん。そうだね。ピーターパン部隊を中心に、一般プレイヤーの再編成を進めよう。みんなでカギを探さないと」
美雪が俺の方を見る。「賢くん、大丈夫ですか?」
「ああ、平気だ。とにかく、やるべきことをやるしかない」
たしかに翔の件はショックだ。でも、ここで立ち止まるわけにいかない。
「よし、カギを探そう」俺が静かに言い、全員が頷いた。