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6-1: Chains of the Unknown(未知なる鎖)

工業地帯の中心部に近づくと、周囲の空気が異様に変化した。

金属が擦れるような音と、わずかに漂う錆びた匂いが辺りを満たしている。

「……敵だね~。たぶん、あの子だ~」

緋野翠あけのすいがガトリング砲を軽く持ち上げながら呟いた。

「どの子だ?」

俺が尋ねると、翠は目を細めて前方を指した。そこには長く鋭い鞭を振り回す異形の神徒がいた。

「ほら、神徒・鞭しんと・むち。範囲攻撃が得意でね~、特に近づくのがめんどいんだよ~」

「範囲攻撃、か……」

「うん~、広いだけじゃなくて速いし、力も強い。特に連携が苦手だと苦戦するよ~」

翠の説明を聞き、俺は改めて鞭を見据えた。

その長い体をしならせるたび、まるで空気を裂くような音が響く。

不用意に近づけば、一撃で薙ぎ払われるのは間違いないだろう。

「……翔、聞いてたな?」

俺が後ろを振り返ると、結城翔ゆうきしょうはスナイパーライフルを構えながら頷いた。

「了解です!まずは援護射撃で隙を作ります!」

「美雪、翔が狙いをつけるまでの間、注意を引いてくれ。俺もできるだけサポートする」

「わかりました」

遠野美雪とおのみゆきがレイピアを構え、静かに前方に進む。

「翠、後ろからモブ神徒が来たら頼む!」

「ん~、大丈夫だよ~!この先考えたら、下級の特殊個体には、私抜きでも勝ってもらわないとね~」

翠がガトリング砲を構えながら軽く笑う。その余裕の裏には、確かな実力があることを俺は知っていた。

「よし、行くぞ!」

俺たちは役割分担を確認し、動き出した。

まずは翔が狙撃を開始。鞭の動きを引きつけるために、正確な射撃を繰り出す。

弾丸が鞭の外殻に当たるたび、鋭い音が響き、鞭が注意を逸らした。

「今だ!」

俺と美雪が同時に距離を詰める。

美雪のレイピアが鋭い軌跡を描き、鞭の一部を突き刺すが、その硬い外殻に弾かれてしまう。

「硬い……!」

美雪が短く呟き、すぐに距離を取った。

鞭の反撃が始まる。鋭い音を立てて振り下ろされた一撃が、俺たちの周囲を粉々に切り裂いた。

「くっ、こいつ……!」

鞭の範囲攻撃は予想以上に広く、避けるだけで精一杯だ。

「翔、もっと隙を作れるか!?」

「やってみます!」

翔は狙撃ポイントを変えながら次々と弾丸を放つ。その正確な射撃が鞭の動きを一瞬止める。

「わお! 結城くん、すご~い!」

翠が後方で泡を放ちながら楽しそうに言う。

「えへへ……あざっす!」

翔は少し照れたように笑いながらも、すぐに真剣な顔に戻る。

「美雪、俺たちで一気に決めるぞ!」

「はい!」

美雪と俺は再び連携し、鞭の中心部を狙う。

俺がガン・ダガーで接近し、美雪がレイピアで精密に突きを繰り出す。

翔の狙撃が鞭の動きを封じ、最後に美雪のレイピアがその核心を貫いた。

「これで……終わりです!」

美雪の声とともに、鞭の巨大な体が地面に崩れ落ちた。

「よし……!」

俺たちは肩で息をしながらも、確かな勝利を感じていた。

だが、安堵する間もなく、背後から新たな足音が迫る。

「モブ神徒の群れか……くそ、切りがないな!」

俺たちが身構えたその時、鋭い閃光が群れ全体を一撃で切り裂いた。

「君たち、怪我はない?」

静かな声とともに現れたのは、白波梓しらなみあずさだった。

「梓……!」

俺は思わず駆け寄った。

「あれ? 賢くん!」

梓も抜いた刀を鞘に納めながら、駆け寄ってきた。

「大丈夫!? 怪我なかった」

「ああ、大丈夫だ。梓も、平気か……?」

俺が心配そうに呟くと、美雪がじっとこちらを見つめていることに気が付いた。

そして、ぷいっと顔をそらす。

その横で翠が頬を膨らませていた。

「なんか、ちょっとムカつくな~」

少々気まずくなり、俺と梓は少し距離をとる。

そして、梓はぴくっと一瞬身震いした、視線を翔に向けた。

「……君、一体、何者?」

その声は低く、問い詰めるような口調だった。

「え、俺ですか? ただのスナイパーで――」

「そんなわけないでしょ。君、なにか普通じゃない」

梓の真剣な表情に翔が動揺を見せる。俺も言葉を挟もうとするが、梓の鋭い視線に遮られる。

「みんな、離れて」

梓はそういうと、鞘に納めていた刀に手を掛けた。

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