工業地帯の中心部に近づくと、周囲の空気が異様に変化した。
金属が擦れるような音と、わずかに漂う錆びた匂いが辺りを満たしている。
「……敵だね~。たぶん、あの子だ~」
「どの子だ?」
俺が尋ねると、翠は目を細めて前方を指した。そこには長く鋭い鞭を振り回す異形の神徒がいた。
「ほら、
「範囲攻撃、か……」
「うん~、広いだけじゃなくて速いし、力も強い。特に連携が苦手だと苦戦するよ~」
翠の説明を聞き、俺は改めて鞭を見据えた。
その長い体をしならせるたび、まるで空気を裂くような音が響く。
不用意に近づけば、一撃で薙ぎ払われるのは間違いないだろう。
「……翔、聞いてたな?」
俺が後ろを振り返ると、
「了解です!まずは援護射撃で隙を作ります!」
「美雪、翔が狙いをつけるまでの間、注意を引いてくれ。俺もできるだけサポートする」
「わかりました」
「翠、後ろからモブ神徒が来たら頼む!」
「ん~、大丈夫だよ~!この先考えたら、下級の特殊個体には、私抜きでも勝ってもらわないとね~」
翠がガトリング砲を構えながら軽く笑う。その余裕の裏には、確かな実力があることを俺は知っていた。
「よし、行くぞ!」
俺たちは役割分担を確認し、動き出した。
まずは翔が狙撃を開始。鞭の動きを引きつけるために、正確な射撃を繰り出す。
弾丸が鞭の外殻に当たるたび、鋭い音が響き、鞭が注意を逸らした。
「今だ!」
俺と美雪が同時に距離を詰める。
美雪のレイピアが鋭い軌跡を描き、鞭の一部を突き刺すが、その硬い外殻に弾かれてしまう。
「硬い……!」
美雪が短く呟き、すぐに距離を取った。
鞭の反撃が始まる。鋭い音を立てて振り下ろされた一撃が、俺たちの周囲を粉々に切り裂いた。
「くっ、こいつ……!」
鞭の範囲攻撃は予想以上に広く、避けるだけで精一杯だ。
「翔、もっと隙を作れるか!?」
「やってみます!」
翔は狙撃ポイントを変えながら次々と弾丸を放つ。その正確な射撃が鞭の動きを一瞬止める。
「わお! 結城くん、すご~い!」
翠が後方で泡を放ちながら楽しそうに言う。
「えへへ……あざっす!」
翔は少し照れたように笑いながらも、すぐに真剣な顔に戻る。
「美雪、俺たちで一気に決めるぞ!」
「はい!」
美雪と俺は再び連携し、鞭の中心部を狙う。
俺がガン・ダガーで接近し、美雪がレイピアで精密に突きを繰り出す。
翔の狙撃が鞭の動きを封じ、最後に美雪のレイピアがその核心を貫いた。
「これで……終わりです!」
美雪の声とともに、鞭の巨大な体が地面に崩れ落ちた。
「よし……!」
俺たちは肩で息をしながらも、確かな勝利を感じていた。
だが、安堵する間もなく、背後から新たな足音が迫る。
「モブ神徒の群れか……くそ、切りがないな!」
俺たちが身構えたその時、鋭い閃光が群れ全体を一撃で切り裂いた。
「君たち、怪我はない?」
静かな声とともに現れたのは、
「梓……!」
俺は思わず駆け寄った。
「あれ? 賢くん!」
梓も抜いた刀を鞘に納めながら、駆け寄ってきた。
「大丈夫!? 怪我なかった」
「ああ、大丈夫だ。梓も、平気か……?」
俺が心配そうに呟くと、美雪がじっとこちらを見つめていることに気が付いた。
そして、ぷいっと顔をそらす。
その横で翠が頬を膨らませていた。
「なんか、ちょっとムカつくな~」
少々気まずくなり、俺と梓は少し距離をとる。
そして、梓はぴくっと一瞬身震いした、視線を翔に向けた。
「……君、一体、何者?」
その声は低く、問い詰めるような口調だった。
「え、俺ですか? ただのスナイパーで――」
「そんなわけないでしょ。君、なにか普通じゃない」
梓の真剣な表情に翔が動揺を見せる。俺も言葉を挟もうとするが、梓の鋭い視線に遮られる。
「みんな、離れて」
梓はそういうと、鞘に納めていた刀に手を掛けた。