模擬戦が始まり、天草結衣、黒磯風磨、そして俺――灰島賢の3人は、それぞれ指定されたポジションに散開していた。
周囲は廃墟と化した都市で、壊れたビルや瓦礫が視界を遮る。時折、砂嵐が吹き荒れ、緊張感がさらに高まっていた。
「さー!やるぞー!」
と天草が明るい声を上げるが、黒磯は無言のまま先に進んでいってしまう。
「く、黒磯先輩!待ってくださいよー!」
天草が慌てて追いかけるが、黒磯は振り向かず、一匹狼のように突き進む。
俺は少し離れた位置からその様子を見ていたが、内心焦りを感じていた。
これはチーム戦だ。連携なしでは、いくら個々が強くても勝ち目は薄い。
なにより、俺はまだ天草の戦闘スタイルすら知らないのだ。
「黒磯、もっと連携を……」
「黙ってついてこい。俺のやり方でやる。」
声をかけようとした瞬間、黒磯は冷たく言い放った。
その言葉に俺は少し苛立ちを覚えたが、ここで感情を露わにしても無意味だ。
「分かった。ただ、これはチーム戦だ。お前が強いのは認めるけど、俺たちが勝つには協力が必要だ。」
黒磯は俺を一瞬睨んだが、何も言わず前を向いたまま進んでいく。
敵BOTが現れ始める。
黒磯は一人で突撃し、次々に敵を倒していく。
その動きは見事だが、やはり俺たちとの連携は全く取れていない。
「黒磯先輩!」
天草が叫んでも、黒磯は無視し続ける。
さすがの俺もイラっと来てしまった。
あいつがそのつもりなら、こっちも方針を変えてやる。
「あいつのことは一旦放っておこう。俺たちふたりだけでも連携することを考えるんだ」
天草に言うと、彼女はすぐに「わかりました!灰島先輩!」と元気に答えた。
だが、その瞬間、建物の影から敵のBOTが天草を狙って突進してきた。
速い。死角からの急襲で反応も遅れた。
「天草、危ない!」
巨大な鋼鉄の拳が彼女に迫る。
俺は叫び、駆け寄ったが、間に合わない。
天草は必死に身を翻したが、完全には避けきれず、瓦礫の上に倒れ込んだ。
「天草!」
俺が敵の懐を切り裂き、膝をつかせたところで、別のBOTが再び彼女を狙ってきた。
「……くそっ!また死角からッ!」
俺が敵を無理やり切り刻み、駆け出そうとしたその時だった。
風のような速さで、水上凪が飛び込んできて、天草を救った。
「水上……助かった!」
「別に、私はポイント稼ぎに来ただけだし……」
と、凪は顔をそらす。
遠くには遠野美雪の姿もあった。
こちらを心配そうに眺めている。
「というか、賢くん、しゃきっとしなよ!チームプレイが大事って教えてくれたのは賢くんでしょ?」
水上のその言葉に、俺はハッとする。
そうだ。俺はなにを冷静さを欠いているんだ。
黒磯がいくらむかつくやつだからって、それで無い者として扱ったら、勝てる者も勝てない。
オンラインゲームにもむかつくやつはたくさんいた。
野良のボイチャで煽ってくる奴、
俺はそんなやつらさえも活かして戦っていたから、ランキングのトップに君臨していたんじゃないのか?
「水上……ありがとう。ようやく冷静になれたよ」
「一個貸しってことで。お返しは購買のプリンでいいから♪」
凪はにししっと軽く笑うと、颯爽と去っていった。
俺は一度立ち止まり、深呼吸をした。
冷静さを取り戻す。
ゲームでは、冷静さが勝敗を左右する。感情に振り回されては勝てない。
はじめて出逢ったチームメイトの性格や戦闘スタイルを見抜き、士気を高められてこそ、
「なあ、黒磯!」
俺は再び黒磯に声をかけた。
「お前の強さはわかってる。俺だって、誰よりもその実力を認めてる。でもな、このままだと、どんなに強くても限界がくる勝てるもんも勝てなくなる」
冷静を装いながら、俺は言葉を選んだ。黒磯のプライドを傷つけるわけにはいかない。
あいつの強さは、その高いプライドが生み出しているものだからだ。
「さっきも見ただろ?俺と天草もおまえの援護がないと、死角からの急襲ですぐに陣形が崩れちまうんだ」
黒磯が一瞬視線を逸らす。けど、ここで引くわけにはいかない。
「選抜メンバーとして残りたいんだろ? 俺だって、天草だって同じ気持ちだ。でも、そのためには個人の力だけじゃ足りないんだ。SENETはそんなに甘くない。それは俺や天草より長く戦ってきたお前が一番よく知っているはずだ!」
少し間を置いて、黒磯の反応を待つ。わずかな迷いが彼の表情に見えた。
「だからこそ、連携しようぜ。俺はお前の実力を信じてる。お前が前に出てくれるから、俺たちはその後ろで支えられる。お前と一緒に戦うことで、俺たち全員がもっと強くなれるんだ」
黒磯がわずかに目を細めたのを見て、俺はさらに続けた。
「頼む、黒磯。このままじゃお前の力がもったいない。俺たちで、その力を最大限に活かさせてくれ」
黒磯は無言で俺を睨んだが、やがてチッと舌を鳴らした。
「人と手を組むのは、嫌いなんだ。勘が鈍るからな」
「だが、負けるのはもっと嫌いだ。なめた
その言葉を聞き、俺と天草を顔を見合わせた。
お互いの顔は、勝機を見出した希望にあふれていた。