工業地帯に漂う空気が、ますます重く、そして不穏なものになっていく。
煙が立ち込め、微かな金属音が響く中、
しかし、彼らの動きには明確な違和感があった。
これは単なる戦闘ではない――彼らの狙いは、俺の消耗ではなく、時間を稼ぐことにある。
「……何かがおかしい」
攻撃の裏に潜む、明らかな意図。
それに気づいた瞬間、俺の全身に冷たい緊張が走る。
槌の巨大な鉄槌が再び地面を砕き、縛の無数の腕が獲物を捕らえようと這い回る。
しかし、その攻撃はどこかぎこちない。
まるで、俺を倒そうとする意思よりも、ただこの場に留め置こうとしているように感じる。
「俺をここに縛りつけて、何を企んでいる……?」
俺は剣を握り直しながら、ふと奥に目をやった。
工業地帯の奥深く――その方向から異様な光が見え始めている。
神力が渦を巻くように集まり始め、空気がさらに重く、異様なほどの圧力を感じさせる。
「これは……」
直感が叫んでいる。
そして、やつのあの光は……!
「
そうだ。
あの異様な光の正体は間違いない。
神逐――プレイヤーを封じ込め、永久にゲームから追放する禁術。
それが発動する前に、俺をこの場に封じ込め、戦場の支配権を奪おうとしているのだ。
なるほど。
槌や縛の動きは、ただ俺を引き留めるための囮でしかない。
彼らが真に狙っているのは、俺を封じ込めること。
戦いはもう手段でしかない。奴らの真の目的は……。
「……ふっ」
俺は無意識に苦笑した。
俺がそれほど脅威だというのか?
チーター扱いで排除しようというのか?
「上位存在が聞いてあきれる」
神逐が発動すれば、俺はこの戦場から完全に消える。
それだけではない。こいつらが戦場に放たれ、他のプレイヤーを蹂躙する。
槌が再びその巨大な鉄槌を振り下ろし、地面が激しく揺れる。
縛の無数の腕が俺を捕らえようと迫ってくるが、俺は最小限の動きでそれを回避した。
だが、時間を浪費しているわけにはいかない。
彼らが俺をここに引き留めている間に、神逐の準備が進行している。
「急がせてもらうぞ……!」
俺は再び剣を握りしめた。
身体の負担は無視してでも、短期決戦に持ち込むしかない。
槌が再び巨大な鉄槌を振りかざし、縛の無数の腕が地面を這いながら俺を捕らえようとする。
しかし、その動きにはわずかな隙があった。
奴らは長期戦を見越しているため、動きが精密すぎるのだ。
完璧な連携が、逆に隙を生んでいる。
だが、その精密さゆえに、わずかな隙を見逃すことはない。
戦いにおいて、完璧すぎる連携は逆にリズムを固定する。
固定されたリズムには、必ずほころびが生まれる。
槌の鉄槌が空を裂き、地面に向かって勢いよく振り下ろされる瞬間、俺はほんの一瞬でその動きを見極め、最小限の動きでそれをかわした。
踏み込む余裕すら与えない。次の瞬間には、槌の背後に移動していた。
「遅い……!」
俺は迷わずナイトホークにエネルギーをチャージする。
剣が微かに振動し、青白い光が刃に宿る。
斬撃を一閃。
剣から放たれたエネルギー波は槌の巨体を切り裂き、その重い装甲が揺れた。
響く音は戦場に鳴り響き、まるで空間そのものが悲鳴を上げたかのようだった。
「……効いたか?」
槌の巨体は一瞬、動きを止めた。
その巨腕がわずかに震え、まるで傷ついた獣が耐えているかのように立ちすくむ。
しかし、その一瞬の静寂は長くは続かない。
槌は再び動き出し、その重厚な鉄槌を振りかざしながら、ゆっくりと俺に向かって歩み寄ってきた。
まだ完全に倒せていない。
しかし、確実に手応えはあった。
何かが崩れ始めているのを感じた。奴らの神力の底が見えてきた。
「たたみかける……ッ」
躊躇はしない。
槌が再び動き出す前に、俺は一気に縛へと突撃する。
無数の腕が再び襲いかかってくるが、その動きは明らかに先ほどとは違っていた。
槌との連携が崩れ、縛の攻撃は単調になっている。
腕の数は多いが、リズムが崩れれば、動きは容易に予測できる。
ナイトホークを全力で振り抜く。
エネルギーが再び刃に集まり、その光が縛の無数の腕を切り裂いた。
次々と落ちていく腕が地面に転がり、その重さで地面が揺れた。
だが、安堵する間もなく、俺の目の前に広がる光景は異様なものだった。
「……!」
工業地帯全体が、まるで薄い霧のような淡い光に包まれていた。
その光は、ただの神力の発動とは異なる。
そこにあるのは
発動が間近に迫っている。
すでにその進行は止められないほど進んでいるのが、はっきりとわかる。
時間がない。
このままでは、俺はこの場から封印され、すべてが終わる。
神逐が発動すれば、俺は永久にこのゲームから追放される。
それだけでなく、戦局が敵の手に落ちる。
「まずい……!」
思考が加速する。
戦況を冷静に見極めなければならない。
槌も縛も動きが鈍くなっている。
連携が崩れたことで、一時的に攻撃が緩んでいる。
しかし、彼らを完全に無力化するにはもう少し時間が必要だ。
そして、その時間は――ない。
神逐の発動が、刻一刻と近づいている。
「ここで終わるわけにはいかない」
俺は自分に言い聞かせるように呟き、次の手を模索する。
これ以上、無駄な攻撃をしている暇はない。
冷静に、効率的に、そして確実に敵を無力化する。
それが、今の俺に課せられた使命だ。
剣を再び握り直し、俺は周囲を見渡す。
工業地帯はまるで死を迎えたかのような静寂に包まれていたが、その光は、まるで命の最後の一瞬を輝かせるかのように広がっていた。
「……やるしかない」
槌が再び動き出す。
鉄槌を握り締め、その巨体を揺らしながら、ゆっくりと近づいてくる。
縛も無数の腕を振り上げながら、再び俺に向かってきた。
だが、その動きには焦りが感じられる。
彼らもまた、時間がないことを理解しているのだろう。
「いくぞ……!」
俺は再びナイトホークを振り抜く。
エネルギーが剣に集中し、槌の胴体に深い傷を刻んだ。
巨体が一瞬、よろめく。
「……まだだ」
俺はさらに踏み込み、今度は縛の腕に向かって一撃を放つ。
無数の腕が地面に落ち、彼の動きが止まった。
だが、その時――。
縛の感情のない瞳が、笑った気がした。
「光が……!」
工業地帯全体がさらに強い光に包まれ、