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5-6: God Exile (神逐)

工業地帯に漂う空気が、ますます重く、そして不穏なものになっていく。

煙が立ち込め、微かな金属音が響く中、神徒・槌しんと・つい神徒・縛しんと・ばくが俺の周囲を取り囲み、攻撃の手を緩める気配はない。

しかし、彼らの動きには明確な違和感があった。

これは単なる戦闘ではない――彼らの狙いは、俺の消耗ではなく、時間を稼ぐことにある。


「……何かがおかしい」


攻撃の裏に潜む、明らかな意図。

それに気づいた瞬間、俺の全身に冷たい緊張が走る。

槌の巨大な鉄槌が再び地面を砕き、縛の無数の腕が獲物を捕らえようと這い回る。

しかし、その攻撃はどこかぎこちない。

まるで、俺を倒そうとする意思よりも、ただこの場に留め置こうとしているように感じる。


「俺をここに縛りつけて、何を企んでいる……?」


俺は剣を握り直しながら、ふと奥に目をやった。

工業地帯の奥深く――その方向から異様な光が見え始めている。

神力が渦を巻くように集まり始め、空気がさらに重く、異様なほどの圧力を感じさせる。


「これは……」


直感が叫んでいる。


神徒・円しんと・えん――奴があの光に中心にいる。


そして、やつのあの光は……!


神逐かんやらい……!」


そうだ。

あの異様な光の正体は間違いない。

神逐――プレイヤーを封じ込め、永久にゲームから追放する禁術。

それが発動する前に、俺をこの場に封じ込め、戦場の支配権を奪おうとしているのだ。


なるほど。

槌や縛の動きは、ただ俺を引き留めるための囮でしかない。

彼らが真に狙っているのは、俺を封じ込めること。

戦いはもう手段でしかない。奴らの真の目的は……。


「……ふっ」


俺は無意識に苦笑した。

俺がそれほど脅威だというのか? 

チーター扱いで排除しようというのか?


「上位存在が聞いてあきれる」


神逐が発動すれば、俺はこの戦場から完全に消える。

それだけではない。こいつらが戦場に放たれ、他のプレイヤーを蹂躙する。


槌が再びその巨大な鉄槌を振り下ろし、地面が激しく揺れる。

縛の無数の腕が俺を捕らえようと迫ってくるが、俺は最小限の動きでそれを回避した。

だが、時間を浪費しているわけにはいかない。

彼らが俺をここに引き留めている間に、神逐の準備が進行している。


「急がせてもらうぞ……!」


俺は再び剣を握りしめた。

身体の負担は無視してでも、短期決戦に持ち込むしかない。


槌が再び巨大な鉄槌を振りかざし、縛の無数の腕が地面を這いながら俺を捕らえようとする。

しかし、その動きにはわずかな隙があった。

奴らは長期戦を見越しているため、動きが精密すぎるのだ。

完璧な連携が、逆に隙を生んでいる。


ついの巨体が轟音とともに鉄槌を振り下ろし、ばくの無数の腕が地面を這いながら俺を狙っている。

だが、その精密さゆえに、わずかな隙を見逃すことはない。

戦いにおいて、完璧すぎる連携は逆にリズムを固定する。

固定されたリズムには、必ずほころびが生まれる。


槌の鉄槌が空を裂き、地面に向かって勢いよく振り下ろされる瞬間、俺はほんの一瞬でその動きを見極め、最小限の動きでそれをかわした。

踏み込む余裕すら与えない。次の瞬間には、槌の背後に移動していた。


「遅い……!」


俺は迷わずナイトホークにエネルギーをチャージする。

剣が微かに振動し、青白い光が刃に宿る。

斬撃を一閃。

剣から放たれたエネルギー波は槌の巨体を切り裂き、その重い装甲が揺れた。

響く音は戦場に鳴り響き、まるで空間そのものが悲鳴を上げたかのようだった。


「……効いたか?」


槌の巨体は一瞬、動きを止めた。

その巨腕がわずかに震え、まるで傷ついた獣が耐えているかのように立ちすくむ。

しかし、その一瞬の静寂は長くは続かない。

槌は再び動き出し、その重厚な鉄槌を振りかざしながら、ゆっくりと俺に向かって歩み寄ってきた。


まだ完全に倒せていない。

しかし、確実に手応えはあった。

何かが崩れ始めているのを感じた。奴らの神力の底が見えてきた。


「たたみかける……ッ」


躊躇はしない。

槌が再び動き出す前に、俺は一気に縛へと突撃する。

無数の腕が再び襲いかかってくるが、その動きは明らかに先ほどとは違っていた。

槌との連携が崩れ、縛の攻撃は単調になっている。

腕の数は多いが、リズムが崩れれば、動きは容易に予測できる。

ナイトホークを全力で振り抜く。

エネルギーが再び刃に集まり、その光が縛の無数の腕を切り裂いた。

次々と落ちていく腕が地面に転がり、その重さで地面が揺れた。

だが、安堵する間もなく、俺の目の前に広がる光景は異様なものだった。


「……!」


工業地帯全体が、まるで薄い霧のような淡い光に包まれていた。

その光は、ただの神力の発動とは異なる。

そこにあるのは神逐かんやらいの兆候だ。

発動が間近に迫っている。

すでにその進行は止められないほど進んでいるのが、はっきりとわかる。


時間がない。

このままでは、俺はこの場から封印され、すべてが終わる。

神逐が発動すれば、俺は永久にこのゲームから追放される。

それだけでなく、戦局が敵の手に落ちる。


「まずい……!」


思考が加速する。

戦況を冷静に見極めなければならない。

槌も縛も動きが鈍くなっている。

連携が崩れたことで、一時的に攻撃が緩んでいる。

しかし、彼らを完全に無力化するにはもう少し時間が必要だ。

そして、その時間は――ない。

神逐の発動が、刻一刻と近づいている。


「ここで終わるわけにはいかない」


俺は自分に言い聞かせるように呟き、次の手を模索する。

これ以上、無駄な攻撃をしている暇はない。

冷静に、効率的に、そして確実に敵を無力化する。

それが、今の俺に課せられた使命だ。


剣を再び握り直し、俺は周囲を見渡す。

工業地帯はまるで死を迎えたかのような静寂に包まれていたが、その光は、まるで命の最後の一瞬を輝かせるかのように広がっていた。


「……やるしかない」


槌が再び動き出す。

鉄槌を握り締め、その巨体を揺らしながら、ゆっくりと近づいてくる。

縛も無数の腕を振り上げながら、再び俺に向かってきた。

だが、その動きには焦りが感じられる。

彼らもまた、時間がないことを理解しているのだろう。


「いくぞ……!」


俺は再びナイトホークを振り抜く。

エネルギーが剣に集中し、槌の胴体に深い傷を刻んだ。

巨体が一瞬、よろめく。


「……まだだ」


俺はさらに踏み込み、今度は縛の腕に向かって一撃を放つ。

無数の腕が地面に落ち、彼の動きが止まった。


だが、その時――。

縛の感情のない瞳が、笑った気がした。


「光が……!」


工業地帯全体がさらに強い光に包まれ、神逐かんやらいの発動が今まさに始まろうとしていた。

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