ナイトホークの斬撃が、槌の背中に深々と食い込み、エネルギー波が奴の内部で炸裂する。
その瞬間、槌の巨体が大きく揺らぎ、ついに崩れ落ちた。
鉄槌が地面に叩きつけられ、巨大な音とともに、奴の体が動かなくなった。
「……ふん」
俺は息を吐き出し、ナイトホークを下ろした。
ようやく、戦いが終わった――そう思った瞬間、工業地帯の静寂が戻ってきた。
あの異様な圧力が消え去り、空間が元の状態に戻っていくのを感じた。
「……片付いたか」
俺は周囲を確認しつつ、瓦礫の中を歩き出した。
だが、油断は禁物だ。
この戦いが終わっても、まだ何かが潜んでいるかもしれない。
この工業地帯には、まだ解き明かされていない謎が残っている。
「この先にも、まだ……」
途端に、空気が急に変わった。
冷たい刺すような風が吹きつけ、肌に違和感が走る。
――ただの風ではない。
新たな敵の出現を知らせる異質な気配だ。
「……新手か」
その言葉は自然に漏れた。
目の前には棘を無数に生やした異形。
そいつらは、自慢の棘を全身に逆立たせ、俺を挟撃しようと同時に飛び掛かってくる。
だが――……
「おまえらではない」
相手にもならない。
いくら特殊固体が2体とはいえ、“下級”の雑魚にやられる俺ではない。
「さて、もういいだろう」
俺は地面に転がる棘の骸を向こうに声を放った。
「出てこい。多腕の封印者」
俺の声に反応し、低いを声を鳴らしながら、そいつは現れた。
無数の腕を持つ異形――
「上級神徒が……同時に3体とはな」
それも円、槌、縛。
過去に起きた“大規模攻略戦”や“連続通過クエスト”でラスボス――ゲートキーパーとして君臨し、各国のピーターパン部隊に大きな損害を与えた、上級神徒の中でも厄介な3体。
「……さて」
俺は息を吐き、冷静に状況を分析する。
この作戦、なにか策が巡らせられているのはたしかだ。
だが、目の前の敵を一体一体葬れば、その策ごと消し飛ばせる。
「いいだろう。
槌とは違い、縛は狡猾だ。
奴は純粋な力任せではなく、計算された動きで相手を拘束する術に長けている。
手数が多く、どの腕にも神力が込められている。
その力を喰らえば、ただでは済まない。
無数の腕が一斉に動き出し、俺に向かって伸びてくる。
触れれば即座に動きを奪われるのは明らかだ。
だが、俺の動きも無駄はない。
軽やかにかわしながら、ナイトホークを振り、斬撃を加える。
次々と腕を斬り落とし、縛の動きを遅らせるが、腕は無限に再生しているかのように湧いてくる。
「これがプレイヤーの動きを奪う、封印の力か」
全身を駆け巡る神力に体力が削られ、動きが鈍る。
だが、ここで焦る必要はない。
俺の攻撃も確実に縛の防御を崩している。
「攻略可能……」
静かに呟き、視線を鋭くさせる。
俺は最小限の動きで縛の腕をかわしつつ、次の一手を打つ準備を進める。
数々の腕がじりじりと俺を包囲し、逃げ場を無くそうとしている。
だが、その意図を見抜いている以上、俺にはまだ勝機がある。
「……見えた」
瞬間、俺は身体を低くし、攻撃の隙を突く。
ナイトホークを構え、最も脆弱な部分に向けて一閃。
剣が再び縛の腕を斬り裂くと同時に、本体にもダメージが加わる。
縛が一瞬よろける。
「これで終わりだ」
さらに斬撃を加えようとしたその瞬間、縛は全ての腕を一斉に収束させ、俺を完全に包囲しようとした。
「……そういう手か」
奴の全ての腕が襲いかかるが、俺はその動きを巧みにかわしつつ、再びナイトホークを振り下ろす。
縛の本体に確実に斬撃が入った。
「捨て身で封印にくるとは、だがその程度では俺は――……」
その時――背後から不吉な気配がした。
「……ォォォォオオオ!」
振り返ると、そこには再び
奴が鉄槌を振りかざし、俺に向かって突進してくる。
縛だけでなく、槌も再び現れたとなれば、戦況は一気に厳しくなる。
「同時に二体か……」
だが、俺は動じない。
槌と縛、この二体が連携していることは予想していた。
二体同時に相手取るのは確かに厄介だが、俺にはまだ冷静さが残っている。
これまでの戦闘で得たデータを基に、次の一手を考える。
「やれなくはないな」
剣を構え直す。
焦りは禁物だ。
冷静さを保ち、敵の動きを完全に読み切ることがこの戦いの鍵だ。
槌の巨大な鉄槌が振り下ろされ、縛の腕が再び動き出す。
だが、その連携には隙がある。
槌の一撃を避け、縛の攻撃を紙一重でかわす。
そして、目の前の縛に向かって間合いを詰め、再びナイトホークを振り下ろした。
再び振り下ろされたナイトホークが縛の本体に食い込み、奴の動きが一瞬止まる。
だが、勝利を確信するにはまだ早い。
背後には再び
「……甘い」
振り返った瞬間、槌の鉄槌がすでに俺の背後に迫っていた。
即座に身を翻し、鉄槌を回避するが、その衝撃で周囲の廃材が宙に舞う。
槌の破壊力はやはり圧倒的だ。
だが、奴の動きには再び隙が生まれていた。
「……お前たちの動きは、すでに見切った」
二体を相手にするのは厄介だが、こいつらを俺が倒せば戦況は大きく変わる。
他のプレイヤーの負担は大きく軽減されるだろう。
「さあ、いくぞ」