――工業地帯・中心部
工業地帯の荒涼とした風景の中、鋼鉄が擦れるかすかな音が耳に届く。
だが、今はそれさえも重苦しい。
この場所に漂う異様な緊張感は、空気自体を圧迫するかのように感じられた。
その巨体に宿る圧倒的な殺気が、周囲の空間を歪めているかのようだ。
「……まだ、
俺は、静かに目を細めながら槌の動きに集中する。
全身の感覚を研ぎ澄まし、彼の次の一手を冷静に見極める。
奴がこれまでの戦いで見せてきたのは、単なる「手慣らし」に過ぎないことがはっきりと伝わってきた。
今や、奴はその巨体と破壊力のすべてを俺に向けている。
奴の持つ巨大な鉄槌が、ゆっくりと上方に持ち上がり――その瞬間、地鳴りのような音が空間に響き渡った。
鉄槌が振り下ろされた瞬間、空気が裂けたように感じた。
地面が粉々に砕け、鉄とコンクリートが一瞬にして粉塵となる。
衝撃波が地を走り、俺の足元に迫ってくる。
「……ふんっ」
俺はその場から冷静に距離を取ったが、内心は驚いていた。
槌の巨体が持つ膨大な破壊力だけでなく、奴の動きには無駄がない。
工業地帯の残骸や鉄骨をも利用し、鉄槌の一撃が確実に俺を追い詰めるよう計算されている。
単純な肉体的力ではない――奴の一撃一撃が、周囲の環境すべてを巻き込み、圧倒的な破壊力を生み出している。
俺は次の一撃をかわしながら、頭の中で次の一手を冷静に考えた。
このままでは奴のペースに飲まれてしまう。
工業地帯そのものが奴の武器となっている。
何かを利用しない限り、俺の勝機は薄い。
奴の攻撃範囲を超えた柔軟な戦術が必要だ。
「……やるな」
再び後方へ跳び、槌の鉄槌が地面を砕くのを確認する。
その瞬間、空気がさらに重く感じられた。
やはり、何かがおかしい。
周囲の風景がわずかに揺らぎ、まるで工業地帯そのものが歪んでいるかのようだ。
空間そのものが圧縮され、俺の動きを鈍らせている。
「これは……」
足元が重く感じる。
槌の力は単なる物理的な攻撃に留まらない。
奴の周囲に広がる異常な力――これは、時間と空間そのものを歪める何かだ。
このままでは、じりじりと奴に圧倒されてしまう。
「仕掛けるしかないか」
冷静に次の動きを考え、一瞬の隙を狙った。
槌の鉄槌が再び振り上げられ、その一撃が迫る。
しかし、その重さゆえに一瞬の隙が生まれる――俺はその瞬間を見逃さず、エネルギー波を纏ったナイトホークを振りかざし、背後に回り込んだ。
鋭い斬撃が槌の脇腹を狙うが――。
「……!」
槌は驚異的な速度で振り返り、鉄槌を引き戻して俺の攻撃を防ぐ。
巨体に似合わない、その圧倒的な反応速度。
だが、それにも関わらず、俺は冷静だった。奴の動きには、必ず計算できる隙がある。
「……ここだ!」
もう一度、ナイトホークを構え直し、冷静に槌の動きを見極める。
鉄槌の破壊力に恐れることなく、その重さを逆手に取ることで、俺は奴の攻撃の隙を突くつもりだった。
槌が再び動きを見せた瞬間、俺はその一瞬を狙い、全力でエネルギー波を放った。
槌の巨体が揺れ、その一撃が確実に奴にダメージを与えたことを確認する。
「これで終わりだ」
俺の斬撃が、槌の防御を崩し、奴の胸部を切り裂いた。だが――。
「……何?」
俺の一撃が確かに槌の胸部を捉えたはずだ。
ナイトホークの刃が深々と肉を裂き、鈍い感触が手に伝わる。
だが――奴は倒れない。
むしろ、槌はその巨体を揺らしながら、平然とした笑みを浮かべていた。
その異様な光景に、俺は思わず動きを止めた。
深く切り裂いたはずの傷から、何かが再生するかのようにじわじわと修復されていく。
まるで時間を巻き戻すかのように、槌の巨体が元通りになっていくのだ。
「なるほど」
俺の一撃が致命傷には至っていない。
いや、むしろ奴の全力はこれからだと言わんばかりに、その鉄槌を再び持ち上げた。
俺は瞬時に構えを整え直し、次の攻撃に備える。
「再生能力か……厄介だな」
だが、どれほど強力な再生能力を持っていようと、奴には隙がある。
その隙を見極め、再生が機能しないほどにすりつぶす。
奴が本気を出すというのなら、こちらもそれに応じるのみだ。
「行くぞ……!」
槌の鉄槌が振り下ろされる瞬間、俺は再び跳躍し、奴の死角に回り込む。
すでに奴の動きは見切った。
巨体を動かすには限界がある。
再生能力があるとはいえ、奴が動かせる速度には制限があり、その一撃一撃には必ず隙が生まれる。
「ふんッ!」
俺はエネルギー波を纏ったナイトホークを振り下ろし、槌の巨体を再び切り裂いた。
奴の再生能力を無力化するためには、短時間での連続攻撃が必要だ。
息を切らさずに、俺は次々と斬撃を加え続ける。
槌の鉄槌が追いかけてくるが、その重さゆえに動きが鈍る。
「ォォォ……ッ!」
槌のうめき声が響く。
攻撃が確実に効いている。
俺は冷静に次の一手を考えながら、ナイトホークを振り続けた。
だが――奴の巨体がさらに揺らぎ、まるで最後の力を振り絞るかのように鉄槌を振り上げた瞬間、異常なエネルギーが集まり始めた。
「何だ……?」
槌の周囲に発生する異様な圧力。
それは、今までとは明らかに異なる力だ。
奴は最後の手段に出ようとしている――そう感じた俺は、即座に距離を取った。
だが、その直後、槌が鉄槌を振り下ろした瞬間、巨大な衝撃波が広がり、地面が大きく揺れ動いた。
「くっ……!」
俺は衝撃に耐えつつも、冷静に状況を見極める。
工業地帯全体が揺れ動き、瓦礫が崩れ落ちる。
だが、奴も限界が近いことは明らかだ。この最後の攻撃を凌ぎきれば、勝機はある。
「
俺はナイトホークを構え直し、エネルギー波を再び纏わせた。
「……ここでおまえを倒し、その先にいる
奴の動きが鈍ったその瞬間を見逃さず、全力で突進する。
「ゲームクリアだ――ッ!」
槌が再び鉄槌を振り上げるが、俺はその直前に背後へ回り込み、渾身の一撃を放った。