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5-2: Hidden Threats (潜む脅威)

――工業地帯・中心部


「こちらSY_08JP、工業地帯の中心部に到着した」


俺は――矢神臣永やがみ しんえいは、部隊長に指示を出しながら、工業地帯の中心部へと足を踏み入れた。


「このまま工業地帯を北進し、都市の中央へ向かう」


だが、その瞬間に胸を締め付ける不穏な感覚が全身を駆け巡った。


静寂。

だが、これはただの静けさではない。

ここに漂うのは、生き物の気配が完全に消え去ったような不気味な虚無だ。

瓦礫が散乱する工場群、錆びた鉄骨、そびえる巨大な煙突――すべてが異様な静けさに飲まれている。

この場所はまるで息を止めて、何か恐ろしいことを待ち構えているかのようだった。


「各員、健闘を祈る」


俺は通信機に短く報告を入れるが、その声さえも、この空気の中ではどこか薄れた感じがする。

まるで、音そのものが吸い込まれていくような感覚だ。

こんなことは普通じゃない。通信の反応もいつもと違う。

微かに遅れて帰ってくるエコーのような感触が、俺の中にさらなる不安を植え付ける。


「……静かすぎる」


まるで、何かがこの場所全体を覆っているかのようだ。

視界が揺らめき、遠くの風景が歪んで見える。

何かが、空間そのものを圧縮している。

なるほど。この感覚――神徒・円しんと・えん、奴の仕業だ。


足元に転がる瓦礫を軽く蹴り飛ばしてみる。

だが、鉄屑が地面を転がる音さえも、異様なまでに大きく反響し、その後すぐにかき消される。

この不穏な静寂は、すべてを飲み込もうとしている。


「……罠、か」


つい、口に出してしまう。

胸の奥で得体の知れない恐怖が広がっていく感覚。

だが、現場指揮官として冷静さを失うわけにはいかない。

俺は瞬時にその感情を押し殺し、周囲を観察する。


「……異様だな」


肌に感じるこの冷たい圧力。

まるでこの空間そのものが俺を押し潰そうとしているような感覚だ。

足元の地面さえ、いつもよりも重く感じる。

歩くたびに感じるこの違和感――奴が何かを仕掛けているのは間違いない。


「作戦に支障が出る前に動かねばならない」


呼吸を整えながら、足を進める。

だが、どこかでずっと監視されている感覚が離れない。

背後に何かがいる――そんな気配が徐々に俺を包み込み、緊張を強める。


空間が歪む。

視界がわずかに揺れ動き、まるで自分が異次元に引きずり込まれているような感覚に襲われる。

ここは、すでに神徒・円の支配下にある。あの強大な力で、空間を封鎖し、外部からの接触を一切断っている。

何を狙っているかはまだ分からないが、すでにかなりの範囲でその力が及んでいることは確実だ。


「めんどうだが……やはり、早急に対処するべきだな」


俺は心の中で自問する。

だが、その答えが見つかる前に、重い圧力が一気に背中にのしかかった。


不意に背後に重い気配を感じた。

背中に冷たい汗が伝うが、振り返る必要はなかった。

感じるだけで十分だった。


本来ならあり得ない――上級神徒の2体目同時出現。


神徒・槌しんと・ついか」


俺は専用武器である大剣――ナイトホークの柄に手をかけ、ゆっくりと振り向いた。


あの巨体が放つ圧力は、まるで空間そのものを歪めるかのように感じられる。

巨大な鉄槌を握り締め、無言でこちらに向かってくる。

地面が震え、足元から鈍い振動が全身に伝わる。

それだけで、あの鉄槌の一撃がどれだけの破壊力を持っているかは明白だった。

まともに受ければ、一瞬で致命傷だろう。


「……来たか」


槌の動きは巨体に似合わぬ速さで、鉄槌を一気に振りかざしてきた。

俺は体を後方に跳ばせた。

瞬時に身を翻し、槌の一撃をかわす。

地面が砕け、衝撃で粉塵が一気に舞い上がる。

視界を覆う土埃の中でも、俺は冷静さを失わない。

槌の鉄槌が無駄に終わったことは、すぐに確認できた。


「無駄だ」


俺は短く言い放ち、即座に反撃に転じた。ナイトホークを抜き、槌の巨体に向かって斬撃を放つ。

だが――驚いたことに、槌はその巨体に似合わぬ敏捷さで跳び、俺の攻撃を避けた。


「……速い」


その瞬間、奴の動きに思わず感嘆してしまった。

巨体でありながら、その反応速度は見事だ。

だが、それは逆に隙を生んでいる。

奴の鉄槌は強力だが、振りかぶる際にわずかなタイムラグがある。

これが、次の一手を決める糸口になる。


「ここだ」


俺はその隙を狙い、槌が再び鉄槌を振り下ろそうとした瞬間、一気に距離を詰めた。

ナイトホークを振りかざし、奴の巨体に向けて全力で一閃を放つ。

だが――その次の瞬間、思わぬ光景が目の前に広がった。


「……なんだと?」


槌は驚異的な反応速度で鉄槌を引き戻し、俺の一撃を防いだ。

あの巨体にして、この敏捷さ。

まるでその鉄槌の重さが虚構のように感じられる動きだ。


「やるな……」


俺は不覚にもその実力に感嘆してしまう。

だが、この戦いはまだ序盤に過ぎない。

今の一撃で得た情報は多い。

奴はまだ全力を出していない――そして俺も、まだ本気を出していない。


「次は、こちらの番だ」


俺はナイトホークを構え直し、再び槌を冷静に見据えた。

奴の動きは見えてきた。

だが、ここから先は、油断一つで命取りになる。

この戦いの主導権を渡すわけにはいかない。

静かに呼吸を整え、目の前の巨体を睨みつける。


槌との戦いは、今まさに本格化しようとしていた――。

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