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5-1: Imminent Chaos (迫り来る混沌)

今回の作戦のフィールドは大きくわけて4つある。


大都市の東にある、市街地エリア――荒廃した駅を中止に街が広がる。

西にある、複合商業施設エリア――ショッピングモールと併設した遊園地がある。

南にある、工業地帯エリア――工場や発電所などがある。

北にある、住宅地エリア――ほぼ廃墟のような家が並んでいる。

中央は、高層ビル群が立ち並ぶ、摩天楼エリアだ。



俺たちは作戦隊長の矢神臣永から指示を受け、工業地帯に向かった。


だが、工業地帯の中心に近づくにつれ、空気がずんと重くなった。

まるで空間そのものが収縮しているかのような圧迫感が増していった。

通信は完全に途絶え、崩落した鉄骨などにより、通路が次々に封鎖されていく。


それだけじゃない。

どうやら見えないドームのようなものが各エリアを分断しているようだ。


「完全に閉じ込められましたね……」


美雪が不安げに呟いた。


「そうだね~。これ、神徒しんとの仕業かも~」


翠が静かに言葉を継ぐ。


「神徒がこんなことを……?」


翔が驚いた表情を浮かべる。


「たぶん神徒・円しんと・えんだよ~。空間操作をしてるっぽいし~、この圧迫感、間違いないね~」


翠が確信を込めて言う。「でも、本体はかなりは遠くのはずだよ~」


その言葉に、俺たちは再び周囲を見渡す。


まるで、罠にかけられたような感覚が拭えない。


全ての出口が封鎖され、俺たちはこの工業地帯に閉じ込められていた。


「賢先輩、このままでは動けません。どうしますか?」


翔が少し焦りを見せながら尋ねてくる。


「突破口を見つけるしかない。状況を確認しよう」


俺は鋭い視線を周囲に走らせ、動き出そうとした。


その時、全身が棘で覆われた巨大な神徒の姿が見えた。


「あー、あれ、報告書で見た特殊固体かも~。たしか、神徒・棘しんと・いばらだったかな~」


神徒・棘しんと・いばら


奴は無造作に棘を振り回し、周囲の建物を破壊している。


「特殊固体って、一般プレイヤーが相手しちゃいけないやつじゃないですか!」


と翔が目を見開く。


「だね~。でも、私の経験上、簡単に逃げられるものでもないよ~」


翠があっけらかんと言った。

さすがはピーターパン部隊内定者。

特殊固体との戦闘経験もあるのか。


「じゃあどうするんですか……! 特殊固体が2体もここにいるって、かなりやばいんじゃ……」


「でも~、強い敵をここに配置しているとしたら~、ゲートもここにあるんじゃないかな~」


「門番みたいな感じですね……」


美雪が震えを押し殺したような声でつぶやく。


「だよな。なら、行くしかねえか」


俺たちは物陰に隠れながら、神徒・棘の隙をうかがった。


やつは周囲に棘を次々と放つ。


そのたび、目の前の物体が音を立てて崩れ落ちていく。


「賢くん、どうする~?」


翠が少し不安げに尋ねる。


「あの棘が厄介だ。まずは奴の動きを封じるしかない」


俺は決断を下し、仲間たちに目配せする。

美雪が頷き、すでに戦闘態勢を整えていた。

翔も緊張感を漂わせながら、俺に声をかけてくる。


「賢先輩、指示をお願いします!」


「翔、お前はバックアップに回れ。遠距離からのサポートが必要だ。翠、美雪、正面から棘を狙って攻撃するんだ」


「了解~! 頑張るね~!」


翠が手を軽く上げ、笑顔を浮かべるが、その目はすでに鋭く戦闘に集中していることが伝わる。


俺たちは一斉に動き出した。

最初に棘に向かって突撃し、その巨体の注意を引く。

棘が反応し、鋭い棘を次々と放ち始めたが、俺たちはそれをかわしながら攻撃のタイミングを狙っていた。


「やっぱり速い……!」


棘の動きはその巨体に似合わず、驚くほど鋭い。


だが、俺たちも負けてはいない。


美雪が先陣を切る。

彼女のレイピアは、一度突きの構えに入ると、次の瞬間には棘の隙を見事に突き破っていた。

まるで舞う蝶のように軽やかな足取りで距離を詰め、精密にその一点を貫いた。

棘の硬い外殻も、美雪の突きの鋭さには抗えない。


「やった……!」


美雪が一瞬の成功に安堵する。


しかし、棘はすぐに反撃に転じ、無数の鋭い棘を振り回しながら俺たちを追い詰めようとしてきた。


「まだまだだ、油断するな!」


俺は声を上げ、仲間たちに指示を飛ばした。


翠が棘の攻撃を軽やかに避けながら、回り込んで攻撃の準備をする。


「これでどうかな~?」


翠が、手にしたガトリング砲から泡を放射する。

泡は巨大な渦となって棘の巨体に当たり、その部分を一時的に動きを鈍らせた。


「さすがだ!」


俺はガン・ダガーを両手に構え、一気に距離を詰めた。

左手の拳銃部分で棘に一発を撃ち込むと、右手の剣で追撃を仕掛ける。

棘の防御は固く、俺の剣の一撃では表面をかすめるだけだが、これで十分だ。

次の一手を打つ準備ができる。


「しかし、厄介だな……!」


棘の強靭さに驚きを隠せない。

奴の防御があまりに強固で、簡単には崩せない。

俺たちがこうしている間にも、棘の触手のような鋭い棘が次々と成長し、周囲を埋め尽くそうとしていた。


「賢先輩、棘の動きが……!」


翔が鋭く報告してくる。

彼は少し離れた場所で、狙撃のポジションを取り直していた。

逃げながらも、次々と狙撃地点を変えては、遠距離から的確にサポートしている。


「……わかっている。何かがおかしい」


俺は頷きながらも、警戒を怠らずに答えた。


棘は攻撃の手を緩めているわけではない。

それどころか、工業地帯全体が彼の動きに合わせて反応しているかのようだ。

棘はその身体だけではなく、このエリア全体を武器にしている――まるで、この場所自体が奴の領域となっているようだった。


「賢くん、これ……マズいかも~」


翠が冷静を装いつつも、焦りの色が声に滲んでいた。

彼女のガトリング砲が再び泡を放つが、棘の増殖スピードがそれを上回っていた。


「全員、後退だ!」


俺はすぐに指示を飛ばし、仲間たちに退避を命じた。


「了解!」


翔は即座に応じ、後方に飛び退った。

スナイパーの彼は、一瞬の遅れもなく狙撃地点を移し、次の射撃体勢に入る

。棘の攻撃範囲が広がっていく中、絶妙なタイミングで安全地帯を確保しながら俺たちをサポートしていた。


「ちょっとぉ~!これ、どんどん増えてるじゃん~!?」

翠が焦り気味に声を上げるが、彼女も素早くポジションを変え、泡の砲撃を続けていた。


「なんとか持ちこたえてくれ!」


俺も棘の攻撃をかわしながら次の策を練る。

敵の動きに変化が見えたということは、隙が生まれる可能性も高い。


「賢先輩! あの棘の中心部分が弱点かもしれません!」


翔が狙撃しながら、遠距離からの観察で得た情報を報告する。

彼の洞察力は信頼に値する。

棘の攻撃が拡大する一方、その中心部にわずかな揺らぎが見えた。


「よし、そこを狙う!」


俺はすぐに指示を出し、全員で一斉に弱点に集中攻撃をかける準備を整えた。


「了解です、賢先輩!」


翔はすぐに長距離射撃の準備を進め、翠と美雪もそれぞれ攻撃態勢に入った。


「よし、いくぞ!」


俺はガン・ダガーを構え、棘の中心部に向かって突撃した。

棘の触手が四方八方から襲いかかってくるが、それを紙一重でかわしながら前進する。

俺の剣が棘の中心に届く瞬間、激しい衝撃が体を走った。


「くっ……!」


棘の中心部分はまるで生き物のようにうごめき、俺の攻撃を受け止めた。

しかし、すぐに冷静さを取り戻し、剣と銃で立て続けに攻撃を繰り出す。

次々と放たれる棘を避けつつ、俺たちは再び一斉攻撃を仕掛けた。


「翔、今だ!」


俺は翔に声をかけ、正確なタイミングでの一撃を促した。


「はいっ!」


翔が放った狙撃弾が、棘の中心に命中した。

その瞬間、棘が大きく揺らぎ、動きが鈍った。


「いけるね~!」


翠が声を上げ、ガトリング砲から再び泡を放出。

美雪もその機会を逃さず、鋭い一撃を棘に加える。

彼女のレイピアが再び棘の核心を貫いた。


「ここで終わらせる!」


俺はガン・ダガーを振り上げ、最後の一撃を棘に加えた。


巨大な音とともに、神徒・棘の身体が地面に崩れ落ちた。


「はあ……はあ……さすがに……手ごわかったな……」


俺は息を整え、その場に膝をついた。


「死ぬかと思いました……」

と、高台から降りてきた翔がその場に腰を下ろし、

「私もです……」

と、美雪もへなへなと崩れ落ちた。


「うん~♪上出来上出来~! さすがに“下級”の特殊固体相手に負けるようじゃ、期待外れだしね~♪」


翠が俺の方を見て、ぱちりとウインクをした。


「あれが下級なんすか!?」

「翠ちゃん……嘘はやめてくださいよ!」


「嘘じゃないよ~」


翠は怒ったように、ぷくりと頬を膨らませてから、

「でも大丈夫! 下級なら連携で倒せることがわかったし、中級相手には私も本気出すから~♪」

と、胸をぽんと叩いた。


「あれ、本気じゃなかったんすか……」

と、翔がうなだれる。


「なあ、翠」


「なぁに~? 賢くん?」


「上級がきたらどうするんだ?」


「それは死ぬ気で逃げるしかないね~♪」


あははっと翠が笑った。


「でも大丈夫。そもそも“上級”の神徒って、特殊クエストでも、1体しか出てこないボスキャラみたいなもので、神徒・円しんと・えんがそれだからね~」


「なるほど。じゃあ、そいつ意外に上級はでてこないと」


「うん!それに今ごろ矢神さんとか、他のピーターパン部隊が探して、私たちと出くわさないようにしてくれてるはずだよ~♪」


「そっか……なら、平気か」


そう言ってから、ちくりと胸が痛んだ。

俺は何で、他人任せにしようとしているんだ。

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