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4-8: A New Mission (新たな任務)

ログインすると、目の前に広がるのは荒廃した大都市のフィールドだった。


ひび割れたビルや崩れ落ちた橋が、かつてここが繁栄していたことをかすかに物語っている。


しかし今、そのすべては廃墟と化していた。


「すごーい、こんな場所もあるんだね~」


緋野翠あけの すいが、のんびりとした口調で俺の隣から声をかけてくる。


「本当に余裕そうだな……」


俺は苦笑いしながらも、その無邪気さに少しだけ緊張がほぐれた。


「余裕ではないけど~、楽しまないとじゃない~?」


「楽しむ……?」


「だって、大規模攻略戦ってめったにないしね~?」


翠はにこにこしながら俺を見上げてくる。やれやれ、彼女のその気楽さはどこから来るのか。


「ま、とにかくやるしかねえか」


大規模攻略戦は、この広大な都市の中からゲートを見つけることが第一目標だ。

今までの戦いとは違い、ゲートの場所は手探りで、敵の質も量も格段に上がるだろう。


俺は深呼吸し、前を見据えた。


他のチームがずらりと並び、開始を待っている。


一か所、紅に染まっているのは、中国支部の面々だろう。

先頭に立っているのが、エースの雷燦華レイ カンファンだ。


そして、日本支部の方を見渡してみれば、


いた。


白波梓しらなみ あずさの姿があった。


遠くからでも彼女の真剣な表情がはっきりと見える。

普段の柔らかい雰囲気とは違い、すでに戦闘モードに入っている。


彼女の存在が俺に妙な安心感を与えていた。


「あ、いたいた!」


元気いっぱいの声が後ろから聞こえた。

結城翔ゆうき しょうが無邪気に手を振りながらこちらに駆け寄ってくる。


「すみません、賢先輩! 変な場所に転送されちゃって、遅れてしまいました!」


翔は恐縮しながらも、屈託のない笑顔を浮かべている。


「大丈夫だよ、結城くん。まだ始まってないしな。それに、最初から緊張してたら持たないぞ」


俺が軽く言うと、彼は元気よくうなずいた。


「ですよね!緊張はあとでします!」


その明るさに、俺はつい笑ってしまった。

翔の天真爛漫な性格が、俺の肩の力を抜いてくれる。


「あ~、結城くんきた~」


翠が翔に声をかけると、翔は緊張した顔で返事をした。


「緋野先輩っ!」


「このまえはおまけみたいに言っちゃったけどー、結構期待してるから、いいところ見せてね~?」


翠は微笑みながら、翔の肩を叩いた。


「は、はいッ!」


翔は鼻息を荒くして敬礼する。

これじゃ最後まで持たないな、と俺は内心で苦笑いした。


「遅れてすみません!」


そこに、息を切らしながら遠野美雪とおの みゆきが駆け寄ってきた。

彼女は落ち着いた雰囲気を漂わせつつも、息を整えながら礼儀正しく頭を下げた。


「あ~、美雪ちゃんだ~。今日もかわいいね~!」


翠がにこにこしながら美雪に声をかける。


「はい! 緋野さんには絶対に負けませんから!」


美雪は胸を張って翠を見つめる。

彼女の真剣な表情に、俺も少し気圧された。


「んー? まあ、負けないって言われちゃったら、私も頑張らないとだね~」


翠はのんびりした声で返すが、その裏には確かな競争心が見え隠れしていた。


たぶん、ふたりの勝負はどこか噛み合っていないが、どちらも全力だ。


そのとき、上空を飛ぶスピーカードローンから声が響き渡った。


『全隊、聞け』


その一言で場が一気にざわついた。

現場の作戦総指揮を任されている矢神臣永やがみ しんえいの声だ。


周囲が緊張感に包まれ、あちこちからささやき声が聞こえてくる。


「あれが…伝説の……」

「はじめてみた……」

「実在したんだ……」


俺の隣に立つ翔も、目を輝かせながらつぶやいた。

「矢神さんだ……! すげえ……本物だ!」


そんな現場の羨望の眼差しなど意にも介さず、矢神臣永は淡々と続けた。


『この街のどこかにゲートが存在する。それを見つけ、くぐれば勝利だ。いつもの任務と変わらない。しかし、敵は今回、あらゆる手段と圧倒的な物量でお前たちを止めにくるだろう』


その冷静で抑揚のない声に、各部隊が一斉に耳を傾ける。


矢神の言葉がまるで戦場そのものの重圧を体現しているかのようだった。


『困難な任務になる。そして、ここには守ってくれる大人はいない』


『そして、そんなものは俺たちには必要ない』


『俺たちは、戦士だ』


『大人のなかには、俺たちの戦いを“ウォー・ゲーム”――戦争の真似事だと揶揄するやつもいる』


『結果で黙らせろ。全員、死力を尽くせ』


その一言で、ざわめきが収まり、場が静寂に包まれる。


『だが、死ぬことはない。おまえたちの背中には俺がついている……以上だ』


言葉数は少ないが、その一つ一つが場の空気を変えた。

ざわついていた空気が一瞬にして引き締まり、隊員たちの目に闘志が宿る。

雄たけびやガッツポーズがそこかしこで上がり、場の熱気は最高潮に達していた。


「さすが矢神さんですね……!」と美雪が感嘆の声を漏らす。


「さすがに、やる気出ますね」と翔も拳を握りしめた。


「だな」と俺も短く返すが、心の中で同じ感動を共有していた。


「やっと始まったね~。みんな、楽しくやろ~ね♪」


翠はいつもの調子でのんびりとした言葉を口にしたが、その目には確かな覚悟が宿っていた。

俺たちは、荒廃した都市へと一歩を踏み出した。


俺は自分に言い聞かせるように大きく息を吸い込み、チームメンバーたちを見回した。


翠、翔、そして美雪――このチームで、俺は必ず勝ち抜いてみせる。


「じゃ、いこーか!」


翠の掛け声とともに、大規模攻略戦が、いよいよ始まる。

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