ランカー時代の俺のアカウント名――
どうして
「……え?」
俺は動揺を隠せず、思わず問い返した。
翠は楽しそうにニヤニヤしながら続ける。
「やっぱり! あの動き、絶対見たことあると思ったんだよー! ねえ、どうして隠してたの?」
「隠してたわけじゃ……」
言い訳を口にしようとしたが、翠は軽く手で制した。
「まあまあ、秘密にしておきたいこともあるよねー。でも、私にはもうバレちゃったから、しかたないよね?」
彼女はおどけたように笑い、俺の背中をポンと叩いた。
「ね、本当の名前、なんだっけ?」
「名前? 灰島。灰島賢だ」
「なら、賢くんだね。安心して、賢くんの秘密は私がちゃんと守るから!」
翠はニコニコしながら言った。
「そうだ! 私、いーこと考えた!」
翠の期待に満ちた笑顔を見て、なぜだか不安な気持ちが胸をよぎった。
――翌日。
大規模攻略戦のチーム編成が発表され、俺はさらに驚くことになった。
俺が配属されたのは、なんと翠がリーダーのチームだった。
「えー! 偶然~! よろしくね、賢くん♪」
翠は全く動じることなく、いつもの明るい笑顔を見せてくる。
「……お、おう」
俺は軽く答えつつも、内心では不安と期待が入り混じった気持ちを抑え込む。
その時、後ろから元気な声が聞こえてきた。
「はじめまして!」
振り返ると、そこには小柄少年――
彼は無邪気な笑顔を浮かべていて、その明るさが戦場に似つかわしくないほどだった。
「俺、
結城は初対面にも関わらず、すぐに俺に話しかけてきた。
その様子に俺は思わず笑ってしまう。
「なんか、結城くん、緊張してる?」
俺が軽く問いかけると、結城は顔を赤くし、少し戸惑いながら答えた。
「い、いえ。緋野先輩と同じチームだと思うと、緊張して……」
「へ~? なんかごめんね~?」
翠が笑いながら言うと、結城は慌てて手を振った。
「い、いえ! 全然大丈夫です!」
「賢くんを私のチームに入れるように指令にお願いしたら、じゃあ翔も連れていけって言われちゃったの。だから仲良くしてね~?」
翠は軽く肩をすくめながら言ったが、結城はその言葉に大きくうなずいた。
「……あ、はい! ジブン、ゼンゼン大丈夫です!」
なんか不憫だな、結城くん。
と思いながら、俺は苦笑いを浮かべる。
そして、大規模攻略戦は四人一組で行われることになっていた。
残る一人は――
「遅れてすみません!」
元気な声が響き、そこに現れたのは
彼女は息を切らして、まるで全力で走ってきたかのように見えた。
「あの、緋野さん、さっきの話、本当ですか……?」
美雪は合流するなり、翠に尋ねた。
「さっきの話って~?」
「その……賢くんを私のチームに入れるように指令にお願いした……とか」
「うん!ほんとだよ~!」
翠が無邪気に頷くと、その場に、しん……と一瞬の沈黙が訪れた。
そして美雪は鋭く息を吸うと、翠を真剣な目で見据え、宣言した。
「緋野さん、負けませんからね!」
「へ~? 仲間なのに~?」
翠は美雪の気合いに全く動じることなく、にこやかに笑っている。
美雪の「負けません」という言葉は、何か別の意味が含まれているようだったが、翠は気にしていない様子だ。
「あ、そうだ。賢君、昨日の夜のことは秘密にしてあるからね♪」
翠が俺に軽く言うと、美雪は顔を強張らせた。
「賢くん? 昨日の夜のことって、一体なんですか!?」
その問いに、俺は咄嗟に顔をそらした。
これから始まる大規模攻略戦――俺たちのチームは、どうやら賑やかになりそうだ。