俺たちは、まるで戦争の最中ではないかのように穏やかに話していた。
それだけ今の彼女は自然体で、リラックスしていた。
「なあ、梓……」
俺は、ずっと心の奥にあった疑問を口にした。
「最初に会ったとき、どうしてあんな場所にいたんだ?」
あのとき、梓が突然現れたのは、俺がSENETにログインしたからだと思っていた。
しかし、思い返してみると、彼女はすでに傷だらけで、激戦を終えたような状態だった。
あれは単なる偶然ではなく、何か別の理由があるのではないか――そんな気がしていた。
「んー、まあ……それは、極秘の任務だったんだよ」
梓は軽く笑いながら、肩をすくめてさらっと流す。
その返答はいつも通りの軽さだったが、どこか歯切れが悪い。
「本当か?」
俺はつい、問い詰めるような口調になってしまった。
「だーかーらー、極秘だって言ってるでしょ?」
梓は笑顔を見せたが、その裏に緊張感が見え隠れしていた。
俺はそれ以上追及することをやめた。
きっと彼女には話せないことがあるのだろう。
「さてと……」
梓は急に立ち上がり、体を軽く伸ばした。
「そろそろ行かなくちゃ」
「もう行くのか?」
「なに? 寂しいの?」
「いや、別にそんなわけじゃな」
「ふふっ。うそ。でも今度はすぐに会えるよ」
「それ、ほんとか?」
「うん。大規模攻略戦、私も参加するから。賢も選ばれたんでしょ?」
その言葉を聞いて、俺は一瞬、息を呑んだ。
大規模攻略戦――俺たちがこれから挑む、大きな戦い。
それに梓も参加するという事実が、俺の胸に重くのしかかった。
「大規模攻略戦、梓も……」
俺は拳を握りしめた。
これまで以上に手強い相手が待っている。
それに、梓も戦うのだ。
でも、それは当然なのだ。
梓は、エリート――ピーターパンなのだから。
「ねえ、賢」
梓は俺の表情に気づき、少し優しい声で言った。
「妹さんのこと、聞いたよ。……必ず助けようね」
その一言で、心の中の緊張が少しだけほぐれた。
妹の
梓が力を貸してくれるなら、きっと道が開けるはずだ。
「ありがとう、梓」
自然と感謝の言葉が口をついた。
梓は小さくうなずき、少し遠くを見つめながら言葉を続けた。
「全部が終わったらさ、もっと広い場所で話そうよ。こんなところじゃなくて、草原とか、風が気持ちいい場所がいいな」
彼女の提案に、俺はすぐにうなずいた。
「ああ、次はもっとゆっくり話そう」
梓は俺に軽く手を振り、背を向けて歩き出した。
その背中を見送りながら、俺は改めて自分に言い聞かせた。
大規模攻略戦――絶対に負けられない。
俺は、もっと強くならなければいけない。
妹を、そして仲間を守るために。
梓の姿が完全に見えなくなるまで、俺はその背中をじっと見つめていた。