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4-4: Resting Perch (戦士の止まり木)

模擬戦の激しさを目の当たりにし、俺は焦燥感に駆られながら訓練用のSENETルームへ向かっていた。


雷燦華レイ カンファン緋野翠あけの すいの戦いは、俺の想像を遥かに超えていた。

彼女たちの動き、圧倒的な力――自分との実力差を痛感させられる。


「俺も……もっと強くならないと……」


他のプレイヤーたちが食堂や談話室に向かう中、焦りを抱えたまま俺は訓練用クレイドルに横たわり、アクセスメニューを見上げた。


そこには「射撃訓練」や「回避訓練」など、通常のメニューが並んでいたが、その中に一つ、異質な名前が目に留まった。


「止まり木……?」


その名前に引かれるようにして、俺はアクセスした。


アクセスした先に広がっていたのは、まるで森の中にいるかのような静かで穏やかな空間だった。


木々がそよぎ、柔らかな風が肌を撫でる。

鳥のさえずりが心地よく、ここが仮想空間だということを忘れさせるほどだ。


「なんだ、ここ……?」


ふと遠くに人影が見えた。その背中に見覚えがあった。


「梓……?」


名前を呼んだ瞬間、その人物がゆっくりと振り返った。


そこにいたのは間違いなく、白波梓しらなみ あずさだった。


「え? 賢……?」


梓の驚いた声が響く。

戦場で見せる鋭い表情とは異なり、柔らかな雰囲気をまとっている。


「どうしてここに……?」


俺が問うと、梓は肩をすくめて笑った。


「ここは私の秘密基地……みたいなものかな。まぁ、誰でも入れるんだけどね」


軽く言う彼女の声には、少しだけ寂しさが混じっていた。


「わざわざ仮想空間で休む人なんていないから、穴場なんだよ」


その言葉に、俺は思わず目を俯けた。

彼女は普段、凍結処置を受けているため、他のプレイヤーみたいに談話室でくつろぐことができない。



ふと彼女の腕に傷跡があるのに気づき、思わず口を開いた。


「梓、その怪我……大丈夫なのか?」


「ああ、これ?」


梓は軽く笑い、包帯を見下ろした。


「もう平気だよ。ほら、動かすのに全然問題ないし」


そう言いながら、彼女はわざとらしく腕をぐるぐると回して見せる。


「でも、無理するなよ」


俺は思わず少し強めの口調で言った。

彼女は一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐに困ったように笑った。


「はいはい、賢ってほんとお節介だよね。前もめっちゃ背負おうとしてくるし。私これでも、エリートプレイヤーなんだけどな」


「いや……すまん」


「ふふっ」


照れたようにからかうその声には、微かな優しさが滲んでいた。


「うそ。ありがとね。気にしてくれて」


梓は少し視線を外しながら言った。


その普段とは違う仕草に、俺は思わず息を飲んだ。


「ま、こんな話は置いといてさ。もっと楽しいこと話そうよ。せっかく再会できたんだし、ね?」


梓はクールに言いつつも、その声にはどこか優しさがあった。

俺たちはそのまま、ゆっくりとした会話を続けた。

彼女がこんなふうにリラックスしている姿を見るのは、初めてだった。


「……黒磯が結衣ちゃんにそんな態度取ったって、マジ?」


俺の話に、梓は驚いた表情を見せ、興味深そうに聞き返してきた。


「うそでしょ? 全然そんな感じじゃないのに……」


彼女の驚きの表情が新鮮で、普段の冷静さとは違う柔らかさが見えた。


「ほんと、あの狂犬がね……ふーん、意外」


梓は少し笑いながら話す。

その笑顔に、俺は彼女の別の一面を垣間見た気がした。


俺たちの間には、静かに風が流れていた。

彼女の言葉に自然と気を緩め、この場所での短い安らぎを感じる。


「そっかぁ……みんな前進してんだね」


梓はふっと笑みを浮かべた。その笑顔には、ほんの少しだけ寂しさが混じっていた。

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