「マジで……すげぇな」
俺の隣で、
腕を組んでいるが、その目は二人の動きを追って離さない。
彼もまた、目の前の模擬戦に集中している。
「二人ともまさに怪物級だ。雷の槍、あれはただの炎じゃねぇ。エネルギーの密度が桁違いだよ」
雷の槍から放たれる紅炎が、まるで生き物のように翠を追い詰めている。
その炎はただの火ではなく、強力なエネルギーが凝縮された攻撃だ。
一方、翠も負けてはいない。
彼女は無数の泡を生成し、雷の攻撃をかわしつつ、笑顔を絶やさない。
「それに、翠もやべぇ……あの泡、防御だけじゃねぇ。雷の攻撃を吸収して、その力を利用して自分の動きを加速させてるんだ。だから雷のスピードについていける」
黒磯の言葉に俺は驚きを隠せなかった。
翠の動きは、雷の攻撃をかわすたびにますます速くなっているように見える。
まるで、雷の攻撃自体を力に変えているかのようだ。
「でもよ、これがどこまで通用するか……」
黒磯がそう呟いた時、雷が槍を高く掲げ、周囲の空気が一気に熱を帯びた。
彼女の全身から放たれるエネルギーが、会場全体を圧倒し、まるでその空気さえ燃やし尽くすかのようだ。
「さすがに……頭にきたわ……ッ!」
雷の叫びと共に、彼女の槍が紅く輝き、一瞬で巨大な炎の柱が翠に向かって放たれた。
それはまるで世界を焼き尽くすかのような力だ。
しかし、翠も負けていない。
彼女は楽しそうに笑みを浮かべながら、両手を広げ、大量の泡を生み出した。
「雷ちゃん、いつも熱いね~。でも、私もまだまだ負けないよ~!」
翠の無邪気な声が響くが、その背後には確かな自信が感じられる。
泡が雷の炎を吸収し、一瞬でそれを打ち消していく。
俺はその光景に釘付けになり、どちらが勝つのか全く予想がつかなくなっていた。
「どっちが勝つんだ……?」
俺は息を呑んで戦いの行方を見守っていた。
次の瞬間、勝敗が決まる――そう感じた時、
「そこまでだ」
突然場内に冷静な声が響き渡った。
その声は、場の緊張感を一瞬にして解いた。
俺たちは一斉にその声の主に目を向ける。
そこには
彼の冷静で鋭い眼差しが、戦場の熱気を鎮めている。
「ふたりとも。もう十分だ」
その言葉に、雷は槍を下ろし、悔しそうな表情を浮かべる。
翠も泡を消し、同じく不満げな顔をしていた。
二人とも、まだ戦い足りないという思いが見え隠れしているが、龍崎指令の命令には逆らえない。
「なんで止めるのよ! あと少しでこいつを倒せたのに!」
雷が不満げに声を荒げる。その顔には明らかに悔しさが滲んでいる。
「そうだよ~、もっと遊びたかったのに~」
翠も頬を膨らませ、軽く文句を言う。
さっきまでの緊張感が嘘のように、子供じみた態度だ。
「指令ぇ~、もうちょっとだけ延長しよ~?」
翠が無邪気にお願いするが、龍崎指令は首を横に振る。
「ダメだ。これ以上は意味がない」
「あるもん! 雷ちゃん、まだ本気出してないでしょ?」
翠が不満そうに腕を組みながら言う。
それに対し、雷もすぐに声を上げた。
「そうよ! あと一撃で勝負がつくはずだったのに!」
雷は大きく溜息をつき、槍を肩に担ぎ直す。
そして、ふと郭
「亮、あんたもそう思うでしょ?」
郭は困惑した表情を浮かべながらも、龍崎指令に視線を送り、静かに言った。
「いや、ここで終わりだ。次の任務が控えている」
「えぇぇぇ~!?」
翠と雷は同時に声を上げ、まるで子供が駄々をこねるように抗議する。
「任務なんて後でいいじゃん! ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ延長してよ~!」
翠は龍崎指令に詰め寄る。
「私もよ! 勝負がつかないままじゃ納得できない!」
雷も同じく声を荒げた。
「二人とも黙れ。任務優先だ」
龍崎指令の冷静な声が場を一瞬で静めた。
雷と翠は、一瞬だけ黙り込む。
だが、その後すぐにお互い顔を見合わせ、不満げな表情を浮かべる。
「はーい。じゃあこれでやめまーす。でも、次も絶対に勝ちまーす」
翠がわざとらしく手を上げ、雷に挑発的に言った。
「ふん、言ってなさい。てか、勝ってないでしょ。次はその減らず口、徹底的に黙らせてやるわ」
雷は冷静な表情を保ちながらも、瞳には鋭い闘志が宿っている。
結局、二人はぶつぶつと文句を言いながらも、任務のために去っていった。
その背中を見送りながら、俺と黒磯は同時に同じ言葉を言った。
「もっと……強くならなねえとな……」