模擬戦の開始を告げる声が場内に響いた。
それは
まるで空気を切り裂くかのような鋭さがあり、俺は思わず背筋を伸ばした。
「さぁ、準備はできたかしら?」雷の声は冷静だが、その奥には鋭い意志が隠されている。
一方で、
「いつでもいいよー! 先行あげるねー!」
その軽い口調に、俺は驚いたが、彼女の背後にある確かな自信も感じ取れた。しかし、雷がそんな挑発に惑わされるわけがない。彼女の目は鋭く光り、準備万端といった様子だ。
「……生意気ッ!」
雷の言葉と同時に戦闘が始まった。
彼女が地を蹴ると、稲妻のような動きで翠に迫る。
紅の槍が一瞬で翠に突き進む。
驚異的なスピードと正確さに俺思わず
「……速いッ!」
と、声を漏らした。
だが、翠は後ろに跳んでその一撃を難なくかわした。
笑顔は消えなかったが、彼女の目には一瞬の緊張が走ったのを見逃さなかった。
雷の本気が伝わっているのだ。
「さすが雷ちゃん、速いね! でもまだまだ!」
翠は軽口を叩きながらも、すぐに構えを整えた。
俺はその様子を見ながら、隣に座る
「あのふたり、どれだけ強いんだ?」
黒磯は真剣な表情で頷く。
「さあな。だが、あいつらは入隊してすぐにピーターパン部隊に内定してるからな。侮れねえよ」
ピーターパン部隊――俺たちが目指すエリート集団。
その実力を目の当たりにして、俺は息を呑んだ。
雷が再び槍を構え、紅の炎が噴き出した。
まるで火炎放射のように、猛然と翠に向かっていく。
「おー、やる気満々だね、雷ちゃん!」
翠は笑顔を浮かべながら、右手を突き出し、武器を召喚した。
ピンクのステッカーでデコレーションされたそれは、ガトリング砲のような重火器だった。
「じゃ、いっくよー!」
翠が武器を構えた瞬間、俺は驚きの声を上げた。
「あれは……泡?」
翠のガトリング砲から放たれた無数の泡が、雷の炎を包み込むように消し去った。
「泡……? 防御なのか……?」
俺は信じられない光景を見つめた。
「あの泡は特殊でな。エネルギーを吸収して無効化するんだよ」
黒磯が冷静に解説する。
翠はその泡に乗りながら滑るように動き、
「ふふっ、どう? 雷ちゃん、これで勝てるわけないよねー?」
と無邪気に笑った。
だが、雷の表情は崩れない。
むしろ笑みさえ浮かべていた。
「相性がいいだけで、調子に乗るんじゃないわよ!」
雷は槍を再び振ると、今度は金色の光が放たれた。
瞬時に翠の泡を蒸発させ、その猛威をまざまざと見せつけた。
「わわっ!?」
翠は慌てて後退するも、雷の攻撃は止まらない。
次々に放たれる槍の一撃が、翠を追い詰めていく。
「もらったァァァアアア!」
雷が鋭い眼差しで翠を見据えた瞬間、再び槍が閃光のように突き進んだ。
今度こそ、完全に決まる――そう思った瞬間だった。
「なーんてね♪」
翠は泡に乗りながら後退し、泡を壁にして雷の攻撃をかわす。
彼女の動きは軽やかで、雷の猛攻をすり抜けるように回避していた。
「見たか、あれが翠の戦術だ」
黒磯が低い声で言った。
「あの泡は防御だけじゃねぇ。移動手段にもなる。常に自分を守る壁に守られながら、ああやって高速で移動することができるんだ」
「すごい……」
俺はその光景に目を見張る。
だが、雷の勢いも全く衰えていない。まるで嵐のように襲いかかり続ける。
「これで終わりよ!」
雷の槍が再び輝きを増し、今度こそ翠の泡を完全に突き破り、彼女に迫った。
しかし、翠は笑みを浮かべたままだ。
「ふふん♪ 甘いよ、雷ちゃん!」
翠は素早く回転し、泡を使って雷の槍を流しながら避けた。
そして、ガトリング砲から放たれた泡が雷を包み込み、動きを封じにかかる。
「くっ……!」
雷が苦しそうな声を上げたが、すぐに槍を振り回し、泡を弾き飛ばした。
「舐めんじゃないっての……ッ!」
雷の目が鋭さを増し、全身が燃えるようなオーラをまとった。
「さすが……本気の雷ちゃん、カッコいい~♪」
翠は一瞬だけ驚いたが、すぐに笑顔を取り戻し、次の攻撃に備える。
戦いは激しさを増していく。
雷の猛攻に対して、翠の防御が続く。
俺たちはただその戦いに目を奪われるばかりだった。