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3-8: 新たな力 (Newfound Strength)

「灰島先輩、すごいですよ! 3位なんて!」


天草あまくさ結衣ゆいの声が弾ける。


小柄な彼女が、子犬のような勢いで俺に向かって駆け寄ってくる。

大きな瞳が、星を映すかのように輝いているのが目に入った。


模擬戦の結果が発表されたばかりで、俺たちのチームは全体で3位。

悪くない成績だ。

正直、最初はみんなバラバラで、どうなるかと思ったが、最終的には全員が一つにまとまり、勝利を掴むことができた。


「いや、みんなが頑張った結果だよ。特に天草、最後の追い込みは見事だった」


俺が軽く微笑みながらそう褒めると、天草は一瞬驚いた顔をした。

それから、恥ずかしそうに頬を赤らめ、うつむいて視線を逸らした。

その仕草がまるで風に揺れる小花のようで、俺は思わず苦笑する。

こういう純粋さが、彼女の強さなのかもしれない。


だが、次の瞬間、彼女の顔が急に曇った。


「でも……ごめんなさい、黒磯先輩。私、足手まといだったんじゃ……」


天草の声はかすかに震え、まるで自分の存在が消えそうなほど弱々しかった。

彼女の視線は下に落ち、足元の地面を見つめていた。

その背中は小さく、儚い。


黒磯くろいそ風磨ふうまは一瞬、彼女を見下ろして何か考え込むように目を細めた。


やがて、息をつくと、その冷静で荒々しい口調が返ってきた。


「ビビってんじゃねえよ。戦場じゃ誰もお前を守ってくれねえぞ」


その言葉は、まるで氷の刃のように鋭く、冷たかった。

しかし、黒磯の目にはいつもと違う光が宿っていた。


「まあ、俺が隣にいる限り、簡単には死なせねえけどな」


黒磯はぶっきらぼうに言い放ち、何事もなかったかのように彼女から視線を外した。

その横顔は相変わらず無表情だが、どこか気遣いの色が滲んでいる。


天草はその言葉に、しばらく黙り込んでいたが、やがて彼女の目は輝きを取り戻し、大きく開いたまま黒磯をじっと見つめた。


「……ありがとうございます!」

天草は大きな声で、感謝の気持ちをそのままぶつけるかのように叫んだ。

その声には、驚きと喜び、そして安心感が詰まっていた。


黒磯は軽く肩をすくめると、無言で歩き去った。

その背中を見送る天草の表情は、まるで何か大切なものを見つけたかのようだった。


そのやり取りを見ていた俺は、心の中で苦笑した。

黒磯らしいぶっきらぼうな態度だが、あの一言が彼の本心を語っているのは明らかだ。

天草もそれを感じ取ったのだろう。


「だが、忘れるなよ」


黒磯が俺に向かって鋭い眼差しを送る。

まるで、挑戦を突きつけるかのように。


「俺はお前を認めたわけじゃない。本番では、俺が戦果を上げて、お前を超えてやる」


その言葉には、彼の中で燃える闘志が込められているのが分かった。

宣戦布告とも取れるその言葉に、俺はにやりと笑って返した。


「望むところだ」


黒磯は無言のまま、俺を一瞬睨みつけるようにしてから、背を向けて去っていく。

その姿は、冷たく見えるが、実際には彼の中で何かが動いているのだろう。

天草もその背中を少し心配そうに見つめていた。


「黒磯先輩、本当は優しいんですね」


彼女が小さく囁くように言う。俺は肩をすくめて答える。


「どうだかな」


黒磯の本心は、俺にもまだ完全には読めない。

だが、彼が変わり始めているのは確かだ。

次の本番で、彼がどんな姿を見せるのか、今から楽しみでならない。



模擬戦が終わり、訓練場は次第に静けさを取り戻していた。


しかし、その静けさの中にも、次に控える大規模攻略戦への緊張感が空気を張り詰めさせている。

ピーターパン部隊や、他国の精鋭たちが集まるこの戦いは、俺たちの未来を左右する重大な戦いとなるだろう。


遠くから、低く響くエンジン音が聞こえてきた。


「なんだ……?」


俺は振り返り、その音の方向を見る。


黒塗りの大型車が、校舎の外に静かに並んで停まっているのが見えた。

次々と車のドアが開き、紅い制服を身に纏った兵士たちが整然と降り立つ。


「あれは……香港分校の……」


天草が短く呟く。


UNPIS香港分校――ANAT中国支部の精鋭、レイ部隊が到着したようだ。

彼らの動きは、まるで機械のように無駄がなく、完璧に統制されている。


「……すごい威圧感だ」


俺がつぶやくと、天草は軽く頷き、口を開いた。


「ええ。中国支部のエースチームですから。特に雷燦華レイ カンファンさんは、緋野あけの先輩と同じく、ピーターパン部隊に内定してるみたいです」


俺はその名前を記憶に刻み込む。


雷燦華レイ カンファン――中国支部のエース。


紅い軍服の中から、鋭い眼差しを持つ女性、雷燦華が姿を現す。

その隣には、郭亮カク リョウが静かに立っていた。

彼は無言で場を見渡しているが、その静けさがむしろ威圧感を漂わせている。


天草がそっと俺の袖を引っ張る。


「灰島先輩……あの人たち、怖くないですか?」


その声には不安が混じっている。

俺は軽く肩をすくめて、冗談っぽく答える。


「まあな。でも、同時に頼もしいよ。強い連中が味方にいるのは、悪くないだろ?」


天草はその言葉に少し安心したのか、頷いてから小さく微笑んだが、まだ完全に不安を拭いきれていない。


「でも……」


彼女の声が再び沈みかけた時、俺はその肩に軽く手を置き、優しく言った。


「大丈夫さ。俺たちは俺たちなりに、しっかり準備しておけばいい」


彼女はしばらく俺の顔をじっと見つめていたが、やがて安心したように笑みを返した。

その笑顔は、少しだけ光を取り戻したように見えた。


次の戦いが、俺たち全員にとって試練となることは間違いない。

だが、その先にある未来を掴むためには、俺たちは全力を尽くすしかないと強く感じていた。


大規模攻略戦が、近づいている。

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