「天草、左だ!黒磯を守れ!」
「はい!」
俺の指示を受けて、天草がエネルギーバリアを展開する。
敵は拳を弾かれ、一瞬のけぞる。
その隙をついて、黒磯が大剣一閃――敵を葬った。
「いいぞ、天草!黒磯!」
「はい!」
「ふんっ……」
少し戦ってみてわかったことだが、天草の能力はバリアだった。
半径五メートル程度であれば光の盾のようなバリアを展開し、敵の攻撃を防げる。
射程こそ短いが、ほとんどの攻撃を通さないこのバリアは、かなり便利だ。
特に、俺や黒磯のような近~中距離の戦闘スタイルを援護するのにかなり向いている。
「よし、この調子で……って、黒磯のやつ、また前に出過ぎてる」
「もしかして……もうチームプレイに嫌気がさしちゃったんでしょうか……」
「いや、ただ連携になれてないんだろ。ライン合わせの意識がうまくできてないんだ」
「ライン合わせ……」
「ああ、こういう複数人で協力して戦うゲームには、ラインって言う概念があるんだ。ひとりが前に出過ぎたり、ひとりが後ろにいすぎたりすると、援護がしづらいだろ? そうすると、チームの力が発揮できないから、それぞれが援護し合える位置で戦う。これがライン合わせだ」
「へぇ~!勉強になります!灰島先輩!」
俺が天草にラインの意識を共有し終えた頃、不穏な音が聞こえた。
音の鳴った方に視線を向けると、瓦礫の下に潜んでいた敵が飛び出したところだった。
鋭い爪を携えた敵が、黒磯に向かって跳躍する。
だが、彼はまったく気づいていない。
「黒磯、後ろだ!」
俺の叫びは届かない。
黒磯の反応は遅れた。
鋼鉄の爪が彼の背中に迫る。
その瞬間、全てがスローモーションに見えた。
「お願い……間に合って!」
隣から、天草の震えた声が聞こえた。
と同時に、まばゆい光。
彼女が必死に手を伸ばすと、強い光がその手から広がり、まるでエネルギー弾のようにバリアが射出された。
それは瞬時に黒磯の背後に飛び、敵の鋼鉄の爪を弾き返した。
「あれ……なんか飛ばせた……?」
天草は驚いた表情を浮かべた。
自分でも信じられないといった顔だ。
「すごいじゃないか、天草!戦いのなかで成長するなんて!」
「えへへ! でも、気は抜いてられません!」
だが、驚きに浸る暇もなく、彼女はすぐに表情を引き締めた。
自分の力が覚醒した瞬間に気づいたのだ。
彼女の瞳には新たな決意が宿っていた。
「攻撃は私が弾きます!灰島先輩も、どうぞ前へ!」
「ああ、わかった!」
俺は黒磯の援護に向けて駆け出した。
瓦礫の下からさらに敵が湧いてくる。
やつらは鋭い爪を振りかざし、今度こそ黒磯を仕留めようと狙っている。
「ちっ!間に合うか!」
「灰島先輩!止まらずに進んでください!」
天草は全力で叫び、両手を広げた。
再び光のバリアが生成され、射出される。
俺を足止めしようとした鋼鉄の爪はそれにぶつかり弾かれた。
俺は黒磯と合流し、敵の群れを蹂躙した。
「道を開けろ!」
黒磯が怒鳴ると、彼の両手剣が振り抜かれ、一撃で複数のBOTが破壊される。
彼の戦闘スタイルはまさに力任せだが、その力強さには目を見張るものがあった。
しかも速い。一瞬で敵陣に突っ込み、相手を粉砕する姿は、まさに無敵の存在だ。
「黒磯先輩、すごい……!」
天草が驚きの声を漏らしながら、俺たちをサポートする位置に移動してくる。
俺たちが前に出ている間、彼女が背後からバリアを張り、エネルギー弾を敵に向けて発射する。
BOTの一体にエネルギー弾が直撃し、爆発音と共に崩れ落ちた。
「助かるぞ、天草!」
俺は振り返って声をかけた。
「任せてください、灰島先輩!」
その時、さらに大きなBOTが俺たちの前に立ちはだかった。
巨大な鋼鉄の腕が上がり、俺たちに向けて叩きつけられる。
「うわっ!」
俺はとっさに横に跳んで避けるが、その振動で地面が揺れる。
「天草!」
俺が叫ぶと、天草はすかさずバリアを展開し、黒磯と俺を守るようにその場に立った。
鋼鉄の拳がバリアに衝突し、強烈な音を立てた。
その衝撃に弾き飛ばされ、巨大な機械兵はしりもちをついた。
「ふぅ、なんとか持ちこたえた……!」
天草がほっと息をつく。
「天草、そのバリア、エネルギー弾に変換できるか?」
俺は瞬時に状況を判断し、彼女に指示を出す。
「できます!バリアをエネルギーに変えて……」
天草は集中し、バリアを圧縮してエネルギー弾として放つ。
光が収束し、次の瞬間、巨大なエネルギー弾がBOTに向かって発射される。
ボンッ!と大きな音を立てて、BOTは爆発四散した。
「ナイスだ、天草!」
俺は天草のもとへ駆け寄り、ハイタッチをする。
遅れて、黒磯がやってきた。
「天草……さっきは、俺を守ってくれたのか?」
「です!」
天草は少し息を荒げながら、でもしっかりと頷いた。
「……そうか……助かった。礼を言う」
そう言いながら、黒磯は次の敵に向けて駆け出した。
「素直じゃねえなあ。」
「ふふっ、ですね」
天草が微笑みながら言う。
それからはまさに破竹の勢いだった。
俺の攻撃で敵の注意を引きつけ、黒磯が決定的な一撃を加える。
その間、天草は俺たちを守るようにバリアを張り、敵の攻撃を防いでくれる。
三人の力が一つに繋がり、連携が次第に噛み合っていくのを感じた。
「このままいける……!」
俺たちはその流れを保ったまま、さらに攻撃を加速させた。敵の数が減っていくのがはっきりと分かる。そして、ついに最後の敵BOTを倒した瞬間、俺たちの前に静かな勝利の瞬間が訪れた。
「やった……!」
天草が安堵の表情を浮かべながら、俺に微笑む。
「じゃ、最後はせーので行くか」
「いいですね!」
「ふん…勝手にしろ」
「じゃあ行くぞ……」
「「せーの!」」
ぴょんと飛び跳ねる天草。
大剣を担いで首を鳴らしながら歩く黒磯。
俺たち三人は足並みを揃えてクリアゲートをくぐった。