龍崎修一郎指令の低く鋭い声がブリーフィングルームに響き渡る。
全員の視線は一斉にスクリーンに向かい、模擬戦の詳細が説明される中、俺はこれからの戦いに向けて意識を集中させる。
模擬戦の評価基準は、クリアタイム、撃破数、そして連携度。
上位20チームが次の大規模攻略戦に進むことができるという重要な一戦だ。
「今回の模擬戦には全30チーム、計90人が参加する。スコアは撃破数、クリアタイム、そして連携度で決まる。即席のチームでどれだけ動けるかが重要だ」
龍崎指令が説明する。
俺の隣に立っている
天草結衣は、下級生だ。 小柄で華奢な体型に、ふわりと肩まで伸びた明るい茶色の髪を持っている。
大きな瞳が特徴的で、彼女の表情からは常に柔らかい雰囲気が漂っているが、今は緊張でその笑顔も少し硬い。
「がんばろうね、灰島先輩!」
天草は無邪気な笑顔を浮かべながら、俺に声をかけてきた。 その明るさは、この重い空気の中で一瞬だけでも緊張をほぐす役割を果たしてくれる。
「もちろん、頑張ろう」
俺は彼女の言葉に応じて頷いた。 彼女の無邪気さが、俺の中に少しだけ余裕をもたらしてくれる。
「噂は聞いてます! 編入試験での灰島先輩の活躍!」
天草は興奮気味に言い、俺のことを少し持ち上げるような口調で続けた。
「ま、まあな……」
俺はその言葉に照れくさくなり、たじたじとなるが、その瞬間、黒磯風磨が冷たい視線を投げかけてきた。
「無駄口叩いてる場合か?」
黒磯は冷たく一言を放つ。
その厳しい口調に、天草の表情が一瞬だけ固まった。
「ご、ごめんなさい……」
彼女はすぐに笑顔を取り戻そうとするが、黒磯の視線の鋭さに完全には元の明るさを取り戻せない。
「そういう甘さが成績に出るんだよ、天草」
黒磯は続けて、さらに追い詰めるような口調で言い放つ。
その言葉に、天草は肩を落として小さくなってしまった。
「おい、黒磯。そんな言い方しなくてもいいだろ」
俺は反論しようとするが、黒磯は冷たく肩をすくめ、完全に無視を決め込んだ。
「お前も同じだ、灰島。甘い考えで来るな」
今度は俺に向かって冷たい視線が突き刺さる。
確かに、黒磯の言うことには一理ある。甘さは戦場では命取りになるだろう。
しかし、天草に対してそんな厳しい言葉をかける必要があるのか?
「分かったよ」
俺は冷静さを保ちながら短く答え、無駄な争いを避けることにした。
今は、チームとしての連携が重要だ。
個人的な感情を表に出してチームのバランスを崩すわけにはいかない。
「各チーム、準備ができ次第、訓練用SENETにログインしろ」
龍崎指令が号令をかけ、俺たちは割り振られてクレイドルに向かった。
「灰島先輩、絶対に勝ちましょうね!」
天草は元気を取り戻したようで、再び明るい声で俺に声をかける。
彼女の明るさが、俺にとって少しの安堵をもたらしてくれる。
「もちろんだ。絶対に勝とう」
俺は頷き、彼女に同調する。
天草の無邪気さと明るさは、この重い戦闘準備の中で唯一の癒やしと言えるかもしれない。
一方で、黒磯は何も言わずに先を歩いていた。
彼の自信に満ちた態度は、頼りにはなるが、その一方で連携を乱す要因にもなりかねない。
「私、まだ模擬戦の経験が少ないんですけど……できるだけ頑張ります!」
天草が少し不安そうに言うが、その中には強い決意が感じられる。
「大丈夫だ。焦らず、俺たちがフォローするから」
俺は彼女に声をかけ、少しでも安心させようとした。
「ありがとうございます、灰島先輩! 本当に心強いです!」
天草は再び笑顔を見せ、その無邪気な明るさが俺を元気づけてくれる。
彼女の純粋な気持ちが、俺たちの連携の鍵になることは間違いないだろう。
黒磯は前衛で強力な火力を発揮するだろう。
俺と天草は、その後ろで彼をサポートする形になる。
しかし、黒磯の自信過剰な態度が連携を乱さないかが、俺の心配の種だった。
「天草、気を抜かずにいこうな」
俺は彼女に声をかけ、気持ちを引き締める。
「はい! 灰島先輩も、一緒に頑張りましょう!」
天草は元気よく返事をし、その言葉に俺も勇気づけられる。
「よし、行くぞ」
俺は心を落ち着けながら、クレイドルに横たわった。