「では、大規模攻略戦の詳細を発表する」
ANAT日本支部の司令官、
空気が一変し、訓練場にいた全員の視線が一斉に指令に集中する。
「今回の大規模攻略戦には、
その言葉を聞いた瞬間、
「えーっ!
俺はその様子に驚きながら
「郭さん……?」
と首をかしげた。
すると、すぐに隣にいた凪が小声で教えてくれた。
「
「なるほど……」
翠はまるで子供のようにその場でピョンピョンと跳ねて喜んでいる。
俺は彼女のその意外な一面に驚きつつも、どんなに強い人間でも、こういう一面があるのだと少し感心した。
「やったぁ!郭さんが来るなら、私も参加しまーす!」
と翠は勢いよく宣言する。
龍崎指令は呆れた表情を浮かべながら
「お前はもともと参加内定者だ」
と静かに言った。
一方で、俺は自分が誰と組むのかが気になっていた。
大規模な戦いでは、チームの相性も勝敗を左右する要因だ。
「模擬戦のチームを発表する」
と壇上に立つ龍崎指令が告げると、参加者たちの間にざわめきが広がり始める。
次々に名前が呼ばれていく中、ようやく俺の名前が呼ばれた。
「灰島賢、《はいじまけん》……
「天草結衣……知らない名前だな」
と俺が思う間もなく、
「
最後の一名が発表され、意図せず「げっ……」と声が漏れる。
「黒磯か……」
嫌な予感がした。
黒磯との関係は、これまでの模擬戦でもあまり良好とは言えなかった。
力があるからこそ、互いにぶつかることが多かったのだ。
「……黒磯とまた組むなんて、ついてないな」
俺は独り言をつぶやいた。
その言葉を聞き取ったのか、凪が横で小さく笑い声を漏らしながら言った。
「賢くん、頑張ってね。黒磯は実力はあるから、大丈夫よ」
「いや、そうなんだけど……」
俺は少し戸惑いながら答えたが、凪の言葉には彼女なりの優しさが込められていることが伝わってきた。
こうした何気ない一言が妙に心に響く。
「……そうだな。頑張るよ」
そう答えながらも、俺の中にはまだ黒磯とのチームワークに対する不安が残っていた。
その時、遠野が急に口を挟んできた。
「け、賢くん!」
遠野は少し興奮気味で、目を輝かせながら言った。
「頑張ってくださいね!」
遠野はいつも前向きで、周りに元気を分けてくれる存在だ。
彼女の無邪気な笑顔を見ていると、こちらまで勇気づけられるような気がする。
「お、おう」
俺は苦笑いしながら答えたが、心の中で再び気持ちを引き締めた。
彼女たちの期待に応えたいという思いが強くなったのだ。
「私たちも今回は頑張るつもりだから」
凪がふと、真剣な表情に変わりながら言った。
「危険な任務はやらないんじゃなかったのか?」
俺は気になって尋ねた。
凪は少し視線を落とし、ため息をついた。
「本当はね。でも、選抜者は手当がもらえるの。私も美雪も、家族が入院しててさ。結構、治療費かかるんだよね……」
その言葉に、俺は思わず黙り込んでしまった。
凪がこんなに冷静で落ち着いているのは、彼女が一人で多くの重荷を背負っているからなのかもしれない。
彼女は普段、弱音を吐かないし、感情を抑えているように見えることがある。
だが、こうして話を聞いていると、彼女もまた多くの苦労を抱えていることが分かる。
遠野も静かにうなずきながら口を開いた。
「私もそうです。お父さんが手術を受けることになって……だから、少しでもお金が必要で……」
遠野の声はいつもの明るさとは違い、少し沈んでいた。
彼女もまた、普段の明るい振る舞いとは裏腹に、家族のために戦い続けているのだ。
みんな、なにかを背負ってるんだな……。
俺は彼女たちの話を聞きながら、そう実感した。
彼女たちは俺以上に複雑な事情を抱えて、それでも前を向いて戦っている。
それを知った時、自分も負けられないという強い決意が生まれた。
「行くしかないか……」
俺は大きく息を吸い込み、これからの戦いに向けて覚悟を固めた。
凪と美雪がそばにいてくれる。彼女たちも自分なりの理由で、この世界で戦い続けている。
俺も、彼女たちのように強くなりたい――そう強く思った。